イカレ女記者役の夢主ver.(MHA:敵連合夢) 15
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(side他)
夏の夜空を闊歩する。涼しい風を切りながら、緑谷、飯田、切島は荼毘を攻撃しようとする爆豪を宥めた。
「轟君のお兄さんですね!?」
飯田が尋ねる。
「んだよ、そこまでバレてんのか」
爆豪ごと四人を抱えた荼毘が嬉しそうに口角を上げた。戦っていた時とは違う穏やかな眼差し。きっと、こちらの表情の方が素なのだろう。
「テメェら、グルか」
鋭い眼光で荼毘を睨む爆豪に、切島は宙を移動する恐怖と救出成功の高揚感に任せて頷いた。
大人しくなった爆豪を鼻で笑いながら、荼毘は炎の出力を上げる。夜空の雲に混じって飛んでいるので、案外下の連中には気づかれない。
「色々、終わったら!」
OFAの出力を調整しながら、緑谷が叫ぶ。
「轟くんと、話をしてあげてください!」
その言葉に、荼毘は片眉を持ち上げた。
「お前はエンデヴァーじゃない!」と言った一週目のように、こちらの事情にまで首を突っ込んでくるのは変わらないらしい。真剣な態度になんだか燃やしたくなってくるが、末っ子の友人と言うこともありグッと堪えた。
「言われなくても、そうするつもりだよ」
四人抱えていても、燐の調整に支障はない。廃ビルの屋上に危なげなく着地し、餓鬼を降ろす。
「さっさと保護されてこいクソ餓鬼」
「貴方は?」
「まだやる事があるんでな」
これはリーダーからの指示だ。
立ち去ろうとする荼毘を、飯田が服ごと掴んで止めた。振り返った先には、スマホをこちらに寄越す緑谷がいる。
画面には、「轟くん」と表示されていた。
『燈矢兄』
スピーカーモード。末っ子の声に荼毘の心臓が脈打つ。いけない。ここは平静にいかなくては。
「久しぶりだなあ焦凍。いや、合宿からそう経ってもねぇか」
画面の向こう側で息を呑むのが分かった。何かを責め立てようとして、落ち着かせているかのような。
『……聞きたい事とか、話したい事とか、色々あるけど今は置いておく』
「おう」
『…また、会えるか?』
祈るような声だった。緊張して震えてるくせにそれを隠そうともしない。その言葉のなんといじらしい事か。
荼毘は笑う。愛おしそうに目を細め、しょうがないなとでも言うように眉尻を下げて。
「ああ」
優しい、けれど不器用な兄の声だった。
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(side女記者)
「やられたなあ。一手で綺麗に形成逆転だ」
AFOの指が赤黒く伸び、引石さんと黒いモヤの人を突き刺した。黒いモヤは移動系の個性だろうか、ゲートのような霧が現れる。
ーー何故か私の真後ろに。
「やべっ」
「お前!」
グラントリノさんがこちらに手を伸ばそうとして、死柄木に阻まれる。引石さんの個性だろう「重力」によって、迫さんと死柄木がこっちまで飛んできた。引石さんも投げ飛ばされた。
「待て待て待て待て!?!!」
「先生!!」
「ふべらっ!!!」
死柄木の背中が顔に直撃し鼻が痛かった。その勢いのまま霧に吸い込まれ、別の場所に着く。
黒い霧が晴れた先は、廃れたプレハブ小屋の中だった。
「何ここ!?」
そう言う前に、首を捕まれ押し倒される。瞼を開けると、死柄木の血走った目が硬い白髪から覗いていた。
「なんでお前がここにいる殺すぞ…!!!」
「オカルト記事の取材してただけですが!?!? 死柄木こそなんでいんの!?」
「殺す」
「物騒!!!」
死柄木の手と自分の首の間にギョーザを滑り込ませて弾き、距離をとって連射する。カメラ持ってきてよかった!
『体が朽ち衰えようとも、その姿を晒そうとも、依然私の心は平和の象徴。一欠片とて奪えるものじゃあない!』
右耳でオールマイトの声を拾った。
私の個性で生み出せる二体のうち、ウサ公は耳が良く、特殊な音波を放ち感知できる。通信の解析は私にしかできないが、二体いれば離れたところからでも一定の盗聴が可能だ。
今、私の耳の中には小さなウサ公が入っている。もう一方はオールマイトさんたちが戦っている現場に埋めてきたので、現場の音声が筒抜けだった。
我ながらクズだが、この状況なら何かスクープが取れると思ったのだ。
『じゃあこれも君の心には支障ないかなあ。あのね、死柄木弔は、志村奈々の孫だよ!』
誰だよ志村奈々さん。
『君は弔を下したね。何にも知らず勝ち誇った笑顔で!』
『ウソ…だ…』
『事実だよ。分かっているだろう? 僕のやりそうなことだ!!』
沈黙。布の擦れる音がする。
「おい」
「ちょい黙ってて」
耳に手を当てる。完全なる盗み聞きなので心の中に止めよう。
『お師匠の、ご家族…。…彼が……私はなんということを……!』
「え、死柄木のお祖母さんオールマイトの師匠なの!?」
無理だった。死柄木は「なんで知って……盗み聞きしやがったのか」と顔を顰め、急に白けた。殺気も離散し、屋敷の中のようなクソガキに戻る。奴は身体中につけた手を外し、黒いモヤの人の肩を足で揺すった。
「で? ネタにすんの?」
「流石にしないって。相手は天下のオールマイトさんだし色々面倒」
立とうとしたけど、そういえば両足が潰れていた。普通に激痛だが、カメラが壊れていないので悶えるほどでもない。
『緑谷出久! OFAの譲渡先は彼だろう? 資格もなしに、まるで制御できてないじゃないか!』
爆発音がこだまする。いきなり出された内容に私は白目をむきかけた。
(どう考えても一般市民が知っちゃいけない情報だこれええええ。完璧にミスったああああ!!!!!!)
しかし、心の中に止めておけばいい話なのである。そう思って顔を上げると、死柄木に睨まれた。
「お前、AFOとOFAについてどこまで知ってる?」
そう聞くってことは知ってるのはバレてんじゃんヤダ〜〜。
「緑谷君が継承者ってことはさっき知った!」
「そうか、殺す」
「理不尽!!」
両手の筋肉だけでどうにか避ける。死柄木は「キモ」と一言だけ言って、床に偉そうに腰を下ろし、ポケットからスマホを取り出す。見ているのは音からしてオールマイトさんとAFOの戦闘の生中継だ。
完全にくつろいでやがる。こちとら両足動かないって言うのにコイツマジで有る事無い事書いてネットニュースにしてやろうかな本当。
「わ゛た゛し゛に゛も゛見゛せ゛ろ゛」
這いずりながら死柄木の背中に乗る。まるで子泣き爺。大の大人が何やってんだと吐き気すら催すが、こうしないと見えないので仕方がない。本来ならスマホを奪い取ってやるところだが、私は優しいので妥協してやろう。
「邪魔だ退け殺すぞ」
「私から記事を奪い取れると思うなよ?」
死柄木は鬱陶しそうに振り解こうとしたものの、私の回避技術の方が上なので次第に諦め、舌打ちをした。
オールマイトとAFOの戦いは、激戦を極めた。周囲の建物は吹き飛び、崩壊し、他のヒーローたちは救助活動で手一杯。そうでなくても、あの二人の先頭に割って入ることなど到底できないようだ。
(オールマイトって八木さんだったのか)
予想できていたので驚きはしない。何十発もの抗戦の末、ついにオールマイトが一発を決める。
『浅い!』
AFOが嘲笑う。だがオールマイトは諦めてはいなかった。力が集約したはずの左腕が縮み、青紫に壊れ血飛沫を上げた右腕が膨らむ。
『そりゃあ、腰が入ってなかったからだ!!」
UNITED STATES OF SMASH!!!!
AFOが地面にめり込み、彼を中心にコンクリートが割れた。突風が吹き荒れ、瓦礫が舞う。スマホから聞こえる、レポーターの震えた声。
『お、お……』
萎んだ拳が掲げられ、今再び、平和の象徴が姿を現した。
『オールマイトおおおおおおお!!!』
夜明けが訪れる。オールマイトを呼ぶ数多の声が聞こえてくるような気がした。
「…いい加減起きろ、黒霧」
ペイッとせみの抜け殻でも剥がすように捨て置かれる。死柄木は立ち上がって黒霧と呼ばれたモヤの人を蹴った。
「…ここは……死柄木弔! 無事ですか!?」
「いいから、さっさと俺をここに飛ばせ」
死柄木はスマホ画面を指差す。そこは彼らが先ほどまでいた場所だ。「しかし…」と戸惑う黒霧さんに、死柄木は「早くしろ殺すぞ」と脅しをかける。
(これもしかしてスクープのチャンス?)
そう思うが早いが、私は反射的に死柄木の足首をものすごい勢いで掴んでいた。
「彼女は…?」
「ほっとけ、社会のゴミだ」
「わ゛た゛し゛も゛つ゛れ゛て゛け゛え゛」
「粗大ゴミ持ってく趣味はねえ」
「んな折衝なあああああ!!!」
負けるものかと死柄木の足首に指をめり込ませ、血走った目でやつを見上げる。
「ふ゛ざ゛け゛る゛な゛!!! こんなチャンス滅多にねえんだぞつ゛れ゛て゛け゛え゛え!!」
「キモ…」
死柄木に軽く足蹴にされる。せめてもの起動したカメラをあっさり壊され、散っていく塵に私は咽び泣いた。
「おま、ふざけんじゃねえよ高いんだぞカメラはあ!!!」
「行くぞ黒霧」
畜生!!! これじゃインタビューできたとしても写真撮れねえじゃねえか!! 記事の魅力半減だ馬鹿野郎!!!
「ヴィランもヒーローもどいつもコイツも取材の邪魔しやがって!!!! 畜生!!!!」
本気だった。かつてないほど悔しかった。けれど死柄木は哀れな記者の咽びに目もくれず、むしろゴミを見るような目をしてさっさとゲートを潜ってしまう。
「待゛て゛や゛ゴ゛ラ゛ァア゛!!」
伸ばしたては空を切る。黒霧さんは終始私にドン引きしていたが知った事か。悔しさのぶつけ先もないまま、ゲートは閉じていく。
「畜生……畜生!!!」
私が弱いばかりに、良いネタを取りこぼしてしまった。私は両の拳を硬い地面に殴りつける。食いしばった唇から血が、鼻から鼻水が出た。
「……なってやる」
砂利を握る手が決意で震えた。
「強くなってやる!!!!」
ーーもう二度と、ネタを取りこぼさないように。
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(side八木)
AFOを倒し、OFAと別れを告げた。厳戒態勢でメイデンに入れられるAFOを見ながら、オールマイトこと八木俊典は、立っているのもやっとな状況で右腕に力を込める。
カメラを指差し「次は君だ」と、緑谷に、後継者に伝えるためだ。八木はもう、全てを出し切ってしまったから。
激痛で痺れる体を保ちながら、人差し指以外の指を握り込む。
clap、 clap、 clap。
報道へ向けて持ち上げようとした時、どこからか聞こえてくるクラップ音。発生源を辿り顔を上げた先で、八木は目と口を見開いた。
「先生をこうもやっちまうとは」
ケタケタ笑う不気味な青年。
「ずっと待ってたんだぜ? アンタを殺す、この時をよお!」
ーー死柄木、弔。
お師匠の、ご家族。
(止めなくては!!!)
そう思う前に動かそうとした体は、言うことを聞かない。八木の次に、否、既にこの場で最も実力を持つエンデヴァーは、AFOを見ているため動けない。No.3のベストジーニストは、重症のため頼れない。
「死柄木ぃ!!」
エッジショットが動き出すも、死柄木はフラリと交わして軽く地面を蹴った。
軽く地面を蹴っただけだった。
なのに、彼は八木の目の前にいる。
「オールマイト!!!」
誰かの悲痛な叫び声。
八木は、死柄木弔と向き合った。
(私は……)
応戦しようにも、もう一歩たりとも動けない。硬い白髪から覗く死柄木の目は愉悦に曲げられ、その手はゆっくりと八木に伸ばされる。
(私、は……)
八木は、動かなかった。
動けなかった。
脱力も、目を閉じもしない。
死柄木の手が八木の顔面に触れる。
ーーそう思った瞬間。八木の目の前から死柄木が消えた。
「!?」
見ると、先ほどまで死柄木がいた地点が何か重い衝撃を受けたように抉れている。
振り返る。死柄木はエンデヴァーの炎を避け、AFOに触れていた。
「死ねえ!!!!」
痛快そうに上がる叫び声。死柄木の手から亀裂が広がり、あっという間に塵と化す。
死柄木が殺したのはオールマイトではなく、先生であるはずのAFOだった。
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(side死柄木寄り)
ゲームクリア。
崩れていくAFOだったものに、死柄木は息を吐く。
それを壊した手のひらを見つめ、握った。
足元には、AFOを輸送しようとしていた機動隊の二名が尻餅をついている。跳ね除けたエンデヴァーは、機動隊を人質に取られたと思ったのか戦闘体制を保ったまま静観している。
これで第一ゲームは終わり。
あとは死のうがタルタロス行きだろうがどうでも良い。
ラスボスを倒した高揚感。晴々とした気持ちで空を仰ぐ。朝焼けの風が心地良く、死柄木は目を閉じる。全てが終わって最初に過ったのは、スピナーの横顔だった。あの屋敷で並んでゲームをやり、時には対戦相手を罵倒した。そんなささやかな思い出が。
(……そういやLoLの続き、まだだったな)
『世論を動かす方法?』
ふと、女の姿が思い浮かんだ。チョコレートを食べながら、「そうだなあ」と馬鹿面で思案している。
『「これだ!」ってのはないけど、まあ、取り敢えず「同情」は重要なんじゃない? こういう悲しい過去があってこんな事しちゃったけど、実は誰よりもヒーローに憧れてたんですよ〜的な!』
言いながら、女はこちらにチョコレートを投げた。
『世間は世論にながされやすい。政治家たちは自分に沢山票を入れてもらいたいから、政策もそっちに傾く。過去には、殺人鬼が無罪放免になった事例だってある』
包み紙を壊してチョコだけを口に放り込む。
甘ったるい味の中から爆竹が弾けたような痛みが襲った。
勢いよく吐き出す死柄木に、女は爆笑する。殺意を覚えて殴り飛ばせば、女は回転しながら壁に着地し、カサカサとまたもとの位置に戻った。キモかった。
「……」
周囲は死柄木の動向を警戒しtw下手に動こうとしない。それを逆手に取って、死柄木は地面を軽く蹴った。
小さな動作だけで、彼はオールマイトの前に降り立つ。骸骨顔で、今にも死にそうな元平和の象徴。
ーー世論を転がすなら、うってつけの人材。
口角を上げる。だができるだけ悲痛な面持ちで、だ。
今なら、荼毘が爆笑する理由が分かる気がする。
「なあ、オールマイト」
動揺、罪悪、自責、責任、矜持、絶望、驚愕。全ての感情が入り混じったような顔で、彼はこちらを見上げている。AFOとの戦いで消耗し、腕一本動かせない体で死柄木を見ている。
「俺さ、アンタに憧れてたんだ」
真っ赤な嘘である。
子供なら誰もがオールマイトに憧れる。一周目はそれさえも作られた道だったが、まあ、憧れを抱いた転弧という子供がいたのは事実か。
「すまない」
そう言おうとしているのだろうか。オールマイトは口を開閉させている。
今動けばオールマイトが殺される。それを危惧するヒーローたちは動けない。報道陣でさえ、死柄木が話す姿をただただ眺めることしかできないのだ。
つまりここは、死柄木の独壇場。
なに、一週目にショッピングモールで爽やかな青年を装って緑谷に近づいたこともある。それの延長線と思えば、難しくも感じない。
彼は徐に上の服を脱いだ。途端に顕になった上半身に、オールマイトや観客は息を呑む。
抉れ、引き裂かれ、無理やり縫い付けられ、掻き混ぜられ。
そこには、夥しい数の解剖・改造の跡があった。一週目よりも早い、体の出来上がってない段階で改造手術に取り組んだ結果だ。遠目から見ても傷口は痛々しく、過去にある悲劇を予想してしまう。
死柄木はその反応に内心口角を上げた。
「酷え傷だろ? アンタが倒したAFOにやられたんだ。薬でも弄られた。俺はもう人間じゃないらしいぜ」
「そ、んな…」
オールマイトの絶望した顔。笑い声を上げそうになり思わず内側の頬を噛んで耐える。その震えさえ、泣いているように見えるだろう。
痛かった(まあ本当)。苦しかった(まあまあ本当)。助けを求めても(嘘)誰も来ない(嘘)。ヒーローが、いつか必ずヒーローがと、そんな幻想ですら打ち砕かれた(誇張表現)。
「ずうっとヒーローへの憎しみを教わってきた。この社会がどれだけ醜悪で腐っているのか、それだけを教えられて悪意だけを育てられてきた」
真っ新な嘘を身に纏う。既に観客は、「可哀想な青年の過去」に夢中だろう。
「でもな、オールマイト。アンタが光を見せてくれた」
貴方がいたから、絶望しなかった(嘘)。
やり方まで真似できなくてごめんなさい(大嘘)。
貴方がいたから、こうやって悪に立ち向かえた(嘘)。
貴方のおかげだ、オールマイト(嘘)。
俺はヴィランには変わりないし、嘘だと思うかもしれないけれど、貴方にだけは誤解されたくなかったから言った(大嘘)。
全力で猫を被る。傷ついた少年の顔で耳障りの良い言葉を並べていけば、オールマイトや、グラントリノとかいう老人の目が微かに潤んでいく。
「アイツを油断させるためだけに、雄英を襲った。アンタがいるから大丈夫だと思ったんだ。保須も、合宿所も、アイツの指示だった。従わないと体の傷が増えるから」
ここぞとばかりに責任をAFOになすりつけていく。近くで埋まっていたウサ公は物凄く微妙そうな顔をしているが知った事か。死柄木は早くゲームの続きがしたいのだ。
段々とハイになってくるが、冷静さを掻きはしない。
根性という言葉は嫌いだが、根性で涙を出した。それを雑に拭ってキラキラとした眼差しを歪め、下手くそに笑おうとして失敗する。こちらが本性なのだと、一発でわかるような素振りで。
一方足元では、女記者が仕込んでいたのだろうウサ公が(誰だお前)と言わんばかりの顔をしていた。
「罪は、ちゃんと償うよ。最初からそうするって決めてたんだ。…本当は、もっと被害を出さずにできたら良かったんだけど、ごめんなさい」
キャラじゃない。白々しい懺悔だ。まあ、AFOさえ殺せれば後は自分が何をしようがどうでも良いし、三割くらいは本音か。本音の混じった嘘は見抜きづらいと聞く。現にオールマイトはその目からボロボロと涙を流している。
ーーそのグズグズになった心に、入り込む。
「なあ、オールマイト。俺、ちゃんと償うよ。地獄でも、タルタロスでも」
ゲームやるまで入る気ないけどな(笑)。
さて、フィナーレだ。
「…だから、見ててくれ」
涙を流し、諦観したように笑う傷だらけの青年。朝焼けの空もいい雰囲気を出している。
(ちゃあんと食い付けよ、マスコミ共)
お前らが大好きな、「物議を醸す悲劇性」だ。
『次は、君だ』
一週目では、オールマイトが新聞の見出しを飾った。そこを掻っ攫う事ができたら、どんなに愉快だろうか。死柄木に荼毘のような趣味はないが、世論を動かすと決めた以上はしっかり餌を撒かせてもらう。
「ーーもちろんだ」
満身創痍の中、オールマイトの顔つきは未だ平和の象徴。
死柄木の体表にぶわりと鳥肌と蕁麻疹が出そうになったが、この体は死柄木の思い通りに動くのでどうにか押し留める。
「君は、私が見る」
言いたくねえ、と強く思った。
けれど、これを言わなければ決定打にならない。死柄木は歯を食いしばり、脱力して泣き真似を続行する。
「ありがとう」
声が震えていたのは、嫌悪か、高揚か。
兎に角、死柄木の目論見は大方成功。後は判決を待つだけだ。
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(side女記者)
手錠をされ、マスコミに囲まれながら連行される死柄木をスマホ越しに眺めていた私は、心の底から叫び散らかした。
「いや誰だよお前!?!!!!」
本当にマジで誰だコイツ。死柄木のそっくりさん? そうでなきゃ演技? え、あんな爽やかな演技できたの死柄木!?
「ねえ見てよ迫さん引石さん、鳥肌」
「すっごいわね、どんだけ気持ち悪がってるのよアナタ」
「急に肌見せようとしないで、おじさん照れちゃう」
どこかのプレハブ小屋に取り残された私たち(迫さんと引石さんはさっき起きた)は、迫さんが持っていた缶ジュースを飲みながら、悠々とLive放送を観戦していた。
(死柄木の意図って絶対AFO殺すことだったでしょ。随分と派手にやったなコイツ)
神野にはあの屋敷があるが、事件現場の真反対の隅の方にあるので被害はないだろう。渡我ちゃんや伊口君、分倍河原さんは屋敷の中にいるはずだし、大丈夫かな。
「驚いたよー全く、二人ともヴィランだったなんて」
「あら、知ってて気づかないフリしてるのかと思ってたわ」
「それは言わないお約束。私が捕まる」
「そうかい」
携帯食のあたりめを貪る。二人は呆れ顔で新しい缶を傾けた。
「それで、嬢ちゃんは俺らに投降しろって言うのかい?」
茶目っ気まじりに迫さんが言う。
「私は言わないけど、屋敷の住人が君達の事気にしてんのよ。特に分倍河原さん」
「…はは、こりゃお優しい事で」
「自分はやったんだから、私たちも足を洗えって言いたいのかしら」
「さあ?」
スマホでは、突然の感動的な展開に戸惑いながらも、輸送されていく死柄木と黒霧さん(死柄木さんに気絶させられていた)が映されている。死柄木に何か告げられたのか、エンデヴァーさんが凄まじい形相になっていたが大丈夫だろうか。
傷ついた町が映し出される。
AFOが生み出した被害は凄まじい。瓦礫を掻き分け救助されていく民間人達に、迫さんは自嘲気味に笑った。
「でも残念。俺たちは今日から、大量殺人を手引きした犯罪者にランクアップだ」
「なーに言ってんの。今回の事件で死人は出ないよ」
「は…?」
「何々、どう言うことなの?」
前のめりになった引石さんに支えてもらいながら、迫さんが持っているスマホの画面の下の部分を、私は軽く指差した。
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(side虎寄り)
被害状況の確認は終わらない。ラグドールは既に搬送されたが、怪我人はまだまだいる。
(これでは、死者の数も……)
悲惨な光景は何度も見てきた。割り切ってはいるものの心に重石がかかるのは避けられない。自身の傷も度外視して、虎は救助活動を続ける。
「おいおいなんだこれ!? 誰かパワー系の奴! すぐに来てくれ! 俺一人じゃ無理だ!!!」
瓦礫の下に潜っていたモグラヒーローが顔を出す。
「直ぐに向かう!」
抱えていた被災者を救助スペースに下ろしてモグラヒーローの元まで向かう。彼は瓦礫の一つを支えながら、その下にある物体に困惑を隠せないようだった。
「ミェー」
「ミェー」
「ミェー」
「ミェー」
変わった鳴き声の透明なスライムのような生物が「助けて」と言わんばかりに声を上げている。
それも、虎達のいる場所以外にもそこかしこからだ。巨大化したそれの中には、目を瞑った状態の民間人が複数人漂っている。見たところ外傷は無く眠っているだけ。細心の注意を払いながら全員取り出すと、透明な生物は弾けて蒸発した。
瞬間、生物が収まっていた空間が瓦解し、ヒーロー達は息を呑む。
あれがいなければ、今頃この人たちは…。
「おおい! こっちにもいたぞー!!」
「こっちもだ! 手伝ってくれえー!」
各地から次々に声が上がる。その数は数えきれない。
まさか、被害のある地域一体に生息していたのだろうか。だがこの感じは個性だ。
「一体、誰がこれを……」
救助しながらも不思議がるモグラヒーローの横で、虎やMt.レディ、エンデヴァー、エッジショットなどのメンバーはハッとし、内心で顔を渋く歪める。
彼らの脳裏に共通して浮かぶのは、カメラとメモ片手に不躾に笑う女記者。そう、彼女の人脈はヒーローにも広がっているのだ。
((((アイツかっ!!!!))))
なぜいたのかは疑問にならなかった。どうせあのイカれ記者の事だから、何か記事のネタを掴んで潜伏でもしていたのだろう。やっていることも起きている事もめちゃくちゃだ。まるでご都合主義の漫画のよう。個性の無断使用は法律違反だが、当の本人がいないので怒るにも怒れない。
死傷者が多いと素人目にも分かる状況で、数人でも保護してくれているのは助かる。非常に助かるのだが、この後に起こりそうな面倒な取材の予感に、各々は心の中で苦虫を強く噛み潰した。
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(side女記者)
ギョーザに包まれていた被災者達が救助されていくのを見た迫さんと引石さんは、度肝を抜かれたように口を半開きにして笑った。
「アンタ、こんなに強かったのね…」
「まあそうッスね!」
今日のスクープゼロだけどね(ヤケクソ)!!!
圧倒的な良い記事の前に、強い弱いは重要では無い。ちなみに私のライバルは今年九十歳になる無個性スーパーライターの方である。こっちが勝手にライバル意識持ってるだけで足元にも及ばないけど!!!
撮れば撮るほど気づく彼女との差に、向上心を抱く毎日だ。取材力も個性ももっと伸ばして、いつかきっとあの人を超えてみせよう!
「よくヒーローにならなかったな…」
「取材対象として興味はあるけど、就職しようとは思えない」
「イカれてんなお前」
いつの間にか嬢ちゃん呼びが消え失せているがどうしたのだろうか。
私に畏怖しているのならとっとと足を洗って分倍河原さんを安心させて欲しいところだが。
AFOを見た瞬間に本能が警鐘を鳴らしたので、咄嗟に各ビルに圧縮したギョーザを潜伏させた。おかげで自分自身に割くリソースが減って両足が潰れ、記事も撮り逃した(ここ一番重要)が死柄木たちの罪を助長させるのは阻止できたわけだ。
「ってことで、残念ながら二人は殺人も殺傷もしてない、ただ強盗してちょこまかしてるだけの小悪党です。これから罪を重ねようとも、屋敷の住人が心配する限り、私の情報網とお金を駆使して二人の罪を軽くします。強盗した分のリカバリーも全部調べてやってるからね。色々上乗せした上で」
「怖っ」
「恨むなら、屋敷の住人の好感度を稼いだ自分自身を恨みな。二人がどこにいて何をしようとも、私はフォローし続けるし待ち続けるよ。死んで骨になったら遺骨を回収する」
「だから怖いわよ」
本当の話なんだけどな。
「ヴィランなんてさっさと諦めて、屋敷の住人になりなよ! したら義賊特集とか作って迫さんのご先祖様の知名度上げるし」
「そこまで調べてんのかよ」
「引石さんの第二の居場所作りにも協力する」
「第二? 第一は……」
「あの屋敷に決まってるでしょ」
「「怖っ!!!」」
迫さんと引石さんは互いの両手を強く組んで震えていた。潰れた両足を使う代わりに私は這いつくばったままニッコリと笑う。
「屋敷の住人になってよ、二人とも」
来る者拒まず、去る者追わず。来た者が望むなら、他者の勧誘くらいはする。
私の真摯な心が届いたのか、二人は視線を通わせ、青ざめたまま苦笑した。
「……分かった。降参しよう」
「…アナタがそこまで言ってくれるなら、まあ、良いのかしらね。怖いし」
「だね、おじさん怖くなっちゃった」
「怖いは余計でしょ」
抗議すると両足が酷く痛んだ。けれど、それと引き換えにするには十分過ぎるほどの成果を勝ち取れた。
(死柄木も荼毘も帰ってくるっぽいし、分倍河原さんたちに良い報告ができそうだ)
ちなみに、引石さんのヴィラン名はマグネ、迫さんのヴィラン名はコンプレスと言うらしい。
私がフォローしてたからか、どちらも無名に近いそうだ。ヒーローからしたら厄介な個性を持っているのに、なんだか不憫だった。
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