浜辺に灯る赤

空条承太郎は日本のとある孤島に上陸していた。人口はおよそ140人、面積約7.50平方キロメートルと小さな島だ。その島の周囲に点在する島はなく、一島一村となっている。旅行者は非常に少なく、外からの影響をほとんど受けることはない。そのためかこの島は古くからの文化やしきたりに重きを置いていた。例えば、数百年前から飢饉対策のために義倉が建てられており、今でもそこに穀物を収納している。これを囲米の制度といい、それが長く残っているほど古く殺伐とした島である。ここに承太郎が足を運んだことには理由があった。

"幻の赤い貝"

この島の南端の浜辺を探索すると、ごく稀に赤い貝が発見できるらしい。南端の海には珊瑚が自生しており、そのため多くのギンガメアジが生息している。南端の浜辺でしか見つからないのは、恐らくそのことが関係しているだろうと承太郎は踏んでいる。
その貝は握り拳ほどの大きさで巻貝らしい。その巻貝に指を差すと、小さな痛みと共に意識を失い気絶してしまうという現象を引き起こすそうだ。噂に尾ひれがついてしまっただけの気もするが、もしその話が本当なら催眠作用を作り出す貝ということになる。
その巻貝を発見し今後の研究課題にするのが承太郎の目的だ。

承太郎は足を動かし、目的地へと距離をつめる。周りの住宅は築何十年も経つような古い漆の建物が全てだ。大きな絨毯を敷いたかのように広がる田園、海の先にはただただ広がるやけに青い空、整備されずあちらこちらに乱立する鬱蒼とした木々。島の文化が根強く残っていることは伺えていたが、実際にこの島の地に足をつけるとまるで別世界のように感じられた。この閉ざされた土地に、"幻の赤い貝"がいるのだ。
頭と同時に足も動かしながらやがて目前に浜辺を見据えた時、承太郎はここに来て初めて足を止めた。浜辺に男が倒れていたからだ。

ーーまさか

男が気を失っているのは赤い貝が作用したからではないだろうか。彼の元へ歩み寄り、片膝をついて男の指を手に取った。指から細い糸のように流れるか細い血は、赤い貝が作用していることを確信させた。男は50半ばくらいの顔つきをしており、皮膚は日焼けでこんがり焼けている。
しかし承太郎はこの時、ある違和感に気づいた。承太郎の手から感じ取る男の体温が冷たすぎることに。

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