1メガトン級の核爆弾1000億個で爆撃された世界の話4
摩耶と喧嘩した。
「……女なんか、黙って俺の言うこと聞いてりゃいいンだよ…………ッ」
この俺のその言葉が発端だった。
そこには瑠璃のよく知る母の字が書かれていた。
大人らしからぬ中学生が書いたような丸文字。変わらぬその文字に、瑠璃は小さく笑いつつ、安堵と共に涙がこぼれ落ちた。
「変わらないなぁ……」
手紙の中身は子供っぽい文字に反して、子を心配する母のものだった。
ちゃんとご飯を食べているのか、眠れているのか、怪我はしていないのかと。
肩にかけたスクールバッグは中身スッカスカ。置き勉派だし、早く帰って裏山に行きたいから、身軽でいたいのだ。
それなのに、身軽でいたくてそうしてるはずなのに、足取りはずっしりと重たい。身体の調子はいつも通りイイ感じだ。いつも通り、前日の特訓の火傷がピリピリしていて。
−−ほんとサイコー。
心の声ですら棒読みだ。それ程までに、今日の燈矢の気分は鬱々としていた。
自分から目を背けるようになった父、父からの期待に応えようとしない末弟、そんな末弟を庇うひ弱な母、燈矢を理解してくれない妹弟、そして、いつまでも父を納得させられる実力を身に付けられない、己自身。
いつもいつも苛立っている。だけどたまに、耐えがたくてどうしようもなくなる時がある。それが今日。たったそれだけのことだ。
家に帰るのも億劫で、裏山に行くのも惨めな気分になる。交友関係の希薄な燈矢には、ふらりと遊びに行けるような友達の家もないし、そもそも寄り道して気晴らししようと誘ってくれる友達もいない。
なんの志しもないのに、テレビの中のオールマイトにキャーキャーして、ヒーローになりたいだなんて宣うお気楽ども、つるみたくなんかない。あんなやつらカスだ。オールマイトファンはこれだから。焦凍とか焦凍とか焦凍とか。
内心で散々な悪態をつきながら
泣き止んだ燈矢は、己の境遇を洗いざらい少女へ吐き出した。こんな子供に一体何を聞かせているのかと思われるだろうが、とにかく誰かに聞いて欲しかったのだ。
支離滅裂だし難しい言葉も使ったのに、少女は真剣に聞いてくれた。そして子供ながらに、一緒に考えてくれている。
「ヒーローむずい」
「……ね」
とは言え、ちびっ子には流石に難しい話題だ。お手上げか、と燈矢はやるせなく笑う。聞いてくれただけでも救われた。家族だってまともに取り合ってくれないから、こんな風に吐き出して頭がスッキリするのは、初めてだ。
身体治す。治してヒーローになる。
「なおす、だと……?そんなこと、」
「皮膚科学とか、細胞学とか、いっぱい調べた。大学病院にまで聞きにいった。難しいし、まだ実用化されてない技術だけど、方法ならあるって」
「倫理に反するッ!!」
尚も認めようとしない父を、燈矢は顔を上げてキッと睨みつける。幼さの残るその目には、涙が滲んでいた。
「倫理?アレルギーだって免疫治療がある。癌なら遺伝子療法なんかもある。生まれ持ったもの全部受け入れるのが正しいなら、薬も医者もいらない、ただ死ぬのを待つだけ?違うだろ。みんな生きたいから、生きてやりたいこといっぱいあるから、頑張るんじゃん。僕だってそうだよ。頑張りたい、諦めたくないんだよ……!!」
堪えきれず溢れ出した涙が頬を伝い、板張りの床にボタボタと落ちていく。
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解せぬ花