スイートハニー
 時として、男の方が損しているんじゃないかと感じる時がある。今もまさにそうだ。
 高校の頃から付き合っていた彼女と遠距離恋愛を始めて約二年が経った。
 大学での生活やバイトをしながら過ごしていると一日はあっという間で、家に帰ればベッドに潜り込み泥のように眠るだけ。
 それでもたまに、心と体に余裕のある日は彼女とメールや電話はしていた。
 それがつい二週間ほど前から、毎日のようにきていた電話やメールがぱったりとやんでしまった。理由は分からない。
 二週間前にした最後の電話でも喧嘩はしていないし、寧ろ彼女は上機嫌だったはず。理由がまったく見当たらないのだ。
 女心は時に難解だと聞くけれど、まさにそれだった。
 特に俺の彼女、リオは思っていることがすぐに顔に出てしまうくらい素直で分かりやすかっただけにこんなのは初めてで、俺自身も対処の仕方に悩みが尽きなかった。

 洋食屋でのバイト終わり、俺は携帯画面と睨み合っていた。
 ロッカールームで暫く突っ立ったままでいると、ちょうどバイトを終えた俺より一年先輩の従業員がドアを開けて入ってきたのに驚いて、慌てて鞄の中に携帯を乱暴に突っ込んだ。

「よおヒロキ、まだ帰ってなかったのか」
「ああ……はい」
「何だ、彼女にメールか?若いねえ」

 そう言って、先輩はロッカーの中にある自分の鞄から煙草を取り出して吸い始めた。
 前にバイトのメンバーで飲み会に行った時、最年長だからと先輩が支払いを済ませてくれていたことから推測すると俺より年上なのは確実だ。

「先輩、ここ禁煙なんですけど……」
「んな堅いこと言うなよ、お前がチクらなきゃ分かんねえことだし」
「煙草の臭いでバレると思いますよ」
「窓空けときゃ何とかなる」

 予想通りというか、見た目通りの大雑把な性格らしい。
 口も悪いしいい加減だけど、何故か従業員から慕われているのが最大の謎だ。

「で?彼女に何てメールしたんだよ」
「いや、メールはしてません」
「じゃあ何でこんなとこでいつまでもグズグズしてんだ?」
「ちょっと、色々あって……」
「ほおー恋愛の悩みか……聞いてやるよ」

 と、何故かノリノリでしかも上から目線な先輩は煙草を灰皿に押し付けてから、ロッカーのすぐ横にある休憩スペースに俺の腕を掴んで移動させると適当なパイプ椅子に座らせた。
 まるで逃がしてやらねえぞとでも言われんばかりの行動力に俺の足は今すぐここから逃げ出したい衝動にかられた。

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