とあるPの一日。(前編)



‐early morning‐

ピピピ…

「んー…」

ふわぁ…あーよかった、起きれた。
今日は早起きでやることがいっぱいだから、頑張んなきゃ!
目覚ましを止めて、私はベッドから抜け出した。

顔を洗って、着替えて…朝ごはんを用意をしながら、スマホで電話をかける。
スピーカーにしてっと…

「おはようございます〜」
「おはよう、プロデューサー」
「おはよう、プロデューサーさん」
「おっはよー、プロデューサーさん!」

画面の向こうから元気のある声が響く。
さすが元公務員の3人、朝早くからでも、しゃっきりしてるなぁ。
FRAMEはこれから、生放送で地方の朝市のレポートの仕事なのだ。

「今朝は不運は起きてないし、打ち合わせも終わって、今スタンバイしてるところだよ!」
「それはよかったー!今日はついていけなくて申し訳ないです」
「俺たちなら大丈夫だぜ。他のユニットの付き添いもあるんだろう?」
「そうなんだよねーおかげさまで、今日は予定びっちりだよ!」

うちの事務所の所属アイドルは多く、年齢層はとても広い。
その割にスタッフが少ないので、どうしても大人ユニットは、本人たちにお任せになりがちなのである。

「生放送は録画でチェックしますので!」
「ああ、この場は、自分たちに任せてくれ」
「はい、よろしくお願いします!」

すると、遠くの方から3人を呼ぶ声、そして返事が聞こえてきた。
恐らく、スタッフさんから呼ばれたのだろう。

「それじゃ、行ってくるぜ!」
「いってらっしゃい!」
「お土産買っていくから!」
「ありがとう、楽しみにしてるね!」
「違う現場だが、お互いに頑張ろう」
「はい!頑張りましょう!」

通話を切って、テレビの方を確認すると、録画は…うん、ちゃんとできてるみたい。
私も準備できたら出かけなきゃー!



‐morning‐

朝はやっぱりちょっと混んでるな…早めに出掛けて正解だ。
私は、とある家の前で車を停めた。
いつ来ても大きいお家だなぁ、と思う。

インターホンを鳴らすと、玄関の方から賑やかな声が聞こえてきた。

「おはようっす!」
「ふわぁ、はよー…」
「おはようございます」
「おはよう!」
「…おはよう」

5人5色な朝の挨拶。
今日は平日だけど、High×Jokerには学校の前に、朝の生放送番組の1コーナーに番宣で出演、という仕事がある。
時間が早くて遅刻は厳禁なので、旬くんの家に昨日から集まってもらっていて、迎えに来たのだった。
みんな同じ学校なので、終わった後も1か所に送ればいいから、こういう時ありがたいわ〜。

「おはよう、よかった、みんな起きてて」
「昨日はちゃんと、早く寝たっすからね!」
「…ふふ、確かにシキとハヤトは、すぐに寝てた、ね」
「うっ、だって、夕飯すごいうまくて、たくさん食べたらすぐ眠くなっちゃって…」
「だよな、夕飯も朝飯もうまかったー!さすがジュンの家だぜ」
「朝からよくあんなに食べれますね…」

ふふ、昨日の夜からの賑やかな様子が目に浮かぶようだ。
5人が乗り込んでシートベルトをしたことを確認すると、私は車を出した。

「今日は学校前にごめんねー」
「ううん、全然!いつも見てる番組に出られるなんて嬉しいよ!」
「そうですね、光栄なことです」
「オレ、バッチリ録画してきたぜ!」
「オレもオレも!あとクラスでも宣伝してきたっす!」
「…妹も、見てくれる、って言ってた」

うう、楽しみにしてくれてるみたいでよかった。

それから、テレビ局に着いて、バタバタと生放送に出演し、終わって制服に着替えた彼らを学校に送り届けた。

「それじゃ、勉強頑張ってね!」
「春名さん、四季くん、授業中寝ないように」
「うう、自信ないぜ…ドーナツチャージして頑張るか」
「オレは1時間目体育だから、たぶん大丈夫っす!むしろ仕事したから、いつもより動けそうな気がするっす!」
「…放課後は、ダンスレッスン…だったよね」
「ごめんね、そっちは付き合えないから、自分たちでお願いね」
「大丈夫、任せてよ!」

5人はバタバタと車から飛び出していく。

「いってらっしゃい!!」
「「「「「いっててきます!」」」」」

今度は見事なクインテット。
若者たちを送り出して、私は車を走らせた。



‐in the office‐

「ふわぁ…」

High×Jokerの仕事が終わってから、一旦帰って少しだけ休んできたんだけど…
ダメだ、あんなこと言ってた私が寝そう。
企画書が思うように進まない。

「プロデューサーさん、眠そうですね…よければ、コーヒー淹れましょうか」
「わーありがとう!濃いめのブラックでお願いしますー!」
「わかりました。ちょっと待っててくださいね」

そうして賢くんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら作業していると「おはよう諸君!!」という大きな声と共に社長が現れた。
周囲の温度が上がった気がする。

「社長!おはようございます、この書類確認お願いします!あと、この間相談した企画をまとめたので、これも確認していただけますか」

社長が来たとき用にまとめていた確認案件を、一気に確認してもらう。
我が事務所の社長は、パッションの赴くままにどこかに行ってしまうから、このチャンスを逃すわけにはいかない。

「うむ!パッションに溢れたいい企画だ!ぜひ進めてくれ!」
「ありがとうございます!」

やった!
よーし、じゃあ関係各所に連絡しないと…!

「よかったですね、プロデューサーさん」
「うん!賢くんも手伝ってくれてありがとうー!助かりました!」
「いえいえ。ぼくにお手伝いできることだったら、なんでも言ってください」

企画書をまとめるのに意見をもらったりしていたので、お礼を言うと、賢くんは頼もしい返事をくれたのだった。



‐in the rehearsal hall‐

ふう!
書類の確認がひと段落したから、今度は彩の出る舞台の稽古に顔を出さなくちゃ。
差し入れのお饅頭を買って、私は3人がいる稽古場へ向かった。

「おはようございます」
「あら、プロデューサーちゃん。おはよう」
「おはようございます、プロデューサーさん」

稽古場に入ると、ちょうど休憩中のようだった。
ナイスタイミングだ。

「にゃにゃっ!何やら、プロデューサークンからいい匂いが…」
「差し入れにお饅頭買ってきたよーキリオくんももちろん食べていいけど、皆さんで分けてね」
「むむっ、しょうがないでにゃんすな。1つきーぷして、稽古終わりのご褒美にするでにゃんす♪」

そういうと、さっそくキリオくんはひょいっと自分の分を持って行った。
九郎くんはやや呆れ顔で、キリオくんを見送っていたが、すぐにこちらに向き直った。

「お忙しいのに、様子を見に来て下さったんですね。ありがとうございます」
「これもプロデューサーのお仕事ですから!本番も近くなってきましたけど…稽古、どうですか?」
「順調さ。プロデューサーちゃんのおかげで、いい座組に恵まれたよ。全員のモチベーションが高くて…アタシたちも刺激をもらえてるよ」
「それは何よりです」

稽古を見ていると、先ほどの翔真さんの言葉を実感する。
演出家さんは指導が厳しいことで有名な方だけど…彩の3人は、それに応えていけている。
きっと、相当レベルの高い舞台になるだろうな…楽しみ。
そう3人に伝えると。

「褒めてくれてありがと。でもまだまだ完成度を高めていくよ」
「ええ、本番を楽しみにしていてください」
「プロデューサークンの想像をばびゅーんっと越えて見せるでにゃんすよ!」

と、頼もしい返事が返ってきたのだった。
本番初日の公演を見れるように、今のところ予定を空けているけど…このまま死守しなきゃね…!



‐lunch time‐

次はTHE 虎牙道の街歩き番組に顔を出さなきゃなんだけど…
街歩き番組ゆえに、場所が明確に特定できないんだよね。
うーんと、もうすぐ終わりの時間だろうからこの辺りに…あ、いたいた。

もうすぐ撮影が終わるみたい。
少し離れたところで待っていると、定番の締めの挨拶が聞こえてきた。

「お疲れ様です!」の声がかかると、スタッフさんが散っていく。
その真ん中には、スタッフさんに頭を下げる道流さん、タケルくん、いつも通りの漣くんがいた。

「すみません、遅くなりました!」
「師匠!来てくれたんスね!」
「うっす。お疲れ」
「アァ?今頃来てどーすんだよ、バァーカ!」
「ごめんごめん。みんなに任せてれば安心なんだけど、スタッフさんに挨拶したくてさ」

みんなに謝って、一旦その場を離れ、スタッフさんと話した。
今日もTHE 虎牙道らしい、いい画が撮れたそうだ。

再び3人のもとに戻ると、ぶすっとした漣くんがいた。

「腹減った」
「え、今日結構食べ歩きしたって聞いたんだけど」
「あんなモンでオレ様の胃袋がいっぱいになるわけねーだろ!」
「師匠、一緒に昼飯どうッスか?」
「俺も、話したいことがあるんだ」

私もお腹空いていたから、撮影中にオススメしてもらったという定食屋さんでご飯を食べながら色々話した。
今日は朝からメンチカツ、ドーナツ、アイス、おだんご、おまんじゅう…等々を食べたらしいが、3人ともガッツリ定食を食べてる。
というか、大盛りでおかわりもしてる。
その新陳代謝の良さを、分けていただきたいです…

「来週は少し遠くでの撮影になるから、私も同行するね」
「はい、ありがとうございます!自分、その土地のこと調べておくッス!」
「よろしく頼む。来週も、楽しみだ」

そう言ってくれる道流さん、タケルくんと、マイペースにくぁ〜とあくびをする漣くんに手を振って、私は次の現場へと移動しはじめた。



‐while on the move‐

電車の乗り換え待ちをしていると、電話がかかってきた。
えっと…みのりさんからだ。
Beitは今、地方でドラマの撮影をしているのだ。

私は、出来るだけ静かな場所に移動して、通話ボタンを押した。

「もしもし」
「プロデューサー、今大丈夫かな?」

時計を確認…うん、電車は2本くらいなら遅らせても大丈夫だろう。

「はい、大丈夫です!」
「やふー!プロデューサーさん、元気?ボクたちはとーっても元気!」
「私も元気だよー。撮影は順調?」
「ああ、天気にも恵まれて、スムーズに進んでる」
「さっきのシーンなんて、監督に3人共ベタ褒めされちゃったしね!早くプロデューサーにも見てもらいたいよ」

興奮気味のみのりさん。
きっとすごく上手くいったんだろう。
表情が目に浮かぶようだ。

「えーすっごく楽しみです!明後日、そちらに向かうので色々聞かせてください」
「うん!プロデューサーさんと一緒にいきたいところ、見つけた!撮影終わったら、いっしょにいこ!」
「ありがとう、楽しみにしてるね!」

ピエールくんときゃっきゃっと会話していると、ふう、とスマホの向こうで誰かが息を吐いた。
恭二さんかな。

「…俺、このあと長台詞のシーンでちょっと緊張してたけど…プロデューサーの声が聞けて、なんだかいい感じに力抜けたかも」
「そうなの?緊張が和らいだならいいけど…立ち会えなくてごめんね。でも、魂飛ばしてるからね!頑張って!」

今日の私は、色んなところに魂飛ばしまくりなのだ!

「はは、ありがとな。よし…このあとの撮影も、頑張れそうだ」
「プロデューサーも頑張ってね」
「離れてるけど、みんなでがんばろー!」
「おー!」

通話を終えて、私は電車に乗り込んだ。
うちのアイドル達はみんなすごい!
みんなをもっともっと輝かせるために、午後も頑張るぞー!



‐recording‐

さて、お次はLegendersの新曲収録だ。

「失礼します」

スタジオの重い扉を開くと、すぐにクリスさんが声をかけてくれた。

「おはようございます、プロデューサーさん。今雨彦が収録中ですよ」
「そうみたいですね。想楽くんはもう終わった?」
「うんー、一応ねー。3人のバランスを見て、録り直すかもしれないけどー」

スタッフさんたちに話を聞く限り、3人とも調子はよさそうだ。

しばらくすると、雨彦さんが収録ブースから出てきた。

「よお、お前さん。俺の出来はどうだった?」
「ばっちりだと思います!新曲のイメージにもぴったりな歌声でした」
「はは、そんなに褒められるとはな。まあ、俺としても手ごたえはあったし、そう言ってもらえるならよかったぜ」

入れ替わりの準備中に聞かせてもらった想楽くんの分も、とてもいい感じだった。
素直な感想を本人に述べると「プロデューサーさんは、本当に褒め上手だねー」なんて言われた。
思ってることを言ってるだけなんだけどな。

「最後は私ですね。私も、2人に続かなくては!」
「意気込むのは良いことですが、今から歌う歌は、もうちょっとリラックスした方がいいと思いますよ。なんというか…そうですね、明け方の凪の海…みたいな感じで臨むのがいいかと」
「…なるほど!ありがとうございます、さすがプロデューサーさんです!」

いってらっしゃーい、と手を振ってクリスさんを見送る。
歌はちょっと苦手なクリスさんだけど、今回は好調な滑り出しだと思う。

「本当に…さすがだな、お前さんのプロデュースは」
「そうですか?クリスさんが頑張ってくれてるからですよ」
「…プロデューサーさんには、ずっとそのままでいて欲しいなー」
「そうだな」

2人してなんだか気になる言い方だけど…まぁ褒められているようだから、ヨシとしよう。



‐break time‐

私は諸々の雑務のため、事務所へ戻ってきた。
しばらくPCと格闘して資料を作ったりしていたのだが。

んーっ…甘いものを身体が欲している。
そう思って立ち上がると「お疲れ様、プロデューサーさん」と柔らかい声がかけられた。

「主よ!戦いの中でも、休息は必要だ。カミヤの用意せし紅き涙が、主の魂を癒すであろう」
「今日、新しい茶葉が手に入ったから、プロデューサーさんに飲んでもらおうと思ってね」
「焼き菓子を作ってきたので、おやつもありますよ」
「わーい、休憩しまーす!」

と言うわけで、Cafe Paradeの成人組としばしの休憩タイムだ。

狙って集めたわけではないのだけれど、うちのアイドルは実に多種多様な人材が集まっているので、何をするにも困らない。
特に、食関係は本当に恵まれていると思う。
…はぁ、この紅茶もお菓子も美味しい。

「次のお仕事の資料が届いたから、後で渡すね。巻緒くんと咲ちゃんが学校終わったら、レッスンの前後に、みんなで目を通しておいて」
「ありがとう。任せてくれ」
「ククク…我が魂は、歓喜と期待に震えているぞ!」

そのまま軽い雑談をして、休憩は終わり。
片づけはしておく、と言ったのだけど「プロデューサーさんはお忙しいでしょうから、私たちに任せてください」「ああ、ここはソーイチローと我に任せ、主は次なる戦いに向かうがいい!」と言われてしまった。
3人もこれからレッスンなんだけど…そこまで急ぎではないから、というお言葉に甘えて、片付けもお任せしてしまったのだった。

さらに、東雲さんからは「焼き菓子はたくさん作ってきたので、ここにも置いておきますね。プロデューサーさんも、お好きなだけどうぞ」と追加のおやつも貰ってしまった。
食べすぎないようにしないと…!



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