ヨモツヘグイ 09




あっと言う間だった。





「………。」





##NAME1##は、惨たらしい光景に、無言で唇を噛み、俯く。

其の耳に、奇怪な音が飛び込んで来た。其れは、闇が切り裂かれる音。

闇の塊は、幾つにも分散し、四方八方から、絶えず彼に襲い掛かるも、彼は物怖じせず、息1つ乱さずに刀を振るって居た。





「ひゃッはァ!ハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \ッ!!!!」





彼の哄笑が、強く、盛大に、響く。

其の声が、闇を戦慄(ワナナ)かせ、遠ざけた。



ざああァァ……



蜘蛛の子散らす様に、闇の塊が霧散して行く。

異形のモノ達は、散り散りに逃れようとした。



だが、遅い。



幾つかに分かれようとも、全て、彼の魔の手からは、逃げられなかった。

異形のモノ達は、一切の容赦無く、胴体を引き裂かれ、手足を引き千切られ、首を刎ねられ、頭を潰され、武器を砕かれた。

そうして、見るも無残に成れ果てた、其れ等の残骸は、彼の“気”に灼(ヤ)かれた。



悪寒を誘う、哄笑と絶叫。

其の終幕に訪れる、静寂。

凍り付いた様な、其の時間。



白銀色の刀身から闇の欠片が零れ落ち、遺灰となって、サラサラと砂や霧の如く消えて行く。

其の消滅して行く間際に、ホロホロとボンヤリとした小さな淡い光を放つ。


けれど、其れは一瞬のこと。

生まれては、すぐ消える灯。

其の光の色は、色鮮やかな色彩から、暗く澱(ヨド)んだ色彩まで多彩な色の統一性の無い光の粒子達だった。



光の粒が、全て、暗闇に、滲み、解けたのを、最後に、饗宴は、終わった。






「さて、と…次は、お前だぜ?」





相変わらず、三日月形に歪めた口元で、子供らしくない嫌らしい笑みを作りながら、##NAME1##の元へと歩み寄る。

##NAME1##は、身動(ミジロ)ぎ1つしない。前を、彼を見据えた侭、動こうとしない。


そして…――――、




「!」





##NAME1##は、無言で目を剥(ム)く。

彼女の視界に映ったのは、刀身の切っ先では無く、ぐらりと傾(カシ)ぐ体。


懐(フトコロ)へと倒れて来た其れを、彼女は抱きとめた。

其れを受け止めるなり、##NAME1##の表情が強張(コワバ)る。

彼の身体は、高熱を帯びて居た。





「――ッ……チ、ックショ」




しがみ付く様に、縋り付く様に、袖を握り締めて、彼はきつく眉根を寄せる。

苦し気に喘(アエ)いで居る。零れる吐息も熱い。

何より驚いたのは、見下ろす彼の身体が、所々、傷だらけだと言う事。

小さな裂傷と掠り傷ばかりで、どれも大した傷ではないにしろ、少量ずつ血が滲んで居る様は、やはり痛々しく映る。

彼が凭(モタ)れ掛かった侭の状態で、##NAME1##はしっかりと腕で彼を抱き込み、ゆっくりと其の場にズルズルとしゃがみ込む。彼の身体も、其れに釣られる様に、崩れ落ちた。


座り込んで、彼の身体を横たえる。そうして、数十秒の間、##NAME1##は考え込んだ。

血を水で洗い流したり、消毒液を噴き掛けて、絆創膏(バンソコウ)を貼る。濡れた布で額を冷やす。布団に寝かせる。という簡単な応急処置をしようにも、物が無い。

此れでは手当ても介抱も仕様が無い。そう思った彼女の頭に、先日のある出来事の会話が、咄嗟(トッサ)に、過(ヨ)ぎった。


小石に躓いて、転んで擦り剥いてしまった膝の怪我を、近所の犬が舐めた。

どうして態々(ワザワザ)傷の所を舐めるのか、嫌がらせなのかと聞くと、傷を消毒してくれてるのだ、と教えて貰った事を思い出したのだ。



ペロペロ……





「……何してんだよ?」





怪訝(ケゲン)そうに問うて来る声に、一旦、応急処置の行為を止めて、答える。





「タロちゃん(←近所の犬の名前)を見習って、応急処置。」


「……そーかよ。」


「…痛い?」


「…………。」





沈黙。

そして、





「こんくれぇ、痛くも痒くもねーよ。」


「………ちちんぷいぷい、痛いの痛いの、飛んでけぇ〜」






数秒の間を空けての返答に、痩せ我慢だと見抜いた##NAME1##は、怪我をした時に宥める、おまじないを口にする。

そしてまた、応急処置を再開した。















And that's all・・・?
(それでおしまい・・・?)

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解せぬ花