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「ところで承太郎〜?お腹がすいちゃったの、なんか食べに行かない?東方くんも一緒に、ね?」

東方くんに伺うように首を傾げれば「俺はいいッスけど…」と今度は東方くんが承太郎を伺うように目を向けた。

「すまない、俺はこれから調べることがあるから2人で行ってきてくれ」

そう言って承太郎は「乃亜を1人で出歩かせるんじゃあないぜ」と怖い目で東方くんに現金を渡していた。現金を渡すや否やすぐに出て行ってしまう承太郎。

「なんか承太郎さん、おっかなかったッスね…」

「私、お天道様の下を歩けるって言ったけど晴れてる日は長くても10分しか立っていられないの。雨が止んでしまっているし、晴れるのも時間の問題だから、万が一倒れた時側にいて介抱してほしいの。救急車呼ばれると吸血鬼ってことがバレて夕方のニュースに出ちゃう」

東方くんは納得したように唸りに近い返事をして「じゃあとりあえず飯食いに行くッスか!」と仕切り直して、東方くんがよく行くというカフェに連れて行ってもらうことになった。










「わぁ、テラス席もある素敵なカフェなのね!」

「まだ曇ってるけど怖いんで、残念ながら中で食うッスよ」

曇りなら何も気を使わなくてもいいのに、彼がそうしないと落ち着かないのだろうと思い、素直に従って店内の2人掛けの席に座る。サラッとソファー席を譲ってくれるので、女の子慣れしているのだろうな、まあジョセフの息子だしなどと思いながら差し出されたメニューを受け取って拝見する。

「東方くんのおすすめはどれなの?」

「俺は珈琲とケーキが1番おすすめなんスけど、腹減ってんならガッツリ肉とかどうよ?」

そう言われて私は承太郎にステーキを奢ってもらうんだったと思い出した。

「そうね、ステーキ食べたいんだった。置いてあるかしら…」

メニューを捲ってステーキを探す。すると東方くんがこっちの方にあるとメニューの一点を指差して教えてくれる。とても美味しそうだ、食欲を掻き立てられる。やはり、食事はこうでなくてはならない。

「美味しそう、私はこれにする。東方くんは決まった?」

「決まってるんでオーダーしちゃってもいいッスか?」

「えぇ、お願いしたいわ」

そして東方くんはウェイトレスを呼び、自分のものと私のものを注文してくれた。ウェイトレスは、かしこまりましたと腰を折り厨房の方へと消えていった。

「日本人ったら、丁寧よね」

「そうッスかねぇ?」

いつも食事するレストランはジョセフいきつけの所謂高級なとこなので、ああいった丁寧な対応はよく見かけるが、民衆向けの飲食店はみんなフランクであんなに腰を曲げてお辞儀するウェイトレスは見たことがない。

「そうよ、東方くんも丁寧だもの。嬉しいけど壁を感じちゃってなんだか寂しい」

「え!いやそんなことねぇぜ!」

頬杖をついてあからさまな態度をとるとテンパっている東方くんが面白くて自然に口角が上がるのを感じた。

「ふふ、嘘よ、嘘。東方くんってば面白いんだもの。ついからかっちゃった、ごめんね」

東方くんが一緒に頼んでくれたであろう珈琲が届き、ティーカップを受け取りながら言うと少し不貞腐れたような東方くんがいた。

「東雲さんはなんか大人ッスね〜。承太郎さんの方が大人っぽいけど」

承太郎よりもうんと長く生きている筈なのに、承太郎の方が大人っぽいと言われることに否定ができない自分がいた。なんなら今回、保護者として面倒を見てもらっているので、その言葉が不服でも何も言い返せない。

「あの人は冷たすぎる…ってこともないけど、不器用なの。幽波紋スタンドは精密な動きができるけど…。東方くんはどんな幽波紋スタンドなの?」

「俺のクレイジー•ダイヤモンドは、簡単に言うと壊れたものを直す、生命の傷を治すことができんだけど、東雲さんは幽波紋スタンド使いなんスか?」

吸血鬼なのに、と付け足す東方くんに最もな疑問だねと笑う。

「一応ね。でも使うことを基本的に禁じられているから、お目にかかることはないんじゃあないかしら」

代償を伴う私の流星メテオールは、お天道様の下を歩けるようにしたのを最後に使うなと大事な人達に言われ苦渋の決断をし、今後使用しないと約束した。

「禁じられてるって…承太郎さんとか?」

「うん、承太郎を筆頭にいろんな人から。使うとお前は無茶をするんだ〜って、吸血鬼だから死なないのに」

珈琲の水面に映る自分の顔を消すように角砂糖をぽとりぽとり落として、スプーンでぐるぐるに混ぜる。

「それって…」

「あ!そうそう、乃亜でいいよ、皆からそう呼ばれてて東雲って言われてもピンと来ないの〜」

母方の姓をずっと名乗ってはいるものの、呼ばれたことがほとんど無いので、自分が呼ばれている筈なのに反応がワンテンポ遅れてしまう。

「じゃあ俺も仗助でいいっスよ」

「うん、ジョースケ、」

少しカタコトで話せば、仗助はふはっと楽しそうに人懐っこい笑顔を見せた。それに可愛いななんて思いながら、喉に絡みつく甘い珈琲を飲む。

「仗助は彼女とかいないの?」

そう言えば先程女の子慣れしているのだろうなと気になったことを思い出して、聞いてみる。承太郎だって学生の時は通学時ずっと女の子に囲まれていたくらいだ。ジョースターの血をひくものは顔がとても整っていて、それは仗助も例外ではない。彼女のひとりやふたりいてもおかしくはないのだから、今私とここにいるのはまずいんじゃあないのだろうか、急にそんな不安が押し寄せてくる。やっぱり、承太郎も連れてくるべきだった。

「彼女はいねぇッス」

仗助の意外な言葉に目を丸くする。でも承太郎もモテていた割には彼女を作っていたイメージがないのでそんなものなのかと思うことにした。

「そうなんだ、最近の学生ってそんなもんなのね」

承太郎を最近の学生としてカウントしてはいけないのだろうけど、私の知ってる学生はたかが知れていて情報が少なすぎる。

「乃亜さんは?」

「吸血鬼って聞くと純愛って感じがするけど…今はないかな」

昔は、あったなと視界の端でチラつくブロンドがやけに主張していた。

「承太郎さんとかはどうなのよ」

急に承太郎が出てきて珈琲が変な所に入りそうになって噎せる。軽く咳をすれば、仗助が心配そうに声をかけてくれるが元はと言えば変なことを言う仗助が悪い。

「承太郎は…結婚してるし、何よりそういう目で見たことはなかったかな。承太郎が赤ちゃんの時から知ってるし」

昔は可愛かったのに今じゃあ私の保護者ヅラをしやがるけど、大事な人だ。今も昔もこれからもそれは変わらない。

「見た目が見た目なんで忘れるんスけど、そうだったぜ…」

なんとも言えない顔をして仗助はいつの間にか届いていたケーキをフォークに指して頬張っていた。可愛らしい。

「仗助クンは、どんな子と付き合ってどんな家庭を築くのかな。それが楽しみ」

不老不死のいい所なんてそれくらいだ。ほかは結構不便で、ジョセフがいなかったら今の暮らしはなかったと思う。

「そうっスねぇ…」

ぽつり、呟いた仗助の瞳の奥にギラギラとした光が見えたのをステーキが届いたことにより、私は気づかなかった。




愛の傷は治らない
Endless Dream