店主は着物と雑貨と甘いものが好き




「…………?」
「まだ食べたことない?ロールケーキ」
「ああ、無いな。すごく甘い匂いがする……。菓子、でいいのか?八つ刻の?」
「ん」

微笑ましいなあ。
お兄ちゃんは長期遠征中なんだが、どうして2人がカワイイポイントで居ないんだ?俺がスケジュール組んだからだが悔やまれる。
隣の小豆と燭台切がニコニコな気がするのは、気の所為ではないはずだ。

配膳用の大きなテーブルに乗せられたロールケーキの山。チョコ、生クリーム、抹茶の3種。
好きな味を2個までというルール付き。
ただ、1個がデカいので2個で実質コンビニロールケーキ5個分くらいにはなるだろう。

「好きな味を取りなよ。俺のおすすめは生クリーム」
「そうなのか?……火車切は何が1番好きなんだ?」
「え?ええと、チョコ」
「じゃあちょこと生くりーむにしよう」
「飲み物については覚えているかな?」
「もちろん、長義から教えてもらったからな」
「うん、優をあげよう」
「なんだ、優をくれるのか。……ふふ、長義はもらえるのか?」
「……へえ?俺が欲しいのかな?」

前言撤回。
2週間前の薬研の言葉を覚えている身としてはドキドキの会話をしている。
いや、竜田生駒と山姥切が仲良くなったのは知ってるから、その上で話しているのは分かる。が、なんかちょっと危険な香りがしていて困ります。

「主さん、」
「はい?!」
「グラス片付けて来たよ?そんなびっくりするほどだった?」
「いや、ごめん、大丈夫、ありがとう乱。五虎退も、怪我無いか?」
「はい、すみません……せっかく、あるじさまに買って、いただいた、のに……」
「食べててって言ったんだけど、謝りたいって」

片手に割れたグラスの入った袋と雑巾を持った乱。
おやつの配膳と諸々の手伝いを山姥切と乱に頼んだので、こちらに声を掛けてくれるのは当たり前なんだが残念な事に俺の心臓が不整脈だった。
しゃがんで涙目の五虎退を撫でると、とうとう涙が溢れてボロボロと零れた。
心配そうな虎が周りをぐるぐる回るのを横目で見ながら、俺ももらい泣きそうになって唾を飲み込む。
それはそうだ。
俺が審神者になってすぐの頃。
来てくれたのが嬉しくて、加州と五虎退に最初のプレゼントにしたグラスなんだから。
乱から静かに受け取った。

「うん、怪我無いなら気にしなくていい。……気持ちは分かるよ、ずっと一緒にいたグラスだよな」
「はい……!」

背中を撫でて、溢れる涙を拭う。

「ごめんなさい、……分かって、ます、ものは、いつか……壊れます、から………、」
「そう、だな。今日割れたのも《いつか》だっただけかもしれないな。グラスは俺も名残惜しいけどさ、五虎退が申し訳無く思わなくていい、大丈夫。……そうだ、竜田生駒!」
「?はい、主殿」
「この後少し空きだったと思うけど、五虎退と買い物行ってくれるか?」
「承ります。何をお求めでしょうか?」
「五虎退の新しいグラス」
「っ!あの、竜田生駒さんの、お休み、僕のためになんて、もったいないです……!」

振り返ったら丁度、竜田生駒の皿に山姥切のケーキサーバーで取り分けられたところだった。
泣きながら言い募る五虎退の頭を撫でていると、竜田生駒の柔らかく低い声がかかる。

「俺は五虎退と出掛けられるのは嬉しい、案内してくれるか?」
「あ、あのっ、僕も、竜田生駒さんとのおでかけ、とても嬉しいです……!だけど、せっかくのお休み、いいんですか……?」
「もちろん」
「五虎退、壊れたことも全部大切な思い出になるように、俺が呼んだ1番新しい仲間と一緒に行っておいで」
「壊れたことも……。はい……!」

言ってしまえば、壊れた替わりを買いに行くだけだ。それでも、今までを引き継いでこれからを覚えていることは大切だと思ってる。

「俺も行って良い?」
「良いぞ。火車切も好きなもん買ってきな。あ!良いところに来た!則宗、この後何か用事あるか?」
「ん?特に無いと言いたいところだがなぁ、主は僕に手伝いを頼んだんじゃなかったか?」

……そういえばそうでした。
加州と一緒にここ一月の出陣の不足点洗い出しだけだから本当に軽いやつだけど。

「………それは一旦また明日にしよう。竜田生駒の身の回りの物、五虎退と火車切と一緒に見て来て欲しいんだ。それで皆で喫茶店にでも寄って。金子は則宗と五虎退の端末に入れておくから」
「は、はい……!」
「おお、新入りとお買い物か!分かった」

機嫌良さそうな則宗を引き込んでる間に、五虎退の涙はなんとか引っ込んだらしい。
全員で集合時間を取り決めて、おやつに戻って行った。

「万屋の案内は俺の役目じゃないのかな」
「成り行き成り行き。それにこの後、山姥切には久しぶりに演練入れてるだろ。育成補助役は休みってこと」
「仕方がない、か。……ああそれと、"山姥切長義"が聚楽第の監査官だったって言ったみたいだけど?」

不機嫌そうな声に顔を伺えば、怒ってるというよりはバツが悪いのでツンとしてる感じの顔をしていた。
最近仲良くなった友人に、自分の過去の話がいつの間にか知られてるのは戸惑うだろう。わかる〜!
それに、山姥切なら自分に関する事は間違いや過不足を無くしたいはず。

「言っては無いな。最近、松井と書類仕事手伝ってくれるから過去データ見たんだろ。疲れてるはずなのに、来客対応でも気が利くし覚えも計算も早くて整理整頓上手くて、松井が喜んでた。仕事が出来る」
「なるほど?」
「年度末の締めには大活躍するんじゃないか?」
「全く。主の事だ、あまり心配はしていないけど書類は溜めないこと」
「善処しますよ、監査官殿」
「……監査の時はインフルエンザで寝込んでいただろ」

実は目の前の山姥切は監査官の山姥切じゃなくて政府引換で来てもらった。
監査では優がもらえなかったから。
まあ、当たり前だ。
戦の最前線にいるんだから、防疫含め体調管理も仕事の内。審神者の仕事を平常にこなせない状態では、例え判定のボーダーラインを越えていたとしても優は付けられない。

「苦い思い出だなぁ」
「判定を出しにくいから二度と強行突破しようとしないで欲しい」
「いやだって打刀が来てくれるって聞いたから……、ん?」
「何かな」
「え?!まさか山姥切って監査官殿?!」

ぱち、と瞬きする山姥切が呆れたように溜息を吐き出した。

「なんだ主さん、今頃気付いたの?」
「え、気付いてたのか?!」
「もちろん!皆だって、あの時の監査官だ〜って直ぐ気付いてたよ」
「きみはまれにどんかんだな」
「稀にというか結構だよね。大抵は良い方向に、だけど」

長船太刀の苦笑が背中に突き刺さる。
ええ?初めて言われましたが?
竜田生駒が来てから驚くことが多すぎる気がしますが?
どうしてだよ???











白木の棚に並んだガラスの器。
照明が綺麗に跳ね返って、涼しげな影が落ちているのを五虎退と火車切と一緒に眺めている。

「……ううん、」
「悩むか?」
「えっ、あの、どれも素敵なので、……え、選ぶなんて……」
「もとのは何色だった?」
「透明でした。あるじさまが、好きな色が見つかったら買い替えたりしな、って……」
「なるほど、良い贈り物だったんだな。五虎退は何色が好きなんだ?」
「色ですか?」

少し俯いて落ち込んだような顔をしてしまうので、咄嗟に頭を撫でる。ふわっふわだ。
食器や花瓶までを取り揃えるガラス工芸店の一画で、かれこれ悩んで15分ほど。

「火車切は?」
「俺?……器はまだ支給されたやつで十分」
「そうか」

俺も正直に言えば、どれもこれも支給品で十分のように感じている。
欲を言うなら服が欲しいが、これは本当に俺の趣味だから我慢すべきだろう。戦をしている身であるし。

「どうだ?良い出会いはあったか?」
「良い出会いが多すぎるんだ。則宗さんはどこ行ってたんだ?」
「ちょっと野暮用でな」

小振りな黒い紙袋を薬指に引っ掛けて遊ばせているのを見るに、小間物屋でも行っていたんだろう。

「ビイドロ以外の物も見たのか?薄造りの漆だって良いだろうさ」
「え!し、漆器なんて高価なもの恐れ多いです…!」
「1回見てみたら?」
「かちゃくん?!」
「大丈夫、漆でも拭き漆なら主殿も驚かないだろう。店の者に聞いてみようか」

不用心にも静かに音楽がかかっているだけの店内だったので、店の奥に声を掛けた。
店に出て客を見て、積極的に売り込むか静かに見てもらうかの判断くらいはすべきなのでは……と思ったところで、奥の暖簾から顔を出した男に呆気に取られる。

「宗三?」
「あぁ、久しいですね、紅葉川」

内番用の装いに留紺の羽織りを1枚足した格好で、こちらを見留めて微笑んだ宗三左文字。
今の本丸には居ないが、彼も三好からの旧知だ。

「貴方が買い物とは……くれぐれも気をつけなさい。財政を圧迫しないようにするんですよ」
「な、!」
「おや、竜田はお買い物好きか?」

笑顔の則宗さんと意外そうな顔をした火車切と五虎退が後ろから見てくる。

「いや、ちが……!宗三、昔は宗三と買い物なんてしたこと無いだろう?」
「そうですね……奥方様方の着物や小間物を口説き落としていたくらいしか、僕は知りませんね。出入りの商人の持ってきた帯留めを買わせて」
「口説…?!買わせたなんて、誤解だ。そんなことはしてない……!」
「ふーん、そうなの?」
「ええ、終いには《新しく買った着物や反物は竜田姫のところに一晩婿にやる》と言って松永へ預けたりして。娯楽には丁度良かったですが」

確かにあの頃、俺のところに矢鱈と着物や反物が少しだけ置かれては次、置かれては次、というようになっていた時はある。
どれも染や刺繍に手が込んでいて良いものだったから、無遠慮に眺めて褒めそやしていた。
けれど、そんな、口説いたりなんてしていない、……つもりだ。多分……。
それに、人は俺のことなど見えていないのに、買わせることなんて無理だ。

「誤解だ……。もう、宗三、止めてくれ……」

顔が熱い。
火車切にも則宗さんと五虎退にも、良い刀だと思われたいのに。
本丸に宗三が来たら即刻口止めしなければいけないか。

「誤解なものですか。これに懲りたなら、次は早々に僕の本丸にも来てください」
「え?」
「ああ!なるほどなあ、ここは商いをする本丸なのか」
「竜田生駒は来なかったの?」
「ええ。うちはご覧の通りの本丸なので、多少貴方には有効かと思っていましたが」
「よ、選り好みなんてしていない」
「そんなこと言って貴方、軽装を知ったら飛びつくでしょうね」
「軽装……?」

会計机の向こうから宗三の右手が伸びてきて、「長谷部が寂しがってますよ」と、俺の頬を軽く包んでぽんぽんと撫でる。
完全に子供扱いだ。
それに、へし切長谷部は一切寂しがっていないだろうことだけは分かる。
不貞腐れそうになるのをどうにか抑えて、本来の目的を聞かなければ。

「宗三、それで、商品について聞きたいんだが」
「拭き漆のものと金属製のグラスですか」
「聞いていたのか?」
「ここは音が通りますから。さて、その前に僕のお勧めがありますが、どうしますか?五虎退」
「お勧め、ですか……?はい!見たいです」
「では持ってきますので、そちらに上がって、座って待っていてください」

店の奥にも在庫があるらしい。
後ろ姿を見送って、小上がりの畳へ腰を下ろす。

「本丸にも、宗三左文字が来ると良いな……」
「お?そうだなあ。このところ竜田の旧知であんなに軽口が叩けるのは、上杉の奴らか君たち広光くらいだものな」
「そんなこと、」
「あります……!薬研兄さんだって、少し寂しそうです」
「寂しそう?」

全然分からない。
あれから主殿と一度編成について話したが、結局そのままの部隊で出陣している。調整のために代わることもあるが、山姥切に次いで薬研は良く会う方だ。

「こりゃあ、あれこれには多難だなあ」
「都合が良いかも」
「もう、かちゃくん」

いや多難なのは俺だと思うんだが……。
ここの宗三はああいう感じで茶化してくれたが、今後本丸に来る宗三左文字が、そうとは限らない。

「ご歓談中、失礼します」
「宗三、ありがとう」
「どういたしまして。さ、これが僕のお勧めです」

桐の箱を開けて緩衝材に包まれたそれを丁寧に解いて、静かに五虎退の目の前に置く。

「わあ…素敵なグラスですね……!」
「手にとって見てください。吹きガラスとしては手頃な値段ですが作りがいいですよ」

五虎退の手のひらに乗せると、ころんと収まる。
透明な厚いガラスに牛乳のような白い模様が散って、口周りに金の飛沫が上品に乗っている。

「初雪のようで綺麗だな。丸みを帯びた形が可愛らしい」
「ほら、貴方」
「……?……?!口説いてはいないだろう今のは!」
「どうだか」
「ううん、じじぃから見たら半々と言ったところか」
「え?!」

声色と目線が危ないんですよ、と隣から溜息と共に指摘が飛んでくるが、自覚も何も無いのにどうも出来ない。

「ゆっくり見てください。その間に要望の物を出しますから」
「あ!あの、僕、このグラスがいいです!」
「おや、即決ですね」
「はい」

ふふ、と幸せそうに笑う五虎退の顔を見れば、世辞ではなく気に入っているのが良く分かった。
昔は客のこういう顔を見るのが好きだったな。宗三が会計へ誘導しているのを、ぼんやりした頭のまま見ていると声が掛かった。

「竜田、」
「なんだ?則宗さん」
「お前さんも火車の坊主と何か見てくると良い。折角初めてのお出掛けなんだからな」
「良いのか?」
「うははは!遠慮するな!そら、」

則宗さんに背中をぽすんと押されて、火車切と広い店内を歩き出す。
よく見れば本丸の戻りの土間に似ていた。商いの本丸というのはこういう風に敷地を使うらしい。

「と、言っても、俺もまだ支給されたもので十分なんだが。火車切は器の他には何かあるか?」
「別に特には」
「まあ、無理に買うことも無い。五虎退の会計を待とうか」

こくん、と頷く丸い頭が可愛くて撫でると、驚いた顔でこちらを見てきた。

「あんま無闇に撫でないほうがいいと思うけど」
「嫌?」
「そうじゃない、ただ、……ちょっと、照れるっていうか……」

目線を外してぽそっと呟かれた言葉。
本人とは逆に俺を凝視してくるふわふわ。
かわいい。あまりにも。
早く強くなって給金と休日をもらって大倶利伽羅と火車切と出掛けよう。頑張らなければ。

「かわいい」
「か、かわいくない、」

もう一度撫でようとしたところで、視界に赤いものが入ってきた。

「ん、これ、」
「?なに」
「組紐の、ええと、あんくれっと……足輪、かな」

近付いて見て見れば、好きな色の組紐が選べるらしい。飾りの小さなガラス玉も各刀剣を想定して作っているから、《新作》と書かれたところに俺の色のガラス玉があった。

「お揃いにしようか」
「え、」
「組紐は黒にして、ガラス玉だけ大倶利伽羅と火車切と、俺」

提案すれば途端に明るくなる表情に、俺もつられてしまう。大倶利伽羅はこの刀を前にして、よく平常でいられるものだな。無理だ、俺は。

「主殿はどれほど金子をくれたんだ?俺が使って良い分で足りるか?」
「多すぎなくらいくれてる」
「主殿……」

俺が財政を逼迫させる前に、主が散財しないか心配だ。
宗三のところへ行けば、ちょうど五虎退の手に白い紙袋が渡されたところだった。

「何かありました?」
「宗三、あっちにあるあんくれっと、頼めないか?」
「ああ、あれですか。貴方の分だけで?」
「火車切と大倶利伽羅の分も揃いにしたいんだが」
「はいはい、要望はこっちの紙に。揃えておきますから帰り際に寄っていってください。他にも用があるんでしょう」

極薄い紙に希望の色を書き込んで、控えを貰う。

「ありがとう、宗三」
「いいえ、ご贔屓に」

穏やかに笑う宗三に見送られて店を出て、外で待っていた虎と合流して歩き出す。少しだけ振り返れば、見送ってくれる彼の後ろから小夜左文字が顔を出した。
少しだけ手を振ったら振り返してくれたから、帰り際が楽しみだな。






「さて、竜田は何が好きなんだ?和菓子か?洋菓子か?」
そう言った則宗さんに、まだ良く分からないがロールケーキとカフェオレは好きだと伝えたら、早々に店が決まって早々に席に案内された。
考えていたにしても滞りが無さすぎて、則宗さんがやり手なのが分かる。さすが、隠居と言うだけあるな。
思わず隣に座った火車切を見たら「何?」とでも言うように首を傾げた。

「ここのはティラミスとグラタンが美味いぞ」
「あっ、でも、グラタンは今日はだめです、晩御飯があるので」
「ぐらたんというのは?」

指差されて写真の付いた品書きを見ると、白っぽいところに焼目が付いているのは分かる。五虎退が嬉しそうに説明してくれるのを聞けば、味は分からずとも美味しいものなんだろう。

「じゃあ、また今度一緒に来てくれるか?」
「はい!ぜひ!」

にこにこしていてかわいい。
この刀の長兄として顕現している一期一振と同じ部隊になることがあれば話してみたいものだ。
薬研の事を思えば良い刀派であろうことは分かるが、今のところ怒涛の如く出陣やらが詰まっていて、同じ部隊か山姥切か、近侍殿、江の刀くらいしかまともに話していない。
……さすがに交流不足だとは思う。

テーブルの上でぽんぽこ跳ね回るふわふわを軽く鷲掴みした則宗さんとすら、まともに話したのは初陣の後の手入れ部屋以来だ。
驚いて固まった火車切の頭にふわふわを置きながら注文を済ましているのを見ていると、福岡一文字は人を誑す気質な気がする。
なんとなくだが。

「待っている間に、お前さんにはこれをやろうな」
「は、え、」

黒い紙袋を渡されて驚く。
きっと彼自身のものか、主殿か仲の良い刀に渡すんだろうと思っていた。

「あ、有り難いが、俺は何かを貰うような事はしていない」
「んん?お前さん、打刀が1振増えることがこの本丸でどれだけ大きな事か分かってないな?それに、贈り物っていうのは贈りたいと思った時が贈り時だろう、開けてみな」

どうして贈りたいと思ったのかが疑問だが、折角の贈り物を拒否しては失礼だ。火車切と五虎退に見守られながら包装を解く。
袋と揃いの黒い巾着に入っていたのは、

「髪留め?か?」
「牛革と絹の取り合わせが珍しいだろう」
「わあ、素敵な髪留めですね!」

今している紅葉型のものとは少し違う金具の髪留めだった。黒い鞣し革と赤く染められた絹のリボンが結び目を作っている。

「ありがとう、良いものをもらってしまったな。付けて良いだろうか?」
「良いぞ、それはもう坊主の物だ」

今付けている方を外そうと頭の後ろに両手をやった時、ドロドロと痰が絡んで響くような男の低いつぶやきが聞こえた。
なんだ?後ろの席からか?
あまり気にせず金具を外した途端、後ろから手と髪と髪飾りを丸ごと鷲掴みにされる。

「竜田生駒さん!」
「っ!竜田!」

カップの割れる音と数人が席を立つ音が店内に響く。

「……ぐっ?!」
「竜田生駒!!」
「みつけた……たつた、おれの、たつたいこま、お姫様……ア」

血走った目がこちらを見下ろして、人間とは思えない握力で握り込まれる。
……いや、なんとか身体を捻って見れば手が異様に肥大しているから、人間ではなくなったヒトだったものだろう。
強く握られて、武器としても使っている髪飾りの歯が肌に刺さって血が滴った。

「……どうして、……帰ってきてくれなかったんだ……待ってたんだぞ!!」
「なにを、もしかして審神者か?あなたは、」
「名前!教えただろう!?どうして呼んでくれない!!?好きなものだって用意した!甘いものが好きだって言ったよな!?着物が好きなことも教えてくれただろう!大倶利伽羅の軽装を見てあんなに欲しいとねだったから紅葉柄の西陣だって、落ち着いた大島紬だって買った!白無垢だってある!髪飾りもこんな物騒なもの付けていないで鼈甲の簪にすると良いって、この間贈ったばかりなのに!!こんな!!安物の革の飾りをつけようとして!!!っんふははは、お前は、罪作りだなァ……?」
「は?……っ?!」

不安定な体勢を取っていたので簡単に床へ引き倒された。その勢いで歯が滑ってビチビチという音を立てて皮膚が引き裂かれ、髪が抜ける感覚がする。

「っ!」
「手を離せ!」
「黙れ!!同派だからといって……!ベタベタと……!おれのお姫様に……!!」

ああ、こんな気の触れた男久しぶりに見た。
火車切が鯉口を切る音が聞こえる。この男がまだ人間の範疇であるなら不味い、止めなければ、

「そこまでだ」
「っなに、っぐお!」

途端に離された腕が反射で痙攣するのを無視して半身を起き上がらせる。
色のついたガラス越しに目が合った。

「来るならもっと早く来い、山鳥毛」
「御前……無茶なことを言う」

政府の実動部隊だろう複数人が、卒倒している男を取り押さえて連行していくのを、則宗さんに抱き支えられながら見送る。
店主と山鳥毛が軽く話しているのが聞こえるが、店内は騒々しくて内容は聞こえない。

「大丈夫か?」
「この程度問題無い。分かるだろう?だから則宗さん、汚れるから離れたほうが、」
「お前さん腕が裂けて筋がイカれただろう、ここは戦場でもないのにだ!そんな坊主を放っておけるか?山鳥毛、何か無いか」
「応急処置をさせよう、座ってくれ」
「いや、この程度平気、」
「へ、平気じゃないです!手当てされてください!」
「座って」

怒った火車切とボロボロ泣く五虎退に囲まれてしまえば無力だった。
則宗さんと山鳥毛に抱えられるような形で椅子に座り直して、医療班の処置を受けるが、どうしても居た堪れない。
福岡一文字なんて俺などよりも名が通った名物が目の前で跪いているのだから冷や汗が出る。
腕よりも、周りで聴取を受けながらこちらを見てくる他の客の視線の方が痛い。

「あくまで応急処置だ。すぐ本丸に戻って審神者から手入れを受けて欲しい」
「出血が止まった程度か」
「こればかりは難しい」
「審神者との契約を邪魔できないから、顕現した審神者以外の手入れが入りにくい。分かってる」
「さすが張番だな」

濡れたタオルで拭った手は、傷口がぱっかりと開いたまま血だけが止まっている。

「御前、本丸識別IDを確認したい」
「ああ、これだ」
「……感謝する。先に他の部隊員に説明させておこう。頼んだものは追って届けるが、何か他に必要なものはあるだろうか?」
「特には、ないです。帰る前に、喫茶店にでも寄ってくるといいって、あるじさまがおっしゃってくださって」
「あ、待ってくれ」
「ん?」

俺が被害者の立場だからか、山鳥毛の声色が柔らかい。
ますます【一文字は人誑し】という勝手な想像が固まった。

「宗三のところに頼んだものを取りに行かなければ、」
「後で良い」
「早く帰るぞ坊主」
「怪我を治すのが先です!」

これだけ美しい顔3人で凄まれるのは怖い。
受け取るだけだから問題ないのではないか?こんな程度の怪我はよくあるだろうに、大げさだ。

「宗三左文字……、硝子工房の本丸か?」
「ああ、頼んだものを帰り際に取りに行くようにしているんだが」
「ならば、この喫茶店の品と一緒に届けるように手配をしよう」

控えを渡せば、山鳥毛は軽い挨拶を残して他の政府部隊に戻っていく。
支度を整えて店を出ようとすれば、1振がこちらへやって来た。

「御前!渡るまで送る、にゃ」
「なんだ坊主、山鳥毛と同じ部隊なのか?」
「今日は偶然、合同任務だっただけで部署も違うぜ。……災難だった、にゃぁ、お前」
「いや、むしろ申し訳ない。血を撒き散らすような形になってしまった」

付喪の血なんて厄介だ。掃除の費用がかかるだろう。
そういう事を話しながら歩いていれば、南泉一文字は苦虫を噛み潰したような顔で後ろを歩く則宗さんを振り返る。

「御前、こいつ」
「おお!理解が早いな南泉の坊主」
「大倶利伽羅さんとかちゃくんの兄弟って感じ、しますよね」
「こんなに鈍感じゃないつもりだけど」
「え?は?鈍感?」
「大倶利伽羅も言ってた」
「……は?」

聞き捨てならないことを火車切に言われている。
鈍感だったら三雲とも難なく話せているだろうと思わないか?

「不服そうだなあ、竜田は」
「戦以外の自分のことには無頓着で軸がブレねえっていうのは、周りから見たら厄介だ、にゃ」
「世話焼きが増える要因だがな、広光の刀は気付いてないから黙っておいてやるといい」
「ふふ、可愛らしい方々です」
「…………五虎退さん…?」

俺と火車切が問答している間、何かを後ろで話したのか南泉一文字が俺と火車切に並び直す。
なんとも言えない表情。

「どうかしたのか?」
「いや、なんでもねえ、にゃ。お前、顕現したばっかだろ。育成係とかいるか?」
「ああ、山姥切に世話になっている」
「山姥切?……うるさい方?静かな方?」
「うるさ…?………ああ!そうか、彼には写しがあったか。山姥切長義だ、本歌の」

別に長義はうるさくないので、写しの方が賑やかなんだろうか?
より一層怪訝そうな、変な緊張感を帯びた南泉一文字に疑問はあったものの言及するのも憚れて、そのまま火車切とのんびり雑談をする。
そのうちに転移門に到着して、南泉一文字に別れと礼を告げて本丸へ戻った。

「おかえり」
「薬研?ただいま戻ったが、どうした?」
「どうしたもこうしたも無いんだが……大将が手入れの準備してる」
「ああ、先に政府のが説明すると言っていたか」
「連れてくぜ」

同行していた3振の返事を待たずに、俺の肘あたりを掴んで歩き出す。
手に傷があるのでつかまれた腕がぶらんとなっている。

「薬研」
「なんだ?」
「……別に、俺は問題ないが」
「分かってるところは質が悪い、紅葉」

困った顔で振り向くので、俺も一緒に困ってしまう。
心配をしてくれたんだろう。
それは人間だった俺が分かるが、刀になった俺は分かっていないところだ。この2周間程度を本丸で暮らして分かったことの1つ。
ほとんどの刀は人の身を得て愛着や執着を覚えていくのに、俺は『同じ自分が居て代わりが効く物だ』という状態に麻痺していく。
自分が破壊や、……主殿はしないと思うが刀解されても問題が無いと思う。

「紅葉、」
「うん?」
「あんまり無茶しないでくれや」
「……うん」

今回のは俺が無茶した訳では無いが、言葉の意味と示唆するところは人間の俺が分かる。

「自分は無茶してないって思ってるだろ」
「なんで分かるんだ」
「それが紅葉だからだな」
「?」

そこからなんとなく会話がなくなって、手入れ部屋についた途端放り込まれる。中には主殿がいた。
珍しく他に刀はいない。

「お帰り、竜田生駒」
「ただいま戻りました、主殿。申し訳ありません、不要な怪我をしてしまいました」
「……いや」

何かを飲み込む表情をしてから、主殿は俺を目の前に座らせる。
俺の手を取って、何かを検分しているようだった。

「うん、良かった。手入れはすぐ終わるけど一息ついて欲しい。災難だったな」
「ありがとうございます」
「政府の保全部隊から説明が来てるから、後で話そう」
「はい」

主殿は戸を開きながらこちらを振り向いて、

「大倶利伽羅と一緒においで」

言いながら、大倶利伽羅と入れ替わりに出ていった。
軽い手入れなので座ったまま受けていると、対面の位置に静かに腰を下ろした。
……怒っている。
大倶利伽羅が怒るところなど見たことが無いが、これが「同派だから判る」ということなのか、怒っていることは分かる。

「大倶利伽羅」
「なんだ」
「申し訳無い、不要な怪我をして主殿の手を煩わせた」
「案じたとは、思わないのか」

大倶利伽羅が、俺を?
目を見たら盛大な溜息が返ってきた。

「疑わしいか」
「いや、そういう訳では無い。ただその、…………あまり俺は、名が通った物では無い上に代えが利く、から、と思う、」
「生駒」

言い止めて、息を吸った。
言いたいことは分かる。代わりがいるっていう思考を止めろということ。
主殿は打刀に縁が無い。俺のような刀でも必要とはされているから、怪我に無頓着になるなと言うことも。

「その顔は多少なりとも分かっているんだろう。自覚しろ」
「……難しい、が、努力する。頑張る」
「ああ」

する、と衣擦れの音だけさせながら俺の隣に座り直すので、遠慮なく寄りかかる。

「……火車切が落ち込んでいた」
「火車切が?何故」
「お前を無遠慮に掴んだモノは生成なまなり……鬼の成りかけだったらしい」
「生成り……その、でも、火車切に非は無いだろう。いくらあの刀が火車切だと言えど、あの男は直前まで人間だったはずだ。人外のような気配を感じなかった」
「そう簡単に納得できるものか」
「う……」

確かに自分が火車切の立場だったとしても兄弟とも言える存在を守れなかったのは悔いが残るだろうが、所詮自分の髪飾りで引き裂かれた程度の怪我だ。
落ち込むことなど無いのに。
もどかしさに身悶えて態と大倶利伽羅に体重をかけてしばらくじっとしていたら、手入れが終わった合図の音が鳴る。

「行くぞ」

隣に座っていたまま腕を回してきた大倶利伽羅は簡単に俺を引き上げて立たせた。
……別に俺は重い刀ではないが、重ねて鍛錬も頑張らねばいけないな。
手入れ部屋の戸を閉めて濡れ縁を歩いていれば、向かいから長義が早足で歩いてくる。

「長義、戻っていたのか」
「竜田生駒!」
「え」

声を掛けた途端にギュウギュウに抱きしめられて驚いた。すぐに身を離して俺の腕を掬って検分している。

「長義?」
「鬼には掴まれただけかな?特に障りは見えないけれど、何か呪いをもらったりしていないね?」
「特に無いと思う」
「良かった……」

俺の育成補助係として様子を見に来てくれたんだろう、良い刀だ。彼も異形切の刀であるし。
皆、大袈裟だけれど気を配ってくれるのは純粋に嬉しい。

「今日は気にせずゆっくり休むと良い。また明日から励むんだよ。今度は出掛けて怪我をして帰って来るなんて事がないように」
「ああ、ありがとう。またよろしく頼みます、育成係殿」
「っふふ、よろしく、新人くん」

心配そうな顔から涼しげないつもの山姥切長義に戻ったから俺も少し安心する。
皆心配しすぎだ。
稽古場へ向かうらしい長義と別れ、そのまま主殿が待っているらしい離れの書庫へ。

「距離が近い」
「長義か?大倶利伽羅が遠いんだと思うが」
「…………」

見れば、腑に落ちたようなそうでもないような顔。馴れ合わないと宣言している自分の距離感に自覚が無いのか?
まあでも、この刀はなんだかんだ優しいが故に、踏み込まれたら完全な拒絶が出来ないだろうということは分かる。この本丸では特に、なし崩しになるだろうから感覚が不安定でも仕方がないか。

「主殿、参りました」
「お、来たな。こっち」

書庫に着くと加州が出迎えてくれた。
案内された先で、主殿は柔らかな夕日が差し込む窓際の、大きな綿入りの椅子に座っている。
ここは様々な1人用の椅子が乱雑に置いてある場所で、そこにある背の高い細身の椅子に、加州は浅く腰掛けた。

「長くはならないけど、好きなソファにでも掛けてくれるか」
「はい。……大倶利伽羅?」

本棚に軽く寄りかかったままこちらを見た後に目を伏せるので、座るつもりは無いんだろう。

「保全部隊からの報告だと、竜田生駒を襲ったのは鬼に成りかけの男だったらしい。残念だがもう戻すことが出来ないから、政府で処刑、まあ、言ってしまえば死刑という事になる」
「死刑……?そ、そんな、あの男は審神者だったのでは?」
「だぁから質が悪い。戦の前線で指揮を執る人間が鬼に堕ちたら配下の刀剣に直に影響が出るでしょ?所有の刀剣は契約解除と縁切りをして聴取の後、適宜処遇が決まる予定だって」

総刀剣数82、就任から5年。
そう短くも悪くもない審神者だったらしい。

「……あ、その、……俺が、いけなかったのでしょうか……?」
「生駒」
「だが、」
「竜田生駒!止めろ」
「っ、」

大倶利伽羅に反論しようとすれば、主殿から止められてしまう。
普段から穏やかで気さくな主殿からとは思えない鋭い声色だった。

「竜田生駒、お前がすごく人間に近い雰囲気と感覚で居てくれるのには助かってるけど、そういう考え方は良くない。あの審神者、《鬼》はね、どうしてもお前が欲しくて陰陽道の禁呪法に手を出した。それは審神者が絶対にやってはいけないことだ。例え、どんな刀剣が欲しくても、どんなに勝ちたくても」

裏を返せば、何かしらの禁じ手を使えば手に入る可能性があるということだった。
主殿には打刀の縁が無いが真っ当に成果を上げている。
自制心と判断力という、将として欠かせない力が主殿にはあるから己を見失わない。

「申し訳、ありません……」
「いいや、ごめんな。声を荒げて。説明する義務があるから言ったけど、ショックだよな。でも竜田生駒のせいでは絶対に、無いから」
「あーあ!ほんと、政府も悪くない?竜田生駒に掴みかかるまで泳がせておいたらしいよ。結局捕まえるなら、すぐ捕まえとけって」
「あの審神者の刀剣から告発があった段階で呪法の進行度も何もかも手遅れだったらしいからな……。竜田生駒に変な呪いが掛けられたり攫われたりしなかっただけ、及第点てところじゃないか」

重い溜息を吐いている横で、加州が手元の端末を見ながら軽く呟く。

「手の皮膚が裂けて筋イカれたのを《だけ》って、主、図太くなった?」
「そう思わないとやってられるかこんな……」

主殿の目線が加州の端末に向いた。
多分、俺には言えない事があるんだろう。恐らくそれは悪いことだ。

「つまり、竜田生駒が感じてる以上に凄くマズかったんだ。直る怪我で帰ってきてくれて良かったと、心から思うよ」
「そうそう!だから、薬研とか山姥切とかに『心配しすぎだ』とか言わないでやってよ」

だからあんな態度だったのか。
でも、心配しすぎだとはやはり思ってしまう。

「じゃ、これで終わり。則宗たちが心配してたから、声かけてやってくれるか?」
「はい、礼もしなければいけません」
「ちょっと怒られるかもな」
「え?」
「はは、嘘、多分大丈夫」

多分?
明るく言っている主殿には悪いが、半信半疑で大倶利伽羅と書庫を出た。

「竜田生駒さん!」
「五虎退……火車切?」
「あのっ!ティラミス、食べましょう!山鳥毛さんが、多めに追加してくれたので、大倶利伽羅さんも……!」

中庭を挟んだ向こう、執務棟の濡れ縁から呼ばれて、そういえばそうだったと思い出す。
良かった、怒られはしないみたいだ。

「だそうだが」
「いや、俺は、」
「大倶利伽羅!竜田生駒!飲み物何がいい?!用意しとく!」

少し固まる大倶利伽羅に、火車切にはちゃんと弱いみたいで安心した。
溜息と共にぽそっと呟かれた内容を叫び返す。

「火車切!俺はカフェオレがいい!あと麦茶!」

笑って踵を返した2振を見届けて、自分は一度着替えてから向かおうと自室へ歩き出す。
少し、疲れたかも知れない。
どこにでもおかしな客は居るもんだが、人間じゃなくなるっていうのは恐ろしいことだな。
人のことは、言えないが。

「生駒」
「なんだ?」
「髪飾りはどうした」
「ああ、喫茶店で外したんだ。則宗さんが髪飾りをくれたから、付けてみようとしたところで掴まれた」

血で汚れたのでしまっていたが、手入れを受けて元に戻った金の紅葉を取り出す。
梵字が音を立てて揺れた。

「……ん?」

後ろへ立った大倶利伽羅が、俺の髪を掬って簡単にまとめ始める。結い直してくれるのか。
遠慮なく紅葉を渡せば、髪に差し込まれる感覚。金具が閉じる音がした。

「ありがとう、大倶利伽羅」
「不用意に外さないことだな」
「守りだからか」
「ああ」

特に彫り物がある訳でもない俺に梵字が付けられたのは、所有者が寺だからと思っていたが、どうやらそれだけでは無いんだろう。
出陣の時は元のにして、則宗さんから貰ったのは大切に休みの日に付けるようにしようか。
梳くように髪を撫でた大倶利伽羅を撫で返すと擽ったそうに少し目を眇めたのが、どこか猫のようでかわいい。
こんなに同派に愛着が湧いて良いんだろうか?

「大倶利伽羅も着替えてから行くのか?」

歩き出した彼に声をかければ目線だけで返事が返ってきて、判る事に嬉しくなる。
ずっと、刀になってから人を斬ることや様々な所を転々とすることに荒ぶ心は埋めようも無かったが、ここでは虚無感のような意識を味わうことは無いだろう。
良かった。
本当に。
これから主殿と仲間と時間を過ごせる。
どんな事があってもきっと、大丈夫。

俺は、紅く染めるのが得意なんだから。










「……参ったな」
「ほんと気色悪い。でもこういうのに好かれそうだよな、竜田生駒って」
「止めてくれ加州、縁起でも無いから」
「ごめん、主」

出ていった広光の2振りを見送って、ドッと精神的な疲れが押し寄せてきたのでソファに沈み込む。
生成りの男が行ったのは外道の法だ。
生きた贄が必要だった。

「《生きた》、ねえ……」
「その本丸の刀が贄として機能したのはさ、俺たちは生きてる判定なんだーって思ったけど、どう思う?」
「……生きてるよ、俺の、大切な仲間なんだから」
「ちょっと大丈夫?本当に参ってるじゃん」

首だけ動かした。
ぎこちない竜田生駒と少し気遣わしげな姿が脳裏に思い浮かぶくらいには、2振を見ている。
荒療治がてら初陣と編成を変えずに出陣していれば、2振が元は仲が良かったんだろうことは察せたから余計に辛いのだ。

俺は刀の経歴はほとんど本人から聞く。
だけど調べれば情報は転がっている上に、竜田生駒が早くに拾えた審神者からの報告も早々に上がるから、あの生成りがイイように縁を利用したことが窺えた。

優しい実休光忠を贄にして。

「ん?あ?」
「どうした加州」
「え、主さあ、なんかやった?」
「いや、何も」

端末をスクロールする加州の顔色が困惑で染まっていく。

「なんか、監査入るって。近日中」
「…………は?!?!」

おい待て多難すぎるって!!






continue.