1メガトン級の核爆弾1000億個で爆撃された世界の話3




誰だって、1度くらい同じクラスになっただけのモブのことなんて、いちいち覚えてはいないだろう。

そもそも、関わりなんかなかったら、尚更だ。俺だって、周りのモブ共なんか、ちっとも見ていなかった。

けど、お前と俺は、モブじゃない。学校でも地元でも、主人公って言っても過言じゃない程の有名さを誇る主要キャラだ。

そう、思ってた。お互いに、そうだと、思ってるって、当然のように、疑いもしなかった。

だから、俺の名前を憶えていなかったお前に、少なからず、俺のプライドは傷付けられた。

ので、言ってやりたかった。「俺はモブじゃない!」って。

そう認識させてやる為に、次の日、いつもより早めに登校して、教室に行き、机にランドセルを置いて、またすぐに玄関口まで戻って、待ち伏せをした。

同じクラスなんだから、教室で待っていれば良かったのに、そんな確実で余計な手間がない簡単な考えが思い浮かばない程度には、冷静じゃいられなかった。

静かで澄んだ朝の空気は次第に薄れていき、たった今登校してきた児童や校庭に遊びに出る児童が多く行き交い始める。その喧騒を煩わしく思っていると、能天気なモブと会話しながらヘラヘラ笑って歩いて来る摩耶が視界に入った。

視認したと同時に、 地面を荒々しく踏みつけ、足音を響かせて、ズンズンと足早に、摩耶のもとへと向かった。



「ん?おー、おはよー。とろr」


「ちょっといい?(話しあるからツラ貸せやゴルァ!)」



摩耶のセリフを遮り、 燈矢はそう言うと、有無を言わせない内に、摩耶の腕を掴んで、人のいない空き教室まで連れて行き、扉から離れた部屋の奥のすみっこまで行くと、掴んでいた腕を離し、向き合う。




「まず、最初に言っておく。俺の名前は轟 燈矢だ!」


「いや、別に自己紹介しなくても有名人の名前くらい、さすがに私でも知ってるよ。とろろ屋さん家の轟 燈矢君でしょ。」


「俺の苗字をとろろと勘違いしてる訳じゃなかったんだ。つーか、とろろ屋さんじゃねーよ!どっから出てきたんだよ、その説は!」


「あれ?違った??お父さんは地元の都市部へヒーローとして働きに出て、お母さんは瀬古杜岳で自然薯の栽培とかしつつ、あの超大豪邸の日本家屋で、とろろ屋さんを開いてr…」


「桃太郎みたいに言うなよ!瀬古杜岳で自然薯なんか育ててないし、家で自然薯の販売とかもやってない!お父さんの稼ぎだけで充分だから、働く必要なんか全くないお母さんは専業主婦だ!!」


「それは、すまんすまん。分かったよ。とろろ屋さんじゃない、ただの轟家の息子の燈矢君。」


「〜〜〜〜〜ッ!遠国さんは、いちいち俺の気に障る言い方しか出来ねェの!?」



燈矢は別に自慢とかしたい訳じゃないが、No.2ヒーローが居る轟家を、“ただの”とか、そんじょそこらにいる有象無象の輩どもと、一緒くたにされるのは、ムカつく!!



「用件は、それだけ?終わったなら、もう行って良い?」

「名前訂正の為だけに、わざわざ早く登校して、君を待って、こんな空き教室まで連行する訳ねェだろ。」

「それもそうだね。んじゃ、次の用件をどうぞ。」

「…昨日、しつこく蜂蜜を押し付けて来たの、なんなの?君には俺が黄色いクマにでも見えてるの?後、いきなり肉と野菜の炒め物をススメて来たのは、なんで?」

「なぜなぜ期の幼い子供みたい」

「うるせェな。余計なことは、言わなくて良いんだよ。黙って俺の質問にだけ答えてろ。」

「わぁ〜、凶悪な俺様系ヴィランみたい。」

「俺がヴィランなら、言う事を聞かなかった今の時点で、お前は燃やされてる。良かったなぁ?俺がヒーロー志望で。」

「ヴィランっぽい見た目ヒーローランキングに余裕のよっちゃんでランクイン出来る顔と言動。さすがエンデヴァーの子だ。」

「個性以外で、お父さん似だって言われたの初めてなのに、嬉しさが微塵も湧かないのは、なんでだろうな。お前の個性、感情の無効化だったりするの?」

「残〜念。私の個性は、感情の無効化でも、感情鈍麻(アンヘドニア)でもないで〜す。」

「まぁ、お前の個性なんて、どうでもいい」

「聞いて来たのは、そっちなのに!?」



他のポヤポヤした奴等なら、個性の話は、ヒーローの話と同じくらい盛り上がるものだが、あいにく、そんな時期は、とうに卒業した。

今は、家族以外に関心を持てる奴なんていないし、No.2ヒーロー以上の個性を持っている自分より凄い強個性なんて、滅ッッッッ多にないに決まってる。つーか、あってたまるか。

家族でも友達でもない、ただの同じクラスの同級生で、ベクトルは違えど同じ有名人同士だけど、ちゃんと接点を持ったのは、昨日が初めての希薄な関係。

その上、自分よりショボイ弱個性と決まってる相手に、関心を持てって方が、土台無理な話だ。

俺みたいな強個性や回復系などの希少な便利個性なら、幼等部の頃に、周りから持て囃され、誰の耳にも入るくらいには、騒がれて、話題になっている筈だ。俺が知らないってことは、その線は無いってことだ。



「一応、聞いとくが、治癒とか回復系の個性じゃないよな?」

「それなら、蜂蜜なんて渡さずに、君の火傷を治してるよ。」



やっぱりな。

治癒出来る個性なら、仲良しなオトモダチになって、火傷を負う度、治して貰うことが出来たのが…。やはり、現実は、そう都合良く行かないようだ。

どうせ、弁当だの給食だの木苺だの蜂蜜だの、食べ物ばっかりのこいつのことだから、料理に関する個性かなんかだろ。



「……ん?なんでそこで蜂蜜が出て来んだよ?」

「は?……もしかして、火傷常習犯のクセに、蜂蜜塗布の治療法を知らないの??」

「うっせェな!火傷の手当てなんて冷やすだけで良いだろ!大体、蜂蜜を火傷に塗るぅ??ホントに効くのかよそれ。ベタベタする上、虫が寄って来ることしか想像出来ねェんだが??」

「まさかの原始人以下の治療レベル!蜂蜜は、抗菌作用、保湿・保護効果、創傷治癒の促進の作用もあるんだよ。後、カブト狩りじゃないんだから塗って終わりじゃない。清潔なガーゼや絆創膏に蜂蜜を塗って、それを傷口に貼るの。」

「原始人以下は言い過ぎだろ!そっちだって、失礼千万で謝罪必須レベルだ!」

「確かに!原始人さん、ごめんなさい!!」

「いや、俺にだよッ!!なんで原始人の方に謝ってんだ!!」

「てか、父親と同じ個性でしょ?その父親は火傷の治療法を教えてくれないの!?まさか、父親も原始人以下??ヒーローって、応急手当や救命知識とか、現代人レベルはないと駄目な筈なんだけど…。え?偽者ファイヤーヒーロー??」

「ふざけんな!お父さんが偽者なわけないだろ!正真正銘、本物のヒーローだ!!後、フレイムヒーローなッ!No.2ヒーローのお父さんは凄く多忙で、教えられる暇がないだけ!仕方のないことなんだ!火傷だって、お父さんは、俺と違って負わn…」

「…………。」

「ッツ…つーか、なんで俺が火傷常習犯ってこと知ってんだよ?ストーカーか??」

「いや、話題の誘導ヘタクソか。」

「いいから!!」

「まぁ…いつも山に籠ってるって昨日言ってたし、火傷が出来る原因は、いくつかあるけど、昨日の手ぶら状態や火傷の状態とか見て、個性の炎による火傷を日常的に負ってるのかな?って。」

「お前の個性、探偵だったりするの?」

「んな訳ないじゃん。将来の夢はヒーローって昔から変わらず豪語してるでしょ。それも『なりたい』とか希望的観測じゃなく、『ならなきゃ』ってOCDか?って位に意識高い系なら、ヒーローになる為の修行でもしてるのかな?って思い至っただけだよ。」

「(OCD?)…やっぱ個性、探偵だろ。それも、名探偵並みの推理力を持つ個性。」

「ご期待に応えられなくて申し訳ないけど、違うんだな〜。将来、探偵になったって、役に立たない個性さ。」

「そこまで分かったなら…今日にでも、チクるんだろ。」

「…へ?チクる?誰に?何を?」

「とぼけんなよッ!ヒーローになる為の訓練してたって!個性、使ってたって!お父さんやお母さんや冬美ちゃんや夏君とかに、チクるんだろ!」

「はい、確認!その言い方は、将来の夢の為とはいえ、子供が1人で火遊びをするという非常に危険な行為を、日々、行っていた事がバレて怒られるのが、嫌って事じゃないんだよね?」

「そんな事じゃないよ!火傷するからって個性使うなって!俺はヒーローになれないから、諦めろって!…お前も、やめろって言うのかよ?」

「はぁ?火傷するから訓練するな?いや、ヒーローの修行に怪我は付き物だろ。てか、怪我するから修行するなって言われたら、ヒーロー志望に関わらず、誰ひとりとして、何にも出来ないじゃん。」

「…へ?」

「そんなこと言われたら、私だって料理人になる為の修行が出来無くなっちゃう。」



ほら!と言って、傷だらけの両の掌を、じゃんけんのパーのように広げて、燈矢に良く見える位置まで持っていく。



「そりゃ、怪我する頻度が多いほど絆創膏とかの出費がかかるけど、子供にかかる総額費用に比べたら、10マイクロメートル以下の1つの埃も同然なんだから、『やんちゃだなぁ』『頑張り屋さんだなぁ』とか思って、親として生暖かく容認して欲しい」

「違っ、俺の体、個性で、…個性と体質の不一致でっ、俺の個性は炎だけど、身体には炎耐性がない。むしろ氷に強い身体で、熱に弱いから、必ず火傷しちゃうから…」



彼の体質を考えれば、その“個性”はヒーロー向き≠ヌころか使用すら危うい≠烽フである。



「なんだ、そんな事か。」

「は?」

「『不治の病に侵されていて、余命いくばくかの命です。将来がないから、ヒーローになれません。』みたいな理由があったら、かける言葉がないと思ってたけど…あ〜、良かった。」




「私は、誰も彼もが自他共に認める問題児だけど…人の努力を邪魔したり妨害するような問題児ではないよ。」



本気出して それから あきらめろ



恐らくだが、轟くんは火傷を他人に知られたくないのだ。

火傷を隠す理由として考えられるのは、たとえば虐待を隠そうとする被虐児は意外に多いという。
そんな情報をネットで仕入れてしまい、その中途半端な知識が頭を過ぎって轟くんの様子を窺ってしまう。
その視線が余計に鬱陶しいらしく、まるます態度がつれなくなる悪循環が起きていた。



彼女の手を掴みとる。先程は腕を掴んだから気付かなかったが、今、触れてから燈矢はようやく気付く。

そして、それを確かめるように、彼女の手に視線を落とせば、手のあちこちに傷が沢山ついていた。

おそらく、料理中に生じた切り傷や火傷のようなものに加え、豆が潰れて出来たものやタコのようなものもあった。

これは、ポヤポヤと日常生活を送るだけでは、絶対に出来る外傷ではない。

古い傷から新しい傷まである手は、長年、ずぅっと努力を怠ることなく、鍛錬を積み重ね続けて来た証明だ。

お母さんや冬美ちゃんみたいに、傷一つなく、女特有の滑らかで柔らかい繊細で美しい手とは違う。

傷だらけでボロボロで、所々、皮膚が固い所などあるデコボコで、水仕事で手荒れを起こしてるカサカサした手は、お世辞にも、綺麗とは言い難い。きっと、大半の人が見れば、汚い醜い手と思う事だろう。

しかし、努力の証である傷まみれのその手は、燈矢には、とてもキラキラと、輝いて見えた。

好きな手ランキングなんて、そんなヘンテコな物はないだろうけど、もし、順位を付けるなら、1番は勿論、お父さんの大きくて逞しくて立派な手だ。

遠国 摩耶の手は、そのお父さんの次くらいには、してやっても良いって、素直に思える程度には、気に入った手だった。


親中心・親主導の子育てをやめろ

人は、『誰かのせい』『何かのせい』にして責任を負うことを回避する傾向がある。

アンタら親の、その犠牲になるのは、そこの子供達のような弱者だ。

子供達は、犠牲になりながら、その中で何とか生き抜く為に、”自分”をなくして”親にとってのいい子”を生きている。

わが子の”その子らしさ”を奪ってしまわないように、親中心・親主導の子育てをやめて、見直すこと、譲るべき主役は、子供に譲ることが望まれますよ。



燈矢の為にサポート会社と共同開発していた燈矢専用のサポートアイテムを予定より早く完成させた。

個性という物は血縁由来で、掛け合わせた血統によって望む個性を生み出せたり、まったく違うものが生まれるかも知れないなど、色々と多岐にわたるらしい。

「・・・仕方が無いだろう!?お前の体質では、あまりにもリスクがありすぎるんだ!いいか、ヒーローだけじゃないんだ!もっと!」

- 71 -

*前次#


ページ:








解せぬ花