魔法界から個性社会へ




突然だった。




「見つけた、僕の―――――…」




ヴォルデモートとの因縁と戦いが、漸く終わって、少し時が経った時だった。

ヴォルデモートが復活したのかと思う程の邪悪なプレッシャーと狡猾な声に、一瞬、体が硬直した隙に、闇に引き摺り込まれた。

ヤバイと感じると同時に杖を抜き、襟首を引っ張る“悪”へと、攻撃呪文を放つと、あっさり”悪”は消えた。

其れと同時に闇から、放り出されたと思ったら、其処は、私の世界じゃなかった。

苦痛、幸福、絶望、希望、悪、善、恐怖、勇気、生、死ーーーーそして、愛。全てがあった。

魔法界こそが自分の居場所だとして、摩耶の全てが、この世界を強く強く、拒絶した。

同時に、何が何でも皆の…魔法界に帰る事を、1人、固く強く決意した。

それでも、やっぱり、ヘコんで、嘆いて、ちょっとだけ泣いてしまった。

だって、ようやく巨悪の脅威から解放されて、これからは、好きなことを存分にやって、皆と生きて行くんだ!と思ってたのに、あんまりじゃない!!?










―――― ★ ――――











爆豪side



そいつは、いつも、するりと、すり抜けて行ってしまう。

この俺を見る所か、気にもかけない、存在しないとでも言いたげなヒョロガリは、凄まじい嫌悪感、苛立ち、不快感、屈辱の負の感情を、俺の中に残しながら…。




「excuse me?」




周りの人間はいつも俺の下だった。

大抵なことは何でも出来た。なんでも完璧にこなせた。

頭の良さ、才能、センス、身体能力、その全てがどんな奴よりも勝っていた。

そして────圧倒的な強固性。

俺は全てを持っている。持っていて、努力もする。俺と周りの人間の差は圧倒的。俺は誰よりも強い、強くなる。

周りの人間は全員ザコで、圧倒的に俺の下。それが俺の当たり前。今までずっとそうだ。だから、それが覆ることなんて一生来ねえ。


そう思っていた矢先の出来事だった。


幼稚園の帰り、いつも通り、俺の後ろを、くっついて来たデクと、一緒に遭遇した1人の外人。

そいつは、ネイティブレベルのイギリス英語で、俺達に話しかけて来た。

そして、焦って困って居るのか、ペラペラと喋り出した。

この時の俺は、平仮名とカタカナは勿論の事、漢字も読んだり出来た。

しかし、この外人の英語レベルに、受け答え出来る事は出来なかった。

固まる俺とオロオロするデク。ちょうど、その時だった。

俺達の後ろから聞こえて来た、ソプラノの声。




「Can I help you?」





振り返ると、ただ無造作に伸ばされた癖のないストレートの黒髪に、服を着ていても分かる程の小枝のように細く薄いガリガリな小さな体が目に飛び込んで来た。

その体の上に付いている顔を見れば、頬は少しこけ、蝋のように蒼白な顔は、まるで映画に出て来る死人や吸血鬼そのものだった。

しかし、目の下に薄黒く隈を作りながらも、その中で目だけが爛々と、虹色に光っていた。

少女は、俺達に一瞥(イチベツ)を寄越す事もなく、外人とペラペラと、淡々と、会話をしていき、その外人と一緒に去って行った。

腹の底で、何か、燻る黒いソレが、誕生した。










―――― ★ ――――











緑谷side



僕には、2人の幼馴染がいる。

1人はかっちゃん。昔からガキ大将で、個性が出てからそれがまたより一層激しくなった。…仲はいいとは言えないけど一応幼なじみだ。

もう1人は摩耶ちゃんだ。彼女に会ったのは幼稚園の時。僕とかっちゃんが外国人に英語で話かけられ、困っていたところを助けてくれたのが始まりだ。

摩耶ちゃんは無個性な僕を馬鹿にしない。それどころか個性がある人に、「出久の方が凄い」と言い張る風変わりな女の子だ。

摩耶ちゃんは、自分の力を「個性ではなく、魔法なの」と誇らしげに笑って言う。時には魔法界の事をちょこちょこっと教えてくれたりした。

そのせいで、嘘つきだとか電波系だとか信じない人達に、病院で検査した足の小指に2つの関節があるレントゲン写真とかを突き付けて、これが証拠だと力説したりしていた。

それに珍しくヒーローに憧れがない。むしろ、心底ウンザリした顔をする。なんでそんな顔をするのかは、教えて貰えなかった。

それに加え、「オールマイトって誰?」なんて聞かれた時はびっくりした!オールマイトを知らない人がいるなんて…!!そこからつい癖でヒーローの事を語りつくしちゃったけど摩耶ちゃんはちゃんと聞いてくれた。

途中ツッコミやボケを入れたりするけど、それでもなんやかんやちゃんと聞いてくれるから僕も話過ぎちゃって今では摩耶ちゃんもヒーローには詳しくなっている。

摩耶ちゃんとは一緒に帰ったり、学校でも一緒に行動したりするので仲はいいと思う。無個性故に友達が出来ない僕にとっては、唯一の友達。

無個性って事だけで僕を決めつけないで、ちゃんと見て、評価して、僕を認めてくれる。摩耶ちゃんは、良い人で、心優しい人で…不思議な人だ。

魔法うんぬんかんぬんもそうだが、同い年なのにたまに僕よりもずっと長く生きてるんじゃないかと思うような事を言ったりする。

そんな不思議でよく分からない摩耶ちゃんだけど、小さい頃から今日まで、ずっとかっこよくてヒーローみたいだった。かっちゃん同様、オールマイトより身近な“凄い人”。




「同じ目の色でも、こうも違うんだね。」




でも、摩耶ちゃんは時折、寂しい瞳をしては、遠くの情景を見ている。

特に、僕の目を見ては、それを通して、異国の幼馴染を見ていることが間々ある。

「まだ、帰れないの」と、ぽつりと零した弱々しい言葉に、僕は、力になりたいと思う。

その一方、「でも、必ず帰るわ。だって、魔法界は私の故郷で、ホグワーツは私の家なんだもの。私は皆と生きて行きたいのだから。」と確固たる迷いのない力強い声で続くその言葉に、「帰らないで」と引き止めたくなる気持ちが湧き上がる。

そんな、もどかしくなる矛盾した思いを抱いてしまうから、結局、僕は何も言えなかったし、何も出来なかった。

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解せぬ花