私はある冬の日、母に手を引かれて訪れた知らない家で、
知らない男の人と家族になった。

それは、きっと母が求めて止まなかった愛のある家庭のように見えてたろう。
だけど、片親と共に暮らし、寒く狭い部屋の炬燵に母と身を寄せ合って笑えれば、それで良かったのだと思う。
事あるごとに私にお金を渡し機嫌を取るような
こんな男を、父親とは、一生思うことが出来ないように感じていた。

けれど母が幸せだと笑うならば、それでいい、
私は張り付けた笑みで、彼を父と呼んだ。

彼はお酒も飲まず、煙草も吸わずギャンブルもしない
再婚相手としてこんな絵に描いたような理想の人間が居るなんて話が上手すぎたのだ。
父が優しく、愛の溢れた人間の顔をしていたのは実際、同居をはじめて1ヶ月程だったように思える。
段々と、笑顔が消えていく!
だんだんと、帰ってこなくなる!
だんだん、家から明かりが消えていく。

私はそれでも弱音を吐かない母を疎ましく思った。
泣けば良いのだ、怒れば良い、
父は、きっと愛というものを知らない。
お金だけが、彼に与えられた唯一のものだった。

私は、泣かない母の代わりに泣いた、
毎日毎日泣いていれば、母が寄り添ってくれる、
きっとまた以前の幸せが訪れると、信じていたのだ。

母は来なかった、愛に温度が有るのならば、
きっと私たちの愛すらも、冷えきってしまったのだろう。
それは、なんだか私の胸にすとんと落ちた。

もう、私は泣かなかった。




ALICE+