がちゃりと玄関の扉を開けると、見慣れた靴が一足、綺麗に並んでいた。やばい、と思った時にはすでに遅くて、リビングの方からズカズカと足音が聞こえる。


「帰ってくるのおっそ。」
『いや、いろいろあって…、ていうか来るなら連絡してよ。』
「彼女の家に連絡なしに来ちゃいけないわけ?」
『私彼女じゃないですから、』


そう言うと明らかにふて腐れた顔をするこの男は、渡辺翔太。
学生時代、2つ先輩だった彼とはひょんなことをきっかけに仲良くなった。付き合っているわけではなく、気が向いたら一緒に遊んだり、家に泊まったり、そんなことを繰り返していたら彼との距離感が次第に普通ではなくなっていった。
友達以上恋人未満とはまさにこういうことなのだろう。

「…何してたの」
『電車、寝過ごしちゃったの。終点まで。そしたら戻ってこれなくなって、たまたま同じ状況だった人と始発まで居酒屋行ってきたの。どうせなら飲もうって。』
「なに、その危険な状況!そういう時は迎えに行くから連絡しろよ!」
『全く危険な目に合わなかったよ。むしろ楽しく飲めたし、ラッキーって感じ。』


化粧を落としている傍で、危険な目に遭わなかったのは結果論であってどうのこうのと、小言が止まらない翔太に溜め息が出る。


『今日、仕事は?』
「…OFFだけど。」
『じゃあ、今日はもうとりあえず一緒に寝てさ、起きたらなんか出前取ろうよ。で、美味しいもの食べて、ゆっくりしよ。どう?』
「べつにいいけど、」
『はい、決まり。じゃあ寝る用意して!』


すでにスウェットを着ていた翔太はそのままベッドへ向かう。私はパジャマに着替えて、酔い覚ましに水を飲む。ふと携帯を見れば、先ほど連絡先を交換した目黒くんからメッセージが届いていた。


"無事帰れました?"
"また飲みにいきましょう"


帰れたよ、と一言返したところで切れた充電。一つしかない充電器にはすでに翔太の物が刺さっていて、後から返事をしようと諦めた。
長い1日がようやく終わる。