あと1秒だけ、
ボクの隣で。
『葉くん、私ね、実はやり残したことがあってこの世界に留まってるの』
『やり残したこと?』

 問い掛けた僕に可奈子はにっこりと微笑む。

『高校生の今しか味わえない、青春。それが私のやりたかったこと』

 その言葉を聞いた瞬間、自分でも不思議なほどに彼女に興味が湧いた。誰に対してもこんな気持ちになっことはなかったのに。
 死んでもなお、制服のまま青春に囚われ続ける女の子。可奈子。
 けれど僕には一つ問題があったのだ。彼女の言った青春、心残りで幽霊になるほど焦がれたそれは、僕には一番程遠いものだった。

 だから正直、卒業式を迎えた今、可奈子の望んでいた青春の日々を与えてやれたのか僕には全然自信なんてないし、そもそも可奈子の望みを叶えてやるなんて一度たりとも言った覚えはない。
 それでも可奈子は毎日のように僕の傍にいた。そしていつも楽しそうだった。

 今となってはこうして近くにいることが当たり前のようになっているけれど、最初の頃は面倒で、付き纏われるのが迷惑でしかなかった。だから喧嘩もした。酷い言葉を可奈子に浴びせたこともある。
 だけど可奈子は泣かなかった。ただ静かに、語ってくれた。

『私が生きていた頃、ずっと学校に行きたくて、だけど体が弱いからいつも病院に縛り付けられていたんだ』と、彼女の内に秘められた青春への憧れを聞いた。
 それから僕達は仲直りをして、少しずつ、少しずつ、時間を過ごしていった。
 時に可奈子に振り回されたり、逆に振り回してやったり。ぶつかったり怒鳴ったりして口も聞かない時期があって、また仲直りして。その度に、可奈子の笑顔が増えていった。それが僕にとって、ちょっとした喜びだった。

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