05



タクシーをつかまえ何事もなくホテルに戻ると、承太郎は1人掛けソファーに腰をかけて資料を見ているようだった。

「ただいま、なにしているの?」

承太郎の座るソファーの肘置きに座り、その資料を覗き込む。その資料には奇妙なことに右手と右手をもつ老婆と、古そうでいて高級感を放つ弓と矢が載っていた。

「これはなぁに?」

「……今日仗助と共に相手していたアンジェロから聞き出した情報だ、弓と矢をもった学生服の男がいるらしい。おそらく幽波紋スタンド使いだ、気をつけろ」

資料を机に軽く投げるようにして置いた承太郎は深くため息を吐いた。

「また忙しくなるの?」

「少しばかりな…暫くホテルに篭っていてもらう。安全が確保されるまでは」

「嫌よ、承太郎が帰ってこないホテルで1人延々とここにいたら気が狂ってしまうもの、私も何か手伝う」

帰ってきたにしても寝て起きてすぐに出ていくだろう。折角日本に来ているのにホテルに籠っていては何も楽しくない。

「だめだ、今はお前に手を回せるほど余裕が無い…お利口にしていてほしいんだぜ」

まるで子供を宥めるような、「お菓子を買ってきてやるから、な?」とでも言いそうな口調に、また私は蚊帳の外なのか、と昔エジプトに向かう旅に同行させて貰えなかったことを思い出す。しかも旅の内容も大して教えて貰えず、承太郎の母であるホリィの薬を取ってくると言って1ヶ月以上帰って来なかったし、病気が移るといけないとホリィと顔を合わすことも出来なかった。旅から帰ってきてもみんなよそよそしく、日本の観光なんてしている暇もなくジョセフと共にアメリカに帰ったのだ。今回もそうなるのか。

「承太郎は、そんなに私が信用出来ないの?」

せめていつも悩んで落ち込むこの種の答えが欲しかった。承太郎は顔を上げて数秒こちらを見つめてからまた下を向いた。エメラルドグリーンの目がゆらりと一度揺らいでいたようなそんな気がした。

「決してそういうわけじゃあないんだぜ。さっきも言ったが、お前を守れる程余裕が無い。何かあったらあのジジイが黙ってねぇだろ」

「絶対死なないのに、何があっても治るのに、守る必要なんてあるの?」

何度も何度も思っていたことがぼろぼろと溢れ出す。承太郎よりうんと長く生きている筈なのに自分が聞き分けのない子供のように見えてきて虚しい気持ちにもなる。

「乃亜、お前の精神面を心配しているんだ。お前はまだ何も分かっちゃあいない。それがわかるまでお前は目のつく安全なところにいてくれ」

しゅんとした私の頭をぽん、と一度撫でるように手の平を置く承太郎。

「でも承太郎、1人でここにいるのは寂しい。」

「仗助と一緒なら好きなとこに行ってこい。俺はお前に構ってやる時間がないんだ、すまねぇな」

頭の上から手を退け、また資料を手に持つ承太郎。これはきっと話は終わり、お前の要望はもう受け付けない。という合図であった。

それにしても私が解らなきゃいけないことってなんなんだろう。きっと聞いても教えてくれなさそうな雰囲気だし、ジョセフはもうあまり言葉のキャッチボールができる状態ではないから難しいし…。そうだ、花京院くんは何をしているのだろうか。彼は承太郎と同じ学校に通っていて親しく話していた数少ない人物だ。何か聞いているかもしれない。エジプトから帰ってきて花京院くんに一度も会っていない。承太郎やジョセフに昔聞こうとしてタイミングを逃していたんだった。そうだ、その話なら答えてくれるかもしれない。

「じょうたろ……う?」

振り返ると承太郎はいなくて、部屋から出ていったことが伺えた。なんでだ、いつのまに。ガックリと肩を落として、ベッドへと身を投げた。










愛の傷は治らない
Endless Dream