Present for you



Nothing is impossibleの続き。



とある日。
事務所にやってきた漣が、昼寝をしようといつものお気に入りの場所にやってくると、先客が居た。
それは、最近一緒に仕事をすることが増えた、315プロダクション所属の女性アイドル、なまえだった。

なまえは、漣の昼寝の定位置であるソファの上で丸まって、すやすやと気持ちよさそうに眠っている。

「チッ、おい、そこはオレ様の場所だぞ!」

…と、言ってみたものの、なまえは反応すらせず、深く眠り込んでいた。

「クソッ」

口ではそう言いつつも、よく寝ているなまえのことを起こす気になれず、漣はソファの前にどかっと座り込み、なまえの顔を眺めた。

「くはは、まぬけな顔で寝てやがる」

漣が何を言っても、なまえは黙って眠っているだけだった。
漣にしては珍しく、ゆったりとした空気が流れた…が、すぐにそれにも飽きてしまった。

そんなタイミングで、なまえが寝言を言いだした。
最初は、何を言っているかよくわからなかったものの。

「……えへへ〜……プロデュー…サー、さーん…」

という言葉は、はっきり漣の耳にも聞き取れた。

ムカッ!!と音がしそうなほど、漣の表情が歪む。

その後も、へにゃへにゃと笑いながら、寝言でプロデューサーのことを呼ぶなまえ。
漣は何故だか無性に腹が立ってきて、なまえの鼻を思いきり摘んだ。

「ふぐっ……う、うううう〜〜〜〜〜???」

しばらくそのままでいると、息が詰まったのか、なまえは「ぶはっっっ!!」と声をあげながら目を醒ました。
漣はタイミングよくなまえから距離を取り、フン!と鼻を鳴らした。

「お、溺れるかと思った…って夢…?……むー…なんだか、鼻が痛い…」

ぱちぱちと瞬きをして、周りを見渡し、状況を確認するなまえ。
その視界に漣が入ると、ふわぁ、と欠伸をしたあと、漣に声をかけた。

「漣くん、おはよー…ていうか、漣くんだけ?……もしかして、漣くん私に何かした?」

鼻が痛いんですけど、とジト目で漣を見るなまえ。

「さァな?…オレ様の場所で、寝てるオマエが悪い」
「えー…ていうかそれ、自白じゃんー!これでもアイドルなんだからね!顔はやめてよね!」
「オマエの鼻が高くなるようにしてやったんじゃねーか」
「こんなことで高くなりませんー!」

ぷんぷんと怒るなまえから、ふいっと顔を背けて、漣は小声で呟いた。

「…てめーが夢ン中までアイツのこと言ってるからだろーが」
「え?なに?」

聞き取れなかったなまえが素直に聞き返すと、漣は噛みつくように返す。
自分自身でもよくわからない、モヤモヤしたものにイライラする漣。
なまえへの態度は、半ば八つ当たりだった。

「なんでもねーし!!」
「もー!なんなのー…今日漣くんに会えたらあげようと思ってたものがあるけど、やーめた!」

今度はなまえが怒って、ぷいっと顔を背けると、漣は不服そうに距離を詰めた。

「ハァ?なんだよそれ、寄越せ」
「やだー」
「アァ?オレ様の場所を貸してやっただろーが!」
「このソファはみんなのものだよ!それに寝ている乙女の鼻は摘むし…」
「ハッ!乙女だァ?」

なまえの発言に馬鹿にしたように笑う漣。
…ホントにわかってて馬鹿にしてるんだろうか。
むう、となまえは頬を膨らましたが、こういう時に意地を張りあってもしょうがない。
私は大人だからね!漣くんより年下だけど!精神的にはオトナだから!
…と、なまえは気を取り直した。

「んもーーしょうがないなーはい、これあげる」

なまえはそういうと、漣の手のひらに小さな袋を乗せた。
漣が無造作にそれを開けると中には、細身のバングルが入っていた。
黒と銀を基調にしたシンプルなデザインに、赤いラインと、漣の瞳の色と同じ金色の石がついている。

「んだよ、食い物じゃねーのかよ」
「ごめんねー食べ物じゃなくて。それ、腕につけるやつだからね。着け外しも簡単なやつだから、漣くんでもしてくれるかなと思って」

バングルを手に取り、いぶかしげに眺める漣に説明をするなまえ。

「へへ、かっこいいでしょ?アクセサリーを色々見て回ってた時に見つけてね。それを見た時に、漣くんの顔がぱっと思い浮かんだの。絶対似合うだろうなーと思って、買っちゃった。いらなかったら…」
「いらねーとは言ってねーだろ!」
「それならよかった」

食い気味に否定する漣に、なまえは安堵した。
デザインはもちろんだけど、ちゃんと簡単に着け外し出来るのもいいでしょ、となまえが笑う。
漣がめんどくさいものは嫌がるだろうことは明白だ。
「どうせなら、ちゃんとつけてもらいたいもん」となまえが言うと、漣は珍しく、ぼそりと口を開いた。

「…コレ、オレ様にだけか?」
「うん、そうだよ」
「ふーん…そっか」

漣が見せる珍しい表情に、なまえは首をかしげた。

「??変な漣くん」
「変じゃねーよ!」

フン!と言いながらも、漣の機嫌は直ったようで、なんだか嬉しそうだ。
よくわからないけど、漣くんが気に入ってくれてよかった、となまえも嬉しそうに笑うのだった。




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