イカレ女記者役の夢主ver.(MHA:敵連合夢) 14




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(side死柄木寄り)







 内通者の情報、死柄木と荼毘の記憶。その全てに今日の日付が記されている。

 鬱蒼とした森が地を這う、強化合宿の会場。そこに降り立ったのは、一週目で捕まった雑魚数名と脳無一匹、コンプレス、マグネ、荼毘、死柄木だった。
 夜風に硬い髪を靡かせながら、死柄木は頬を掻く。
 一週目、彼はアジトで悠々自適にプレイヤーを気取っていた。だが今回は一週目でヴィラン連合であったトガ、トゥワイス、スピナーがいないため、已を得ず死柄木が代打で入ったのだ。一週目の焼き直しには人が足りなかったのである。

(……これで、終いだ)

 気怠げに息を吐き、猫背のまま目を三日月に細める。悍ましいまでの形相が、肝試しに興じる雄英生たちを見下した。






「さあ、ゲームスタートだ」










 まずは先制。一週目同様、荼毘に森を焼かせて騒ぎを起こす。マグネにはなんたらキャットとか言うプロヒーローの相手を。荼毘が操る脳無には早々にサーチ持ちのヒーローの回収に向かわせ、イレイザーを煽る役は一週目にはいなかった雑魚ヴィランに任せた。
 今頃、マスキュラーは緑谷の相手をしている頃か。
 合宿にいるだろうメンバーで教師含めて奴を倒せるとしたら、緑谷かイレイザー、ブラドキングくらいだろう。だが雄英教師二人はその時合宿用の建物の中にいたので、消去法でマスキュラーをぶっ飛ばしたのが緑谷だと分かる。
 初手は上々。
 次は、麗日なんとかと、USJ時に殺し損ねた蛙の餓鬼の相手だ(一週目の時に渡我から聞いていた)。渡我の代わりに、死柄木が交戦する。

「アハハ、アハハハハ!!!!」

 段取りを把握しながら、死柄木は目の前にいる女の餓鬼二人に突進する。正直今の状態なら瞬殺できるのだが、それでは一週目からズレるのでダメだ。特に麗日なんとかは、渡我のお気に入りだと分かっている。体育祭の観客席映像で渡我が麗日を応援しているのを見た。死なせればなんて言われるか分かったもんじゃない。

(弱えなコイツら。弱すぎてイライラする…)

 麗日が浮かせ、蛙の餓鬼が放った小石の弾丸を壊しながら距離を取る。
 暇だった死柄木は、ついでとばかりに尋ねることにした。










「渡我卑弥呼は元気かぁ?」

 その言葉に、麗日と蛙水は心臓が急速に冷えていくのを感じた。
 気づかれないよう唾を飲み込み、擦り傷だらけの体で立ち上がる。

「…なんで、貴方がヒミコちゃんの事を知っているのかしら」
「なんでだと思う?」
「このっ!!!」

 突進を仕掛ける麗日。
 相手に触れられたら終わりだが、こちらが先に触れてしまえば主導権を奪える!!
 羽織っていた服を投げて相手に死角を作り、そこから手を伸ばす。
 が、手は空を切った。

(交わされた……!)

 死柄木の手が麗日の肩に伸ばされる。蛙水が舌を伸ばすも間に合わない。
 死の恐怖が横切る。USJ襲撃後の蛙水の気持ちを、今になって理解する。

 手が触れようとした瞬間、

「麗日さん!!」

 緑谷の声。
 冷気が吹き上がり、巨大な氷塊が死柄木と麗日を断絶した。

「死柄木、弔…!!!!!」

 障子に背負われた緑谷が、鬼の形相で叫ぶ。これ以上何かしたらただじゃおかないという気迫が、狂気が、ビリビリと死柄木の肌を突き刺す。
 一週目でも、その狂気に壊された。何度も壊してやりたいと殺意を抱いたその目が、今はゲーム攻略のための鍵となる。どこにでも現れヴィランの邪魔をするクソ餓鬼のその、自己犠牲の精神を宿す狂った目が。
 横目にコンプレスが爆豪を圧縮したのを確認し、死柄木は嘲笑を浮かべる。

「……まあ、第一ラウンドはこんなもんだよなあ」

 氷に触れ、崩壊の出力を下げて氷煙を生み出す。

「待て死柄木!!!」

 緑谷の呼び止めも無視し、彼は夜の闇に紛れた。











 死柄木が面倒な焼き直しをしていた頃、荼毘は別行動をとっていた。
 別行動と言っても、荼毘の独断専行である。死柄木のことだから予想しているとは思うが。

「がっ」
「ぐあっ」

 ガスが立ち込める前に背後から雄英生を襲い、気絶させ、親切にもガスマスクを付けてやっている。このために、あの記者の女の金をちょろまかしておいた。ブローカーどもは両手をあげて収縮型のガスマスクの開発に取り組み、およそ一年前にこうして成果を出した。
 今、荼毘の手には四十人分、つまりはここにいるだろう生徒全員分のガスマスクがある。
 ここでの彼の目的は、ガスによる被害を抑え、尚且つ一週目でガス被害に合う奴らを戦闘不能にしておくことだった。
 別に善意でやっているわけじゃない。


 ただ、焦凍の姿が過って止まないだけだ。


 一週目の荼毘を真っ向から止め、荼毘が死ぬまで会いに来た、義理堅く優しい末っ子の顔がこびりついて離れないだけなのだ。
 紫煙の中、ガサガサと音がする。立ち去ろうと足を向けたところで、「お待ちなさい!」と声をかけられた。

「あ?」

 振り返る。仲間を助けにきたのだろう、ガスマスクを身に付けた黒髪のポニーテールの餓鬼がいた。
 目を細める。
 餓鬼は震えた目つきでこちらを睨む。

「何が、目的ですの? あ、貴方は、一体…」

 味方の大人に縋るような眼差しほど、白けるものはない。面倒くさそうに頭をかいた荼毘は、ニヒルに笑った。

「さあな」

 適当に流して、紫煙に紛れる。
 煙に近い奴らには既にマスクをつけさせたし、彼女がいるなら放っておいてもいいだろう。
 ポニーテールの餓鬼の個性は、おそらく「創造」。焦凍目当てに見た体育祭の中継に映っていたのを、朧げに覚えている。後はあの餓鬼がマスクを作り配り歩けばいい。

 適当に脳無を操り、適当に木々を燃やしていれば、作戦成功の合図がかかった。
 集合場所へ向かう道中に、レーザーの餓鬼がいることを確認する。奴がいなければいらない者までアジトに持っていくことになる。

(焦凍、今回はどんな顔するかなあ)

 気分は宝物をプレゼントする子供だ。一週目のように絶望した顔を見れると嬉しい。家族の事となると口も感情も制御が効かないのは何故だろうか。

「来たな」

 荼毘を出迎えたのは死柄木だった。他のヴィラン共はやはり来ていないらしい。マグネは未だ交戦中。
 二週目の今回、捕まらずに済むのは結局一週目のメンバーだけとなるようだ。


 上空に黄色いトレンチコートがあった。その上に乗る触手野郎と緑谷出久と焦凍に、荼毘は嬉々として顔を歪める。

(久しぶりだなあ焦凍!!!)

 最後に会ったのはいつ頃だっただろうか。小学校の入学祝いにやったペンは流石に捨てられてしまっただろうか。何にせよ、一週目では大嫌いだったその顔が今は大切に思えて仕方がない。

(今度は、お前の事もちゃんと見るからなあ焦凍ぉ!!!)

 腹の底から感情が沸騰する。口角をあげそうになるのを堪えるあまりに、人相が凶悪になった。











 目に見えて興奮している荼毘に、死柄木は冷ややかな視線を向けた。
 ブラコンとはああいう奴の事を言うのか。伊口がやっているギャルゲーにもブラコンのキャラクターが登場するが、あそこまで狂愛ではなかった。
 追手を乗せたコンプレスが体全体で着地する。彼を踏みつけたのは、障子、緑谷、轟の三人。

「かっちゃんと常闇くんを返せええ!!!」

 痛々しい両腕を雑に補強した緑谷が叫ぶ。

「コンプレス、縮め」
「ラジャ!」

 コンプレスが自身を圧縮するのに合わせて、荼毘は炎を放った。蒼炎ではなく、赤い、轟やエンデヴァーと同じ炎だ。ここで匂わせをかますところは流石一週目で超暴露ダンスを踊った彼のことだけはある。
 話を聞いた当初、死柄木は引いた。何せ当時は重傷を負っており荼毘の挙動は把握していなかったので。狂った家族愛に気持ち悪さすら覚えた死柄木は「コイツの目的、十中八九家族だろ」と予想できてしまったのである。

「また会ったなあ緑谷出久!!!」

 死柄木は死柄木で、緑谷及び邪魔をしてくるクソ餓鬼にキレる素振りをしないといけない。何せ今回は一週目と違い、分倍河原と渡我がいない。シンプルに奴らを相手する人手が足りないのだ。

(あと、三時間ーー)

 改造手術は既に終わっている。あと三時間で、施された細胞が体に馴染み、死柄木は生きた脳無に生まれ変わる。
 少しばかり戦闘し、ワープゲートをくぐる。
 その直前にビームがコンプレスに直撃。
 彼は圧縮された球を吐き出した。

「取り、返せ!!!」

 走り出した緑谷が腕の激痛に負けたのか地面に倒れる。
 障子が常闇を掴む。
 轟が爆豪を掴もうと手を伸ばす。

 だが、その手が握ったのは別のもの。爆豪は荼毘の手中に収まってしまった。

「っ……アンタは……!!!」
「悔しいなあ、轟焦凍」

 荼毘が笑う。轟が驚きと怒りに顔を歪める。

「確認だ。コンプレス」
「全く、ショーが台無しだ」

 コンプレスの指が弾かれ、圧縮が解除。現れた爆豪の首を荼毘は掴んだ。

「かっちゃん!!!」
「来んな……デク……」

 そうしてヴィランは闇に消える。





 作戦は成功。
 けれど荼毘の中にも、死柄木の中にも、一週目ほどの喜びはなかった。







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(side女記者)




 張り込み生活二日目。まだまだ私のテンションは上がりっぱなしである。

 なんてったって今回のが会社の最終号になるからね!! 経営不振ではなく、社長夫妻の意向で今月で出版社をたたむ事になったのだ。比較的売れ筋の良かった作家の方々には別の出版社を紹介した。諸々の手続きも済ませ、後は最後の雑誌を発行して終い。
 数年間勤めてきただけあって、なんだか考え深い。

「まあ、あの二人元々パン屋やろうとして間違えて出版社にしちゃった人たちだから、こうなるのも予想できてたけど」

 社長夫妻の小麦粉を見る目は、蕎麦屋をしているうちの従兄のそれと同等だ。
 沢山の作家さんにお世話になる出版社と違って、自身の腕一本で食べていくと言うのも、彼らの性に合っているのだろう。
 私は別の会社の入社試験に合格しているので、特に不満はなかった。
 未練があるとするならば心操君の記事くらいだが、それも成果さえあげられれば入社先の方で取り扱ってもらえるので大丈夫。私の腕なら確実に仕留められる(ネタを)。

 脳みそ女の霊は、廃工場からフラリと出てくるのが通例らしい。私は廃工場の敷地内の小さな倉庫の裏で、今か今かと彼女が現れるのを待っている。サーモグラフィ付きカメラの性能も、もっともっと試したい。

(早く現れないかなああああ!!!)

 夜の暗がりで伸びをしつつ気長に待つ。こう言うのは焦ってはダメなのだ。
 空に浮かぶあの満月のように、心淑やかに、慎ましく。
 そう思って見上げていたらトラックが浮いた。

(WHAT!?)

 急いでシャッターを切る。月を覆い隠すほど上昇したトラックはひっくり返り、荷台の部分から何か紫色の物が伸びている。辿っていくと女性の巨大な太ももらしき物が見え、ベージュの長い髪を靡かせた綺麗で巨大な女性がニヒルに笑っていた。

「はあっ!!」

 トラックが振り下ろされる。途端に天を貫く轟音。地鳴りにも似た音と共に、廃工場が崩れていく。

「え、え、え、え??」

 倉庫からそっと顔を覗かせ、サーモグラフィで姿を確認。なんと廃工場には機動隊やヒーローが集結しており、その数およそ三十人。トラックを履いていた彼女は、現在支持率上昇中のMt.レディさんじゃないか!? 彼女の足元にいるのはベストジーニストさん!? あれ茶虎さんもいる!?!?
 猫をモチーフとした可愛らしいヒーローコスチュームを筋骨隆々の体に纏う茶虎さんは、何やら辺りを忙しなく見回している。何かを探しているのだろうか。その焦りようから相当切羽詰まっていることが分かる。

(何々何々? こんだけいるってことは組織犯罪の類い? それとも私が何かとてつもない犯罪を犯してたとか?? 茶虎さんがいるってことはここ二日でヴィラン連合になんか動き合ったってこと? 雄英でなんかあった? え相澤さんたちとか生徒の子たち大丈夫かな)

「やべっ」

 茶虎さんこと虎さん(ヒーロー名)と目が合い、一気に間合いを詰められる。
 ガードしようと桃色フワモコなウサ公を出すも、「にゃん!」と血を這うような声で殴り飛ばされ、私は何故か虎さんの軟体で拘束された。

「保護完了!!」
「でかした!」

 ベストジーニストさんが言う。

「何も分からないんですけど??」
「話は後だ。兎に角今は警察の方々の側にいろ」
「それは良いんですけど、なんか奥から足音しません?」
「足音…?」

 ウサ公は雑に振動を感知できるから、ちょっとした足音くらいなら拾える。廃工場の奥の奥、数は一人だが年齢が分からない。分からないと言うことはそれだけ特徴がなく、隠密に長けた人物ということだ。
 感知したことをそのまま伝えると、虎さんは勢いよくベストジーニストさんたちの方を見た。

 ジーニストさんは頷いて片腕を構え戦闘態勢を取る。



  clap、 clap、 clap。




 その瞬間、背筋がザワザワと総毛立ち、私はカメラを構えていた。



  clap、 clap、 clap。



 闇の中から、誰かが現れる。それが誰かは分からなかった。ただ一つ分かったのは、彼を構成しているのは途方もなく深く悍ましい悪意だということ。
 月光に照らされ、ヴィランの姿が浮き彫りになる刹那、ジーニストさんが系を操りその人物を拘束した。

「ちょっと、もし一般人だったら…!」

 Mt.レディさんが慌てる。が、ジーニストさんはそれを一括。

「状況を考えろ! あの記者ならまだしも、あんなノンデニムの塊が他に二体も三体もいるわけがない」

 失礼な!!!

「ノンデニム……?」
「ヴィランには何もさせるな!」

 糸を引き、拘束を強める。推定ヴィランは性別が分からなくなるほど系でがんじがらめに巻き取られ、身動き一つ取れなさそうだ。
 だが私の冷や汗は止まらなかった。
 女の勘か記者の勘か、はたまた生存本能か、先ほどからずっと悪寒と興奮が溢れて止まない。命の危機に瀕するほどに良い記事に出会えた時に似た高揚が、心臓を高く鳴らしている。

(待ってこれダメなやつ)

 ヴィランに露光を向けようとした瞬間、本能的に悟るが早いか目の前が真っ白になる。
 最後に見えたのは、焦るジーニストさんが周囲の人たちを糸で投げ飛ばした姿と、拘束を破り無傷で個性を振るう金玉みたいな顔のヴィランだった。








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(side他・病院前)





 生徒四十名のうち、重軽傷者は十一名。
 ヴィランのガスの範囲内にいた生徒十五名はすぐに意識を取り戻した。
 その理由として、何者かによって装着されたガスマスクがガスから生徒たちを守っていたことがあげられる。
 彼らを含めると無傷で済んだのは二十八名。

 そして、行方不明一名。

 プロヒーローは六名のうち一名が頭を打たれ重体、一名は痕跡を残さず行方不明となった。
 一方ヴィラン側は、四名の現行犯逮捕。他のヴィランは跡形もなく姿を消した。



 事件を受け、雄英は対応に追われている。










 そんな中、緑谷、切島、轟が、八百万の手を借りてヴィランのもとへ乗り込もうというのだから、飯田が放っておけるはずがなかった。

「僕はクラス委員長だ!! クラスのみんなを心配するんだ!!!」

 緑谷の両肩を掴む。
 彼が搬送された時、重症を負った兄の姿と重ねた。だというのに彼は、轟は、切島は、危険なことを自らしようとしている。爆豪が攫われた時、何もできなかった悔しい気持ちは飯田だって同じだ。でも、もしそれで取り返しのつかないことになったら、飯田は正気ではいられないだろう。

「僕の気持ちは、どうでもいいっていうのか……」

 声が震える。

「飯田君…」
「ーー飯田」

 轟が口を開いた。
 彼らは何も、真正面からやり合おうとしているわけではないらしい。要は、隠密活動だと、切島が付け加える。ルールにギリギリ触れない、ヒーローの卵としての戦い方。

「…私は、万が一の場合のストッパーとして、皆さんに同行するつもりで参りました」

 八百万が言う。

「……僕も、自分でも分からないんだ。手が届くと言われて、いてもたってもいられなくなって」

 緑谷が顔を上げた。

「助けたいと、思っちゃうんだ」

 その意思のこもった眼差しは、曲がることはないだろう。これ以上は平行線。

「ならば僕も連れていけ」

 納得いかないからこそ、同行する。少しでも戦闘の可能性があればすぐにでも引き返させる。

(僕が、守るんだ)

「…出発する前に、ちょっといいか?」

 病院の外へ出ようとした四人を轟が引き止める。

「これなんだが…」

 彼が取り出したのは一枚のメモだった。

「爆豪を取り返そうと手を伸ばした時、掴んだんだ」

 言いながら、轟はメモを開く。
 そこには、殴り書きの字でこう書かれている。




『助けたいなら自力で来い。サポートくらいはしてやる』




「これは…」

 緑谷が呟く。轟の状況からして、恐らく炎を操ったヴィランのもの。
 轟に対して協力的な文面、轟と似た炎熱の個性のーー

「あっ」

 ーーそこまで考えて、顔を上げた。最悪か、最良か、浮かんだ答えに轟は頷く。

「多分、アイツは燈矢兄……俺の兄だ」
「「「ええ!?」」」

 驚愕する飯田、切島、八百万。混乱か動揺か、轟は米神から冷や汗を流してメモを握る。

「奴を一目見た時から、既視感があった。それで、病院で検査受けてた時に思い出したんだ」

 轟がまだ幼く父親の稽古に苦しんでいた時、継ぎ接ぎを隠すようにロングコートを着て、何度か会いに来てくれた。誕生日にもらったペンだってまだ持っている。
 「お前のことも見てるから」と頭を撫でてくれた。
 「ヒーローになれる」と言ってくれた声は、確かに彼のものだった。
 加えて轟と同じ目の色に炎の個性。遺骨だって顎の骨しか無い。ここまで揃っていて、予想しない方が馬鹿だろう。

「なんであんな風になっちまったのかは分からねえけど、少なくともこんなメモを持たせるくらいだ。使わねぇ手はねえと思う」
「…嵌められる可能性は?」
「でしたら、場所を書いているはずですわ」
「…山火事の色は、青色だった。でも僕らの攻撃に使ったのは赤い、威力の弱い炎だ。……希望的観測になるかもしれないけど、手加減してくれてたんじゃないかな」
「なんかよくわかんねえけど、味方っぽい人がいるってことか!?」

 拳を握った切島に、轟は首を横に振る。

「分からねえ。でも、お前らには伝えた方がいいと思った」
「……兎に角、行こう。多分、時間はあまり残されてないと思う」

 先に進もうとする緑谷に、切島たちは頷いた。









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(side他・連合アジト)









 BOOM!!!と爆発が起こり、死柄木は吹っ飛ばされた。
 一週目と同じ勧誘をダラダラ口にし、爆豪の拘束を荼毘に解かせた矢先にこれだ。一週目と同じだとしても、ムカつくものはムカつく。

『爆豪勝己は、誰よりもヒーローを追い求め、もがいている。あれを隙と捉えたのなら、ヴィラン連合は浅はかだと私は考えています』

 壊れかけのテレビからイレイザーの言葉が流れ、爆豪は挑発的に笑った。

「そういうこったクソカス連合!!! 俺はまだ、戦闘許可解けてねえぞ!!!」

 ヴィラン連合にとって爆豪は利用価値のある存在。方針が変わらないうちに、二、三人倒して脱出する。

「自分の立場よく分かってるわね…。こざかしい子」

 構える爆豪に、マグネガ苦虫を噛んだ。

「バカだろ」
「その気がねえなら、懐柔されたフリでもしときゃいいものを」
「やりたかねえことは意地でもしねえんだよ俺は!!!」

 こんな埃塗れで薄暗い辛気臭いところに長居するつもりは毛頭ない。こちらを捉えようとするヴィラン共を前に、爆豪は両手を構える。挑発的で青臭いそれに(ああ、もうすぐだ)と死柄木は思った。

「…先生、力を貸せ」
「先生? テメエがトップじゃねえのか」

 爆豪の額から汗が流れた、その瞬間。
 コンコン、と背後のドアからノック音がし、間抜けなピザ屋の挨拶が響く。

(全く、とんだクソゲーだよ) 

 呆気に取られたふりをしてドアを見やるが早いか、巨大な破壊音とともに壁が破られる。

「SMASH!!!!!」

 現れたのは平和の象徴・オールマイト。目には怒りの炎を宿しまず爆豪を救出する、誰もが信頼するナチュラルボーンヒーロー。
 そこからも一週目と同じだった。
 黒霧と荼毘は気絶させられ、コンプレスとマグネ、死柄木自身も拘束された。
 始まったばかりのヴィラン連合。抑圧された蓋をぶち壊すための仲間も集まり始めた。ここからだという時に、この男はOFAは邪魔をする。
 一週目では腹の底にドス黒い鉛が落ち、沸々と怒りが噴き上がってくるようだった。だが二週目は退屈極まりない。けれど必要な過程だと、死柄木はその目に偽物の殺意を宿して台本通りにただ振る舞う。

 過るのは、転弧が住んでいた家でも、AFOに手を差し伸べられた記憶でもなく、二周目にしかないあの屋敷。伊口たちの待つ、吐き気がするほど暖かい場所。

「失せろ……消えろ……」

 想像上、カサカサと這いずり回る女がカメラ片手ににじり寄ってくる。いらないと言っているのに無駄に蕎麦を食わせ、無駄話を永遠と楽しそうに語るあの女。
 もはや死柄木の敵はオールマイトではなかった。

「お前がーー」

 あの記者が、

「ーー大嫌いだ!!!!」

 途端、口から溢れた汚泥の匂い。咽る間も無くゲートが開き、死柄木たちは吸い込まれる。

「爆豪少年!!」

 オールマイトに保護されていた爆豪も同様に、口から泥を吐きワープする。
 出された先は、一周目の記憶通り、神野の廃工場。地に伏せた死柄木を見下ろしたのは、AFOだった。







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(side女記者)



 状況はよく分からないがやばいという事だけは理解できる。けどやっぱりよく分からなかった。


 何故か誘拐されていたラグドールさんを保護したのはいいが、金玉ヘッドのヴィランによってジーニストさんがダウン。他のヒーローや機動隊は、私含めて吹っ飛ばされ傷を負っている。
 周辺の建物は倒壊。どこからか助けを求める声もあった。私の上には瓦礫が乗っていて、感覚からして両足が潰れた。今はギョーザの補助マックスで補強しているから大丈夫だが、両足を切り落とす羽目になるまでそう時間はかからないだろう。
 虎さんはここから五十メートル先で気絶している。今私が動けているのは彼が庇ってくれたからだ。ヒーローたちが捕まえていた脳無は既にどこかへ消えた。

 おそらくこの状況は、ヒーロー側にとって最悪な状況ではなかろうか。

「虎さん、ジーニストさん、Mt.レディさん、他の方たちも…」

 立ちあがろうとした矢先、金玉ヴィランの周囲の空中に泥が現れ、中から死柄木、気絶した荼毘、迫さん、引石さん、爆豪君、意識のなさそうな全身モヤのよく分からない人が出てきた。

「なん、じゃこりゃあ…!」

 咽込みながら爆豪君は喉を押さえる。金玉ヴィランは悪びれもせず謝った。チグハグな態度だ。

(なんで死柄木と荼毘と迫さんと引石さんと爆豪君とよく分からん人がセットで出てくるの??? え、何、あの金玉死柄木のバックだったりする??)

 死柄木が両膝を地面について、呆然と彼を見上げている。
 金玉ヴィランは奴に労りの言葉をかけた。

「決してめげてはいけないよ。またやり直せばいい。だから取り返したんだ。仲間も、この子も」

 普段の横暴さも形を顰め、爆豪君は息を呑む。

「いくらでもやり直せ。全ては、君のためにある」

 歓喜か、嫌悪か、死柄木の体がわなわなと震えた。瓦礫が積まれたその奥の景色で、彼らは事を進めようとしている。

(どうする? 今の状態じゃ、個性の威力は五割減。見た感じ爆豪君が殺されるリスクはなさそうだけど、バリバリ誘拐されてそう。そもそもどういう状況なんだよこれ。ああでも兎に角爆豪君助けないと)

 ついでにアイツら全員ぶん殴らないと。

 来るもの拒まず去る者追わず。奴らは屋敷の住人ではない。だが、渡我ちゃんも伊口君も分倍河原さんも、皆心配してんだ。大家として、住人の憂いは晴らさないといけない。奴らがこれ以上誰かを傷つける前に、ムショにぶち込まなくては。

「来てるな」
(何が??)

 瓦礫から這い出ようとしたのと同時に、突風が巻き起こる。その中心にいるのは、拳を振るうオールマイトさんとそれを受ける金玉ヴィランだ。

「全てを返してもらうぞ、AFO!!」
「また僕を殺すか? オールマイト!」

 AFOとはなんだ??? 話ぶりからして因縁の相手。

(待ってAFO??)

 聞いたことがある。ネットの深層にある都市伝説だ。名前まで知っているのは私くらいかもしれない。
 人の個性を奪い、与え、人を操る悪魔のようなヴィラン。超常黎明期に君臨した悪の帝王。御伽噺とは思っていなかったがまさか生きているとは。

(てっきりAFOがあるからOFAもあって、その人がAFOぶっ飛ばしたから一定の平和を取り戻したと思ってたけど、もしかしてぶっ飛ばしたのオールマイト?)

 オールマイトの個性は不明。なら、ワンチャン個性OFAの可能性もあるのでは?? 奪い与える個性とは正反対の、例えば受け継がせる感じのやつ。そうしたら、緑谷君が突然超パワーに目覚めた説明もつくんじゃない?

(いやいやいや。妄想が過ぎるって私。こんな時に何考えてんの。根拠も薄いし、受け継ぐ個性なんて聞いたことがない)

 一旦気のせいということにしよう。
 今はとにかく、彼らの戦闘で起こった衝撃波で巻き上げられた私自身をどうにかしなくては。
 落下しながら状況を確認する。
 黒ずくめの格好でいるからか、夜に紛れて死柄木たちもAFOもオールマイトも私に気づいていない。
 死柄木が脇腹を蹴って荼毘を起こした。爆豪君は、奴らと引石さん、迫さんと好戦中。廃工場と別の工場の隙間には何故か緑谷君、轟君、飯田君、八百万さんと切島君(体育祭で見た)たちがいて、何かをしようとしている。

(これ私が何かしなくてもどうにかなるやつ?)

 とりあえずウサ公を出す。フワモコのこの子は、一定時間なら浮くことができるが、今の最大出力ではせいぜい座布団程度の大きさが限界だ。これでは体を支えきれない。

(なんでみんながドンパチやってる側でこんな命の危機に瀕してるんだろう私)

 言っている場合ではないがなんか虚しい。

 爆豪君は切羽詰まっているようだった。荼毘と死柄木は何かを待っているかのように、微妙に手を抜いている。AFOとオールマイトの攻防には今も決着がつかず、膠着状態が続いている。
 雑に地面に着地した。両足が悲鳴を上げた。AFOがこちらに気づき、彼の視線を追ったオールマイト、死柄木、荼毘、爆豪君が目を見開く。
 死柄木が口を開こうとした刹那、緑谷君たちが壁を突き破って登場。すかさず氷の道が形成され、彼らは高く舞い上がる。

「来おい!!!」

 切島君が手を伸ばした。死柄木が爆豪君を掴もうとするも爆風によって阻まれ、爆豪君は夜空へ飛び出した。
 彼と目が合う。こちらを救おうと急転換しようとする爆豪君に、「行って!!!!」と叫んだ。

「逃すなあ! 遠距離ある奴は!?」
「俺が出る」

 迫さんの背後から荼毘が飛び出す。

「荼毘ぃいいいいいいい!!!!」

 思わず叫んだ。荼毘は巨大化したMt.レディさんを避けて爆豪君を緑谷君たちごと確保する。

「でかしたっ!」
「爆豪少年!!!」

 迫さんとオールマイトさんが同時に叫ぶ。
 が、迫さんの態度に反して荼毘は爆豪君を引き剥がそうとせず、そのまま戦線を離脱した。彼らが去る瞬間、荼毘がこちらを見た。
 彼が紡いだ言葉に、私は目を見開く。




 ーーそろそろ帰るわ。




「オールマイト!!!」

 戦いながら、オールマイトさんがこちらに視線を寄越した。

「アイツ、味方です!! こっち側!!」
「何!?」
「根拠は後で言うんで、今は信じて戦いに集中してください!!」
「……分かった! その言葉を信じよう!!」

 膨れ上がった腕の筋肉が、全力で振るわれる。突然の裏切りに死柄木たちは動きを止め、迫さんと引石さんは気絶していた。やってきた黄色いコスチュームの老爺に蹴り飛ばされたのだ。蹴られた頭が脳震盪を起こし、意識を飛ばした。
 老爺はオールマイトさんから「グラントリノ」と呼ばれていた。

「荼毘、アイツ…」

 死柄木が苛立たしげに首を掻きむしった。

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解せぬ花