ヨモツヘグイ 03
毎晩毎晩、泣いて居た。
だって、毎晩毎晩、怖くて恐ろしい夢を見るから。
毎日、泣きじゃくってるものだから、瞼が何時も熱くて、体が重くだるくて、喉はヒリヒリと痛んで、辛かった。
どんなに嫌だと、怖いと、助けてと、泣き喚いても、悪夢は毎晩、襲って来る。
其の度に、泣いて居る自分を優しく抱きしめてくれる母の抱擁。
其の都度に、頭を撫でながら優しい言葉を掛けてくれる父の声や手。
其れ等でさえ、涙や悪夢を止める為の“光明”には、成らなかった。
(一護)「##NAME1##ちゃん、大丈夫?」
毎日、悪夢で疲れて、クタクタになって居る##NAME1##を、心配してくれて声を掛けてくれるのは、幼馴染み。
其の幼馴染みの一護の問いに『否』と、彼女は首を横に力無く振る。
(一護)「具合、悪いの?先生、呼ぶ?」
其れに、また首を横に振って、否定の意を示す。
先生には、もう何度も言って居る。先生も知って居る。毎度の遣り取りから、何て返事が返って来るかも、もぅ分かって居る。
先生の無責任な励ましなんて、何の慰めにも、気休めにも成らない、何処までも空々しい物だった。
決まって何時も『今日はきっと良い夢を見れるよ』だ。そうなった事なんて1度たりとも無い。嘘付きの返答だ。
「先生如きに、どうこう出来る悪夢じゃないわ」
(一護)「え?怖い夢?どんな夢なの?」
「………。」
夢の内容を聞かれ、##NAME1##は、幼馴染みを見て、顔を渋めた。
彼は、##NAME1##と同じ位、怖がりで、泣き虫だ。
言った所で、彼がどんな反応をするかなんてのは、鏡で自分の姿を見る事も同然だ。
そんな訳だから、彼を泣かせない様に、怖がらせない様に、今まで内緒にして来た。
「お化けがいっぱいね、暗い所から、ヒタヒタとね、忍び寄って来て、私の手足を食い千切ろうとする夢」
しかし、今日は虫の居所が悪かったせいか、さらりと、自分でも驚く程、あっさりと曝露してしまった。
いや、実際は、もぅ、色々と限界だったのだろう。
自分の事で一杯一杯で、他の人への気遣いや思い遣りなんて、何時も何時も追い詰められて居る##NAME1##には、もう出来無かった。
そうして、結局、夢の内容を言ったら、また涙が溢れ出て来た。
滲む視界の中、幼馴染みを見ると、ガタガタと震えて居て、自分と同じく、涙目だった。
ほら、太陽の髪を持つ彼でさえ、内容を聞いただけで、こんななのだ。
「(きっと、助けてくれる太陽なんて、守ってくれる光なんて、無いんだ。)」
そう思ったら、弱り切った心が、一気に感情を爆発させて、絶望の波に呑まれた。
「もう、やだァッツ―――!!!!!!」
突然の怒鳴り声にビックリして、幼馴染みの涙は引っ込んだ。
しかし、正反対に、##NAME1##の涙は、堰を切った様に止め処(ド)無く、溢れ、流れた。
「どうしたら良いの!?私はどうしたら夢を見なくなるの?寝直しても寝直しても、ずっと見る。ずっと怖い!」
(一護)「##NAME1##ちゃ…、」
「怖くて怖くて、生きてるのも、死んじゃうのも、怖くて出来ない……。もうこんなのは沢山!!!」
毎夜、恐怖と不安に晒されて、いっそ、一思いに死んでやろうかと思った。
しかし、死のうものなら、きっと、悪夢から這い出て来た、人ならぬモノの彼等に、体どころか魂まで喰い尽くされてしまう。
そんなだから、生きて悪夢を見続ける事も辛かったが、死ぬ事も、同じ位、怖かった。
身の置き場、心の拠(ヨ)り所を何処にも見付けられなくて、好き勝手に泣き喚いても、優しい周りに、どうしても不満や不安を自らの外へ吐き出す事も出来なかった。
其れを、ずっと、物心の付いた頃から繰り返して来た、##NAME1##の淀(ヨド)んだ日常。
(一護)「あ、あのねっ、僕、最近、空手を習い始めたんだ!きっと強くなるから、そしたら、##NAME1##ちゃんを苛める鬼を退治してあげる!だから…」
「嘘付かないでよ!どうやって私の悪夢に入って来るの?アンタが夢に出て来た事なんて、一度たりとも無いわ!!」
(一護)「そ、其れは、何とかして…」
「もぅいいッ!!皆、皆、嘘ばっかり!大っ嫌い!もう放っといて!私に構わないで!馬鹿!!」
だが、限界を迎えた此の日ばかりは、違った。
火の様に喚き、当たり散らし、優しい幼馴染みの彼の善意を撥ね退け、火傷を負わせた。
傷付けなくない。
本当は、もっと別の言葉を口にしたい。
でも、今は出来ない。
だから、走り出した。
貫いて突き刺さる
まるで夢の中の時と同じ様に。
「##NAME1##ちゃん、危ない!!」
マンション新築工事現場の横を通り過ぎようとした。
クレーンで吊り上げて居た鉄パイプが落下してきた。
私を庇う様に覆い被さって来た君と私を、グサリと貫いて、地面に突き刺さる
串刺し。混ざり合い流れる私と君の緋色。
周りの人達の劈(ツンザ)く悲鳴。
最後に見たのは、柔らかな君の髪と、其の後ろで輝く無情の太陽。
一護の髪が、太陽だったら良かったのに…。でも、私と同じ位、泣き虫だからきっと無理だ。
守ってくれたのは、橙色の太陽。
助けてくれたのは、白色の月。
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解せぬ花