02




承太郎がホテルに戻らなくなって3日が経った日の事だった、その日の昼から雨が降ったのだ。

「こんなチャンス、逃がすわけにいかないでしょ」

冷蔵庫から出したばかりの冷えた血液パックを飲み干して、勢いよくゴミ箱に投げ捨てた。吸血鬼と言えども血以外も食せるというのに、承太郎というやつは冷蔵庫を血液パックでいっぱいにして出て行きやがった。食事というのは楽しく美味しくいただくものなのに、こんな0型の血液パックじゃあ楽しくも美味しくもない。それどころか食欲も唆られやしない。せめてA型にしてほしい。東方仗助の顔を拝んでいろいろ満足したら承太郎に高級ステーキを奢らせてやる。そう決意して呼んでおいたタクシーに乗り込み、承太郎から以前聞き出しておいた東方仗助の家の住所を運転手に伝えた。











東方仗助の母はその後誰かと結婚することもなく支援も特になく1人でここまで育て上げ、祖父との3人暮らしと聞いていたが意外にも立派な一軒家であった。田舎の土地代は安いんだと言っていたジョセフの言葉は本当だったのだな、などと感心しながらタクシーから降りる。雨だと解っていたのに東方丈助に会える興奮で傘を忘れてきたため、玄関口まで小走りで行ってみるものの、この土砂降りの為しっかり濡れてしまった。風邪はひかないから別に構わないんだが、服が肌に張り付いて気持ち悪い。また承太郎に買わせよう。

人の家に尋ねる、という事がほぼない私はとりあえずドラマで見たインターフォンなるものを探す事にした。数秒扉の周りを観察して白いボタンを見つけ押してみることにした。

ピンポーン…

ドラマで聞いたことがある音がなり、胸を撫で下ろす。昔はノックで良かったのに最近は発達しているものだ。

「はーい…どちらさん、スか?」

なんて感心していたところ、この家の持ち主が扉を開けてくれた。特徴的な髪型、オリジナルに改変された学生服、承太郎より一回り小さい男の人が出迎えてくれた。

「wow! 貴方が東方仗助なのね?」

「そうッスけど…そういうアンタは、」

疑いの目を頭のてっぺんから足の爪先にまで向ける東方仗助に反して私は目を輝かせた。やっとだ、目的だった人に出会えた。ジョセフの息子だなんていうから若かりし頃のジョセフによく似ているのかと思っていたが、母親の血を濃く受け継いだらしい。それでも瞳の奥にどことなくジョセフを感じて、思わず口角が緩やかに上がった。

「私は東雲乃亜しののめのあ。承太郎はここにいる?何も聞いてないかしら」

「承太郎さんの知り合いッスか?中にいるけど、なんも聞いてないッスね、とりあえずどうぞ」

承太郎というワードが出たからか、警戒の目が解けて家に入れてくれた。濡れているからとタオルを取りに行ってくれた。なんだ、想像しているより常識人だ。取りに行ってくれたタオルを有難く受け取り、承太郎の居る部屋へと一緒に向かう。

「東方くん、今日学校は?」

「アンジェロが俺と承太郎さんに目を付けてたもんで、休んで今日カタをつけてきたところッスね」

アンジェロ…?と首を傾げたところ、東方仗助の祖父を殺した男らしい。脱獄した死刑囚とも言っていたので、承太郎が言っていた町に潜んでいる男のことだろう。祖父が死んだばかりの彼にとっては複雑な気持ちではあると思うが、こんなに早く町に平和が訪れてなによりだ。


「…乃亜、」

案内された部屋に入ると承太郎がソファーに腰かけて珈琲を啜っていた。この人ときたら、またカフェインを摂取している。身体に良くないなどと思いつつも今はそれよりも伝えたいことがあった。

「承太郎ったら酷い。マトモなごはんも置いてかないクセして3日も放ったらかしにするんだから、私死んじゃうところだったわよ」

退屈で、と心の中で付け足して舌を出す。それを聞いた東方くんが、「ええ!」と驚愕の声をあげた。

「3日何も食ってないんスか!?俺飯とか作れないんで、早くなんか食いに行った方が…」

「落ち着け、仗助。コイツは人間じゃあないから、飯なんか食わなくて済むんだぜ」

「に、人間じゃあ、ない…?」

承太郎に飲食店に行くように促した東方くんを宥める承太郎。その言葉を聞いて何を言っているのか解らない、と言った顔をしてこちらを見た。私はどこをどこから見ても人間だし、傷を付けても血は赤色だし涙も出るし汗もかく。パッと見はただの人間の女なのだ。

「東雲さんが、外国人だから人間じゃあないって言うなら承太郎さん、相当酷いッスよ」

「いやそうじゃなくてだな…」

「私、吸血鬼なの。承太郎の言う通り人間じゃあない」

説明をしようとする承太郎を遮ってサラリ、と答えてしまえば、顎が外れるんじゃあないかってくらいに口を開けてマヌケな顔をした東方くんがいた。

「そうだ、乃亜は吸血鬼だ」

「ふふ、それに私外国人の血を引いてるし育ちも外国ではあるけど、名前が漢字だしもろ日本人でしょ」

口をぽっかり開けていた東方くんは1度キュッと口を閉じて、自分用にと珈琲をカップに注ぎ、ひとくち飲んで深くため息を吐いた。

「にわかには信じられねぇッスけど、承太郎さんが言うんなら、東雲さんは吸血鬼、」

「そう。だからこの3日間、冷蔵庫に入ってた血液パックしか飲んでないの、承太郎ってばほんとに酷い」

「飯くらいルームサービスをとればいいんだぜ、あと困ったことがあったなら電話してくれ」

承太郎も東方くんのように珈琲を飲んでからため息を吐いた。

「まるで私が悪いみたいな言い方をするけど、電話の仕方もルームサービスのとり方も教えてくれなかったのは承太郎でしょ。いつもはジョセフかお付きの人がしてくれるから、やったことないもの」

なんて言えば承太郎が呆れたような顔をしてこちらを見るので、それを無視するように「東方くーん、私にも珈琲ちょーだい!」と珈琲を頼み、カップに暖かい珈琲を注いでもらう。

「砂糖とミルクはどうするんスか」

「角砂糖5つとミルクは小さじ2杯」

「甘ったる!もう珈琲じゃない。ところで東雲さんは、承太郎さんとどういう関係なんスか?」

なんて文句垂れつつちゃんと注文通りの珈琲を作って手渡してくれる。

「ありがとう〜。私はジョセフの家に居候してる吸血鬼で承太郎は聞いたと思うけど、ジョセフの孫で東方くんの甥にあたるの」

風味だけ珈琲の甘くて喉を締め付けるような液体をひとくちいただいてから質問に答える。

「居候…」

「本来人間ならもう死んでいるから戸籍もないし働けっこないわ、それに労働って苦手なの。縁があってジョースター不動産の社長と知り合いだったから」

「死んでるって…いくつなんスか、」

「あら、レディに歳なんて聞いちゃだめよ」

「仗助の父親の祖父の代からコイツは生きてるらしいぜ」

上手く言い逃れたつもりなのに承太郎がサラリと言ってしまうものだから東方くんのせっかく塞がった口がまたあんぐりと開いてしまった。

「ババア、なんて言わないでちょうだいね」

「いや言いませんけど、めちゃくちゃお綺麗なんで…なんつーか、」

「吸血鬼って老いを知らないし…不老不死ってやつ?私はお天道様の下を短時間なら歩けるし弱点が一切ないタイプだからどうやっても死なないの」

貧困街でディオ・ブランドーと出会ったまだティーンだった頃を思い出し、その思い出と共に残りの苦い珈琲を飲み干した。









愛の傷は治らない
Endless Dream