「この家は俺の親父が買った家だ、妙な詮索はするんじゃねえぜ…二度とな」
彼がそう私達に忠告している間にも康一は苦しそうに呻き声をあげる。早く解放しなくてはと焦る頭で、こんな時承太郎ならどうするだろうかと考えが何も思い浮かばない。
「んな事は聞いてねえっすよ、てめえに放せと言ってるだけだ。早く放さねえと怒るぜ」
予想通り血の気の多い仗助が大人しくしている訳もなく、睨みを効かせるものだから尚更焦りが募る。最終手段は約束を破って
幽波紋能力を使っちゃうことだけど、約束を破る前に何かきっとできる筈だ。何百年と生きたんだ、その知識を有効に使って何か考えなくてはならない。
「おいおい、てめえはねえだろ。人んちの前でそれも初対面の人間に対しててめえはよ…口のきき方、知ってんのか?」
「てめえの口をきけなくする方法なら知ってんすけどね」
「ほお…」
何も思い浮かばないポンコツ頭をフル回転させている間に2人がバチバチとした、確実によろしくない空気を漂わせ始めた時、何か鈍い音と共に康一の周りで朱が散った。
「何ィ!?」
仗助の声で我に返れば康一の首に矢が刺さっている。康一が苦しそうな呻き声と共に血を吐いた。その矢は恐らく承太郎の言っていた"気を付けなければならない弓と矢"だろう。ポンコツな頭は冷静に現実逃避をして帰ったら承太郎に報告しなくてはな、なんて考えている時、「兄貴!」と強面の彼が、窓の方を見上げた。先程康一が窓を見上げ人影が見えたと言っていた場所の方だ。確かにそこには人影が見えて、康一が言っていたことは正しかったのだ。
「なぜ矢で射抜いたのか聞きたいのか?そっちの奴が東方仗助だからだ」
窓から視線だけを覗かせる男は仗助を指し、ご丁寧にも説明をしてくれるが、私としてはちんぷんかんぷんだ。
「ああ、へえ…こいつが!」
強面の彼は門から足を退ける事もしないまま、ニヤリと口角を上げて再び仗助を見る。騒がしいことは避けられないような、そんな嫌な予感がする。康一が瀕死の痛手を負っている以上、もう避けられないも決まっているようなものだけれど。
「仗助、彼等は知り合い…じゃないわよね、」
先程の口振りからして仗助は知らないようだが、念の為確認をとる。
「知らねぇッスよ、あんなヤツら…」
仗助はそう言いながら、強面の彼から1ミリたりとも目を離さなかった。
「アンジェロを倒したやつだということは…俺たちにとってもかなり邪魔な
幽波紋使いだ」
「
幽波紋使いだと?てめえら、
幽波紋使いなのか!」
アンジェロという単語、何処かで聞き覚えがあるな…と記憶を辿ってみる。丁度昨日、仗助と承太郎で始末したという敵だったな、と思い出せた。
「億泰よ、東方仗助を消せ」
「康一!」
そう指示が入った途端、億泰と呼ばれた男が門から足を離し、康一が地面へと倒れ込んだ。白目を向いて口から血を流している。呻き声が微かに聞こえたことからまだ生きてはいるが危ない状態だ、早く治さなくてはならない。
「フン…ひょっとしたらそいつも
幽波紋使いになって利用できると思ったが、どうやらダメみたいだな…死ぬな、そいつ」
窓から男が冷静にそう判断し告げる。矢で射抜かれると、
幽波紋使いになるのか?でも口振りからして全員がそうではないように伺える、ということは運とかそういうものなのだろうか、と冷静に考え始める頭を1度リセットして、まず先に康一を助ける事を考えようと切り替える。億泰とかいう強面の男も"東方仗助を消す"という指示が下った為、もうその気である。穏便に事を済ますことは出来なさそうだ。
「ど…どけ!まだ今なら俺のクレイジー・ダイヤモンドで傷を治せる!」
「ダメだ」
康一の事がずっと気にかかって焦る仗助に、億泰からは冷酷な答えが返ってくる。
「東方仗助!お前はこの虹村億泰のザ・バンドが消す!」
億泰の後ろに
幽波紋が現れ、思わず身を構える。どんな能力か解らない今、迂闊に行動が取れない。
「…行くぜ!」
ご丁寧にもそう言ってから攻撃をけしかけてきた億泰は仗助の攻撃範囲に入ったらしく、自身の
幽波紋がクレイジー・ダイヤモンドの拳によって顔を殴られていた。
「どかねえとマジに顔をゆがめてやるぜ」
「ほお…なかなか素早いじゃん」
クレイジーダイヤモンドに殴られたせいで口端から血を流しつつも不敵な笑みを浮かべている。何か策があるのかと迂闊に近寄れない。だが今やらなくては康一が手遅れになってしまう。何やら敵同士で話し始めている隙に康一の傷が治るように"願ってしまおう"。承太郎達との約束を破ってしまう形になるが、それで仗助の友達が死んでしまうというのはよろしくない。まずは気付かれないようにするため、自身を透明にすることを決めた。右手小指と交換に
流星に願う。するとすぐ右手小指に激痛が走り、すぐに復元したかと思えば、たちまち自分の姿は目視できなくなっていた。消えたこともお喋りに夢中な敵どころか仗助も気付いていない。今のうちだ、と億泰の後ろをそっと通り、門の間で白目を向いている康一に触れて願う。瀕死なようで代償は大きく、聴覚と視覚を奪われた。何も聞こえず見えない今の状況は大変まずいが、手探りで康一に触れれば脈拍と呼吸を感じてホッと息を吐く。仗助がどうなっているのか気になるが、すぐ自分の視覚と聴覚が戻ると信じてその場から動かずにいると、誰かがこちらに歩み寄ってくるのを感じた。一瞬、仗助かと思ったが仗助のいる方とは逆の家の方からの気配だった為、窓にいた男が降りてきたのだと察する。だが私を目視することは出来ないため、きっとここにいることはバレていない。だとするとこのままでは仗助が2対1でやられてしまうのでは、と焦る思考とは裏腹に気配は家の中へとゆっくりと戻っていった。一体何をしにきたのだろうか、と思考するも情報が少なくては何も分からない。まずは視覚聴覚が戻ってから考えよう。
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愛の傷は治らない
Endless Dream