ルドルフとイッパイアッテナ 02




今日もいつも通り、定時を数時間超えたあたりで仕事を終えて退社した。毎日残業しても終わらない仕事には本当に気分が滅入るが、明日は待ちに待った休日だ。せっかくの休日に出かけるなんて絶対に嫌なので、帰宅する際に最寄りのスーパーに寄って必要な物を買い込んでいく。
 今週末は外に出ないでずっと溜めていた漫画を読むと決めているのだ。
 仕事が忙しくてなかなか買い物にも行けていなかったため、必要な物を集めると結構な量になったが、何とか持てる範囲には収めた。
 今日のうちに何品か料理を作り置きして、休日はゆっくり過ごそう、大量に作り置きするならリメイクしやすいカレーがいいかな、簡単だしと計画を立てていると、青信号を告げるチャイムが鳴った。一応横断歩道を渡る前に、信号を確認するため顔を上げると、目の前まで車が迫っていた。なぜこんなにも近づくまでに気づかなかったのだろうと思うくらい、喧しい音を立てて迫る車。驚いて体が動かず、衝撃に備えて目を固く瞑ることしかできなかった。しかし、次の瞬間に感じたのは体に当たる衝撃ではなく、意識が遠のく感覚だった。


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 失った感覚が戻ってきたように感じて目を開けてみれば、自分の周り前後左右に木、頭上には綺麗な星空、足下はちょっと湿った土、どう考えても森の中という場所にいた。    
 自宅から最寄りの駅前にいたはずなのに、なぜ自分は森の中にいるのだろうか。全く見当もつかない、というか目の前まで迫っていた車はどうなったのだろう?

 …え?もしかして私死んだ?車目の前まで来てたし、意識飛んだって事はそうだよね。でも、それじゃあ何で私森の中にいるんだ?待ってほんとに訳がわからない。

 急に変わった景色に動揺し、今の状況を整理して考えてみるが、どう考えても瞬間移動したとしか思えない景色の変わり具合に理解が追いつかない。

 ___あ、もしかしてこれ夢の中だとか?夢ならこんな状況でも納得できる。それしかない。

 うんうんと頷きながら現実逃避していると、奥の方からガサガサと何かが近づいてくる音が聞こえた。
 森のど真ん中で何かが近づいて来るなんて状況、恐怖でしかない。熊とか出てきたらどうしよう。リアル「森のくまさん」笑。笑っている場合では決してないのだが。
 いやでもこれ夢か、なら出会ってもなんとかなるのでは?と即思い直し、とりあえず見つからないようにだけしておこうと、ちょっとだけ横にずれてできるだけ身を屈めていることにした。
 数分後、木々の隙間から男の人が現れた。まず人が現れてとりあえず安心したが、よく目を凝らして見てみると、体中継ぎ接ぎになっていることがわかり、驚きで目を見開く。少し距離があるため本物かどうかはわからないが、特殊メイクのような偽物だとしてもハロウィンは1ヶ月も先だ。仮装ではないのなら、中二病を結構こじらせている系の人かその道のやばい人だ。どちらにしても関わってはいけない気がぷんぷんする。

 ___そっとしておこう。
 関わったらろくな事がないような気がする。なんて知らない人に対してだいぶ失礼なことを考えていると、急に方向を変えてこちらに向かってきた。

 ん?もしかしてこれ場所ばれてる?確実にこっち向かってきてるよね?一応ちゃんと隠れてるのにおかしいな?

「―――おい、そこで何してる。」
 声かけてきた、これ絶対に隠れてるのばれてる。いやでもこんな森の中にひとりでいるはずないし、一緒に来たお仲間に声かけてるのかもしれないから、一旦返事はしないでおこう。自分に手振られてると思って振り返したら、実は後ろの人に手振ってたってやつだ。あれって結構恥ずかしいよね。

「無視すんな。お前に話しかけてんだよ。そこで丸まってる女。」
 完全に私だ、こんなとこで丸まって隠れてるのなんて私しかいない。
「もしかして、ヒーロー側の偵察部隊か何かか?…まぁ何でも良いか。見られたのは後々面倒だ。燃やそう。」
 そう呟いて、いつの間にか草をかき分けて目の前まで来ていた彼は、片手をこちらに向けていて、もう少しで手が私に触れそうな位置まで近づいていた。

 え、やばいなんかこの人急に燃やすとか言ってる。何で手をかざしてるのかはわからないけど、目が本気だ。本当に燃やされる。なんかほのかに肉が焦げた後のような変なにおいもするし。

「ちっ、違います!私はその辺にいるような会社員で、そのような者ではありません!気がついたらなぜか森の中にいて…。私の意思でここにいるわけではなく、あなたをつけているとかではありません!だから燃やさないでください…!!」
 そう咄嗟に叫んで彼から距離をとったが、全然安心なんてできない。急に人燃やすとか言い出す人なんて、連続放火犯か殺人犯の犯罪者に決まってる。
 それに先程からなんとも言えない危険な感じが男性からひしひしと感じるし、さっき偽物かもと淡い期待を抱いていた継ぎ接ぎが、ここまで近づいたら本物にしか見えなくて、ただれた皮膚を無理矢理留め具で繋げている顔を見て更に危ない人だと感じさせる。顔がとてもいいのに物騒で残念すぎる。
 すぐには手が届かないくらい十分に距離を取ったが、目の前の人物にとっては全く意味がないように感じる。逃げる動作をしても慌てないところが、距離があっても関係ないと言っているようだった。

「怪しい者じゃないから殺さないでくださいって言われたってなぁ、はいそうですか、じゃあすまねぇよな。まずここにいる時点で俺達にとって邪魔なんだよ。だから殺す。お前の言い訳は関係ない。」
「そ、そんなっ…。」
 殺すと明確に言われて恐怖した。だって先程距離をとろうとした時に草で切ってしまった傷でわかったのだ。夢の中であれば傷を負ったとしても痛くはないはずなのに、血が滲む傷口は確かに痛くて。これが夢ではなく現実であることを嫌でも実感させられた。
 ここで殺されてしまったら私はどうなるのだろう。森の中なんて早々人も来ないし、遺体の発見が遅れることは確実だ。良くて白骨死体、悪くて発見されずに行方不明。
 まだまだやりたいこともあるし、楽しみに溜めていた漫画も読めていない…。
 というかまず結婚できてない!友人や同期に結婚ラッシュが到来し、そろそろやばいと焦り始めているのに彼氏もいない 20 代後半。仕事も良いがやっぱり一度は結婚というものを経験したい。その思いで婚活を頑張っていた。そしてつい先日やっと婚活サイトで良さそうな人と出会い、今度会う約束もできたというのに。結局会うこともできず、結婚もできず、最悪の場合誰からも見つけてもらえずに供養もしてもらえないなんて…。考えてたら涙出てきた。
「おいおい、死ぬ直前に号泣かよ。いいな、その顔。殺し甲斐があrぐぅぅ――――。」
・・・
 私のじゃない。こんな状況で空腹を感じられるほど肝は据わっていない。私じゃないとしたら、音の発生源は必然的に目の前の彼のお腹だけで…、もしかしてだけど、
「…おなか、空いてるんですか?」
「…うるさいな、黙って燃やされてろよ。お前に関係ないだrぐぎゅるるる――――。」
・・・
「おなか、空いてるんですね…。もし良ければ、この食材お譲りしましょうか…?」
そしてどうかこの食糧に免じて見逃してもらえると大変ありがたい。何としても生きて帰って結婚するんだ。
「…っだから、お前に関係ねぇって言ってんだろ!だいたい、これから自分を殺ろうとしてるやつに飯渡すやつなんて普通いねぇだろ。頭おかしいのか?」
「いやでも、お腹空いてるのかわいそうだし…。もし仮に本当に私が殺されちゃっとしたら、今日せっかく手に入れた特売の国産高級肉がもったいないですし…。この状況じゃ私は食欲わかなくてもう食べられないですし、お譲りしようかなって考えたんですけど…。」
「やっぱ頭おかしいな。ってかお前バカだろ。」
「ばっ、バカって…」
「はぁ――、何か殺すのも面倒くさくなってきたな。もう良いわお前、ここに俺がいたこと警察とかヒーローにチクんなよ。そんでさっさと山降りてどっか行け。…まず肉だけもらってもちゃんとした飯なんか作れる奴いねぇから意味ねぇんだよ。」
 ここ森じゃなくて山だったんだ。
 初めて自分がどこにいるのかはっきりしたことがわかったし、無事生きてこの場から逃げられそうだ。しかし、今はそれどころじゃない。小声で呟かれた言葉が耳に残る。
 "ちゃんとした飯なんか作れる奴いない"…?じゃあ、この人どうやってご飯食べてるんだろう。見る限り目の前の彼は薄汚れていて、毎日お風呂や洗濯できていないこと簡単に想像できる。そんな人が毎食外食なんてできるのだろうか。中にはできる人もいるかもしれないが、彼の様子を見る限り結構外観を気にしていそうで、お風呂とかより食事優先なんて絶対にしなさそうである。ここまで考えて1つの思いが強くなる。
___お腹が鳴るほど空いているのに、何も食べさせてあげられないなんて!!!
 本当殺されそうな相手に何言ってるんだと自分でも思う。しかし、ひとり暮らしの長い私には同じ様な経験があるのだ。社会人はじめの頃、お金も家事スキルも無くて毎日ひもじい思いをしていた。両親も私が今の会社に就職した数ヶ月後に他界してしまって、親しい親戚もいなかったから頼れる人なんていなかった。だから、ご飯を満足に食べられずに過ごすことがどれだけ苦しいか知っている。見た感じ私よりも若そうな人がそんなかわいそうな現状にあるのを知ってしまったら、昔の自分を見ているようで見て見ぬふりなんかできない。
 この際食材がもったいないとか、久々にキャンプみたいに外でご飯作りたいとか何でもいいから理由つけて丸め込もう。1度だけで良い、お腹いっぱい食べさせてあげたい。私の母性が爆発した瞬間だった。

「あの、じゃあ私に1回ご飯作らせてもらえないですか?1回作ったらおとなしく山を降りるので!警察にも通報なんてしません。お願いします!」
「おいバカ女、人の話聞いてたのか?今すぐ山降りろってんだろ。」
「お願いします!!!」
「話通じねぇ…。あーーー、ほんと面倒くせぇな。もういいわ、どうなっても知らねぇ。飯作らせれば良いんだろ?作ったらさっさと帰れよ。そして2度と来んな。」
「はい!よろしくお願いします!!」
「…あーぁ、リーダーになんて説明しよ。」
 どうにかご飯を作らせてもらうことに成功した私は、さっさと先に進んで行ってしまった彼の後を急いで追いかけた。

 それにしても警察に通報するのはわかるが、ヒーローにって何なのだろう。警察をヒーローって言ってるのかと思っていたけど、どうやら違うらしい。後で聞けたら聞いてみようかな。

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「―――って事でうるさいから連れてきた。よかったな、飯食えるぞ。」
「良かったなじゃねぇよ。なんでそんな奴アジトに連れて来てんだよ、おかしいだろ。」
「やったァ、久々にちゃんとしたご飯が食べられそうです。」
 継ぎ接ぎさんについて来てみれば、思っていた倍の人数がいるコンテナに辿りついた。
 中にいた人物達は継ぎ接ぎさんのように犯罪者(仮)なのだろう、顔を隠している数人とトカゲ系統の着ぐるみを着た人、女子高生までいる。
 ___女子高生かわいいな…。でもこんなかわいい年端もいかない女の子も犯罪者(仮)なんだ…。

 そんなことを思っていると、リーダーと呼ばれていた顔色が1番悪そうな青年が立ち上がった。
「アジトの場所まで割れた。チクられる前に消すぞ。」
「えぇーー、いいじゃないですか弔くん。黒霧さんがいなくなって碌なもの食べてないですよ、私達。お金もないですし…。それに私、お腹空きました!もう限界です。」
 女子高生が眉をハの字にして悲しそうにリーダーさんの横から文句を言う。
「イカレ女もこう言ってるし、別に1回くらいいいんじゃないか?コイツに何かできるとは思えねぇ。殺されそうになっても個性使わないって事は、攻撃に使えるようなモンじゃねぇって事だろ。」
「…」
「そうだぜ死柄木、荼毘の言う通りだ。危険には見えねぇ。」「超危険人物だ!」
「はぁーーー、どいつもこいつも面倒くせぇな。もういい。そこのお前、さっさと飯作れ。殺すかどうかは後で俺が決める。」
 何かまた物騒なこと言ってるし、殺されるのってさっき継ぎ接ぎさんとのお話で無しになったんじゃなかったの?まさかの振り出しに戻った?
 フォローが欲しくて、”荼毘”と呼ばれていた彼の方を縋るように見てみるけど、もう我関せずでソファーに寝転がって瞼を閉じていた。
 落ち込みながらも今から何を作るか考えるために、持っていた袋を広げる。意識がなくなる前に持っていた持ち物は全て手元に残ってるようだったが、一応中身の確認は必要だ。

「何作ってくれるんですか?」
 声をかけられてはじめて、いつの間にか横に来ていた女子高生に手元を興味津々で覗くかれていることに気がついた。
 本当にいつの間に近づいたのか、全く気配がしなかった。思いっきりビクゥッと動いた自分が恥ずかしい。

「ふふっ、ビクビクしてカァイイですねェ。何かお手伝いしましょうか?ナイフ使うのは得意です。」
「だ、大丈夫です、お気遣い無く。」
 かわいい顔をしながらお手伝いの立候補をしてくれたが、そのギラギラとした目元になんとなく不穏な空気を感じたため、せっかくだが辞退しておいた。

 さて話を戻すが、今日購入した物は全て問題なく手元にあった。内容は以下の通りだ。
・にんじん、じゃがいも、たまねぎ等の常備野菜
・少し季節が外れて安くなってきた夏野菜
・特売で多めに購入した国産牛肉の色々な部位
・ストック用に購入した予備の調味料各種

 中々の品揃えではないだろうか?調味料を買い足していた自分には合わせて拍手を送りたい。おめでとう、今日のMVPはお前だ。
 とりあえず手頃なじゃがいもを手にとって皮を剥こうとしてはたと気がつく。
 包丁がない。まな板もない。そして鍋などの料理器具や食器類もない。どうやって料理や食事の用意をしよう。ここは山だし、アジトも作業現場跡地のようなコンテナだ。調理器具や食器類なんてあるわけがない。
「あの…、大変聞きづらいのですが、調理器具とかって置いてあったりしますか…?」
「は?あるわけねぇだろ、そんなもん。」
「デスヨネ…。」
「えぇ、まさか持ってないんですか?てっきりその袋の中に持っているからこんな山の中で作る気満々なのかと思ってました。…それじゃあ、結局ご飯なしなんですか?」
「うっ…。」
 泣き出しそうなうるうるした目でこちらを見られていたたまれない。どこかに不法投棄された鍋とか落ちていないだろうか。
 一応探してみようと立ち上がりかけた時、先程まで黙っていた継ぎ接ぎさんが声を上げる。
「そういえば、さっきそこのバカ女に会う前に廃業したペンション跡地見つけたぞ。そこならまだここよりはそういうのあるんじゃねぇか?建物もそのままだったし、中が荒らされてなければの話だが。」
 その言葉を聞いてすぐに飛びつく。
「お願いします!どうか連れて行ってください!!」
 ナイスすぎる。あなたが神か。私を殺そうとしてきたけど。
 すごく嫌そうにしていたが、そんな事は知らない。あなたも食べるんだからいいでしょ。
 そうこうして神こと継ぎ接ぎさんに嫌々ながら案内してもらって、無事ペンション跡地にたどり着いた。中に入って実際に物色してみると、出るわ出るわ使えそうな調理器具。しかも趣のある綺麗めな木製の食器類まで出てきた。
 ほくほくした顔で戦利品を持ってアジトへ戻るとさっそく料理に取りかかる。一応アジトでも水は出るみたいで、すべて綺麗に洗って乾かしておく。ちなみに荷物を持ってアジトに帰るまでに継ぎ接ぎさんは 1 つも持ってくれなかった。
 ハプニングはあったが、無事作れそうで一安心だ。献立はもう決めたのだが、お米はあるのに炊飯器はないとのことなので、まずは土鍋でご飯を炊くことにする。浸水の時間を入れたら軽く 1 時間は掛かるので、先にやっておかないとおかずはできているのに食べられないというなんとも悲しいことになる。
 お米の量は食べる人数が 1、2、3…6人だから 4 合?炊飯器がないので早炊きとか反則技は使えないし、足りないよりは余った方が良いのかもしれないと思い、6 合でいいか!と楽観的に考えてボウルにお米を入れて洗っていく。1 人あたり 約2 杯あれば十分でしょう。残ったら明日の朝ご飯にできるしね!
 お米を洗い終わり、浸水している間にようやっと一品目の準備に取りかかる。そうみんな大好き家庭料理定番のあれだ。
「さて、作っていきますか。」
 まずはじゃがいも、にんじん、たまねぎの皮を剥いておき、じゃがいもは大きい物を選んだので 6 等分にし、10 分ほど水につけ、ザルにあげて水と切っておく。その間ににんじんを 1.5cm幅のいちょう切り、たまねぎを 8 等分のくし切りにしておく。糸コンはザルにあけて水気を切り、お湯をかけて食べやすい長さに適当に切って、再度水を切っておく。今回残念だがさやいんげんがないため、そこは省く。
 続けて牛こま肉を一口サイズに裂いておく。薄いお肉は繊維に沿って裂くと切った物よりおいしいとどこかで聞いたことがあるため、私はいつもこの方法だ。ちなみに包丁は残念ながらペンションにもなかったため、トカゲさんがいっぱい持っていた刃物の中から1つお借りした。あんなにいっぱい持っていてどうするのかは疑問だが、命が惜しいので触れないでおく。

 さてお次は、と火を着けようとしてアジト内のコンロは火がつかないことが発覚した。プロパンが外されているらしい。軽く絶望してから仕方なく、原始的にいこうと火起こしの準備をしていると、焚き火用に積んでいた薪に向かって後ろから青い炎が飛んできた。
 ん?火が飛んできた?疑問に思って振り返ると何と継ぎ接ぎさんがすぐ後ろに立っていた。
「何だよ、前向いて黙ってさっさと支度しろ。」
 そう言われて前を向くと見事に薪に火がつき、料理ができるくらいには燃え上がっていた。うん、無事火もついたし気にしないでおこう。きっと前職手品師か何かなのだろう。スルースキルって大切。
 
 そうしてやっと鍋に油を引いて中火で熱し、牛肉を入れて炒める。肉の色が変わったら、1 度皿に取り出し、野菜を切った逆の順番で加え、最後に糸コンを加えて炒め合わせる。たまねぎがしんなり透き通った色になったら水、酒、ほ○だしを加えて煮立ったらアクを取って蓋をして火から少し離し、弱火で 10 分。砂糖とみりんを加えてさらに 5 分煮る。最後にしょうゆを加えて蓋をせず 5 分煮詰め、鍋底から返すように鍋を振って煮汁を絡ませれば肉じゃがの完成だ。ご飯が炊けるまでは火から下ろして味を染み込ませておく。冷める課程で味が染みるからこの時間を取るために先に作ったのだ。
 なんとも日本人の心をくすぐる家庭の味のにおい。これだけでご飯一杯食べられる。

 肉じゃがを作り終えると、ちょうどお米の浸水時間も終わったので、水気を切る為にザルに移しておく。その間にもう一品。

 オクラを取り出し、塩を振って板ずりする。鍋に湯を沸かして沸騰したら、オクラを 1 分ほど茹でて粗熱を取り、ヘタとガクを切り落として 5mm幅の斜め切りにする。コーン缶をザルにあけて水を切り、ツナ缶と白すりこま、マヨネーズ、しょうゆを加え、混ぜ合わせて最後にオクラを加えて更に混ぜれば完成。少し遅いがまだ厚い今の季節にぴったりな軽く食べられる副菜。偏見だけれど、ピーマンとか苦い系の野菜嫌いな人多そう。その分コーンとか好きな人多そう。断じて子ども舌多そうだなとか思っていない。だからリーダーさんには、こちらを睨むのを切実にやめて欲しい。声に出していないのになぜばれるんだ。

 2 品目を作り終えたらそろそろお米の水も切れたと思い、ようやく炊く準備に取りかかる。
 ザルから土鍋に移し、水を加えて蓋をし、中火にかける。沸騰するまで待ち、沸騰をしたら弱火に調節変えて 15 分待つ。その間に最後の汁物を作る。

 まずは油揚げにお湯をかけて油抜きし、水気を切っておく。次になすのヘタをとって乱切りにして水に 5 分程つけてアク抜きをしておく。
 ここまで来たらちょうど 15 分経ったので、やけどに注意して土鍋を火から下ろして更に 10分待つ。
 その間にまた味噌汁作りに戻り、両方とも水気が切れたのが確認できたら、油揚げを 5mm幅に切る。鍋にごま油を引いて、なすを中火で炒める。なすに火が入ったら水、ほん○し、生姜チューブ、油揚げを加えてひと煮立ちさせる。味噌汁を作っている鍋の横に肉じゃがの鍋も置いて一緒に温め直しておく。味噌汁の方の鍋が軽く沸騰したら火から下ろし、味噌を溶かし入れて、再度火に戻す。ひと煮立ちさせる前に女子高生が近づいてきた。
「もう我慢できません。まだできないんですかぁ?」
 今度は近づいて来た気配がわかっていたので、落ち着いて返す。
「あともうちょっとでできますよ。でもちょうど良かった、味噌汁の味見をしてくれませんか?味見しすぎてわからなくなってきちゃって…。」
 人の為に作るのは久しぶりなので、変な味になってないか確認しまくっていたら、味がはっきりわからなくなってきてしまったのだ。
 喜々として顔を寄せる女子高生に小皿に注いだ味噌汁を渡し、反応を待つ。
「〜っん!!おいしぃ〜〜〜!!!久々に味噌汁飲みました!体に染みます!!」
 思っていたよりも好評だった事に安心し、ちょうど両方とも煮立ったため、鍋を火から下ろして声をかける。
「それはよかった。じゃあもう全てできあがったので、人数分の食器用意してもらってもいいですか?皆さん召し上がりますよね?」
「わかりましたぁ!!仁くん、早く用意しましょう!!」
「俺も用意手伝うのかよ!」「合点承知!!」
 年相応のかわいい反応になんだかほほえましく、軽く口角が上がる。
 さて、お米の蒸し時間も終わったしほぐして 2 人が持ってきてくれるお茶碗によそう準備をしておこう。


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 全ての料理を個別の皿に盛り付け、テーブルに運ぶ。テーブルと追加の椅子は、私が料理を作っている間に仮面の人とトカゲの人がペンションから運んできてくれていたようだ。少し離れた場所にあるペンションから、結構大きいテーブルをどう 2 人で運んだのか疑問だ。

 個別のお皿に分けて盛り付けたのは、この人たちがどれ程仲がいいのかさっぱりわからないからだ。大皿で出した方が盛り付けるのも片付けるのも簡単だが、後から個別で盛り付け直すように言われても面倒なので、最初から分けておいた方が無難だろう。

 最後の料理を運んで自分も席に着こうとしたら、私の席はなかった。うん、なんか想像できてた。料理も6人分しかお皿用意してないしね。少し悲しみを感じながら出口付近の壁により掛かってみんなの反応を見る。さすが犯罪者(仮)、誰もいただきますとか声かけもしない。でもこちらも想定内なので何も言わない。言ったら即殺されそうだし。

 ぼーっと様子を観察していると、何も話し声がしないことに気がつく。誰も話さない。
もしかしておいしくなかったか?ちゃんと味見はしていたけど、あくまで私好みの味付けだから口に合わなかったのかもしれない。
 やばい、燃やされる。というよりも食べてもらえないことの方が悲しい。
 ___結構気にしながら作ったんだけどな…。でも口に合わないなら仕方ないか。と静かに落胆していると、違う音が部屋に響いていることに気がつく。

 これ、皿に箸があたる音だ___。そのことに気がついた瞬間。
「うっまぁーーーー!久々に米がうまく感じる!」
「いやぁ、おかずがあるだけでこんなにも違うんだな。おじさんびっくり。」
「それだけじゃないですよっ、この肉じゃがも味噌汁もお出汁が効いてて大変おいしいです!特に肉じゃが!ホクホクのじゃがいもにトロトロのたまねぎ、味が染み込んだにんじん。そして 1 番はこの柔らかいお肉です!!」
「トガちゃん、相当気に入ったんだな。俺はこのオクラの副菜がいいな、冷たくて軽い。いい酒の肴になりそうだ。」「酒ねぇけどな!」
 トカゲの人を皮切りに次々とお褒めの言葉をいただく。こんなに喜んでくれるなんて予想外で、すごく嬉しい。作り甲斐がある食べっぷりに口角が上がりまくって、今の私はにやけてだいぶだらしない顔していると思う。

「あのっ、おかずもご飯もまだ残ってるんですが、召し上がりますか…?」
「「「…っおかわり!!!」」」
「あ、ずるい!私も私も!!」
 急いでお茶碗と汁物の椀をかき込んで空にした男性 3 名。それに続こうと、まだ半分くらい残っているのに急いでかき込む女子高生。
「まだ残りはありますから…!そんなに急がなくても…、ゆっくり食べてください…。」
 女子高生にそう声をかけ、3 人分のおかわりをよそぎ終えて振り返ると、継ぎ接ぎさんとリーダーさんがこちらに空のお茶碗を寄こしてきていた。
「…っはい!よろこんで!!」


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 結局 6 合炊いたご飯も多めに作ったおかずも綺麗になくなったのだが、まだ足りないと騒ぐので、追加のお米を炊いておにぎりにしておくことで手を打った。
 だいぶ多めに作っておいたのだが、足りなかったのかと思いながら、おにぎりを握り終えてから洗い物などの片付けをしていると、後ろから誰かが近づいて来た気配がした。女子高生ちゃんかな?と思い振り返ると、そこにいたのは顔の手を外したリーダーさんだった。
 ご飯を食べているときにも手は外していたが、真っ正面から顔を見るのは初めてで、その淡い水色の髪から覗く赤い瞳に緊張感が走る。
___そうだ、ご飯を食べ終えたら私の生死を決めると彼から宣言されているのだった。
「えっと、リーダーさん…。私殺されるのならひと思いに一瞬でお願いしたいです…。」
 あんなにも死ぬことを頑なに拒んではいたが、だんだん時間が経つうちに気がついた。
 山で気がつくよりも前、信号待ちをしている時に、あんなにも目前に迫っていた車をよけて無事でいられるはずがないと。なぜ今ここに立って動いていられるのか不明だが、もし既に自分が死んでいるのであれば、普通に動けているこの状況はおかしい。幽体離脱でもしているのだろうか。それだと彼らに私が見えていることもおかしいのだが。

「痛いのも苦しいのも苦手なので、どうか一瞬で終わらせてください…!」
 殺される衝撃に備えて堅く目を瞑っていると、不機嫌そうな声が聞こえた。
「はぁ?何を言ってるんだ?有効活用できそうな奴をわざわざ自分で殺すわけないだろ…、勝手に決めつけるな。」
 ん?有効活用できそうな奴…?疑問に思ったことがこのまま口に出ていたらしく、リーダーさんは大きくため息をつきながら面倒くさそうに続けた。
「お前が飯を作らせろってうるさいから、黙らせる為に殺すって言ったまでだ。それに、殺すかどうかは後で決めるって言っただろう。お前が飯を作れば俺達の生活水準も上がる。…精々使えるまでは生かしておいてやるよ、感謝しろ。」

 というかそのリーダーさんってやめろ。お前のリーダーになった覚えはない。
 そう言うと彼はさっさとアジトの中に言ってしまった。覚悟はしていたが、やはり酷く緊張していたようで、一気に体の力抜けて膝から崩れ落ちてしまった。どっと疲れた、もうあんな思いしたくない。
 ___殺されないように、できるだけ有益に思ってもらえるくらいには頑張ろう。そう決意しながら項垂れていると、軽い足取りが聞こえてきた。
「よかったですねェ、まだ生きていられますよ。これからご飯よろしくです。ねぇ、あなたのことはなんて呼べばいいですか?お名前教えてください。」
 近寄ってきたのは女子高生ちゃんで、質問に答えるべく私は口を開いた。
「あ、私の名前h…「飯炊き女でいいだろ。それよりよかったなぁお前、命拾いして。俺としては追い出せなくて残念だ。」
 私が名乗ろうとしたら継ぎ接ぎさんに遮られた。なんだ飯炊き女って。役割名かよ。
 再度名乗ろうとしてもこの話は終わりだ、と勝手に終わらせて彼もアジトへ入っていってしまう。
「もう、弔くんも荼毘くんも勝手ですねぇ。じゃあ、飯炊きのタキをとってタキちゃんと呼びますね!これからヨロシクです、タキちゃん。」
 私のことはトガと呼んでください。とにっこり笑った彼女は、私の手を引いて 2 人が入っていったアジトへと向かう。その温かな手に少し安心感を感じ、ほっと息をつく。

 明日の朝ご飯考えなきゃ…。私は明日も生きるため、今日から犯罪者(仮)達のご飯を作る。自分勝手な人たちを飽きさせないためのメニュー決めは結構困難で、毎日頭を抱えて悩むこととなる。

_____これは、突然やってきた私が敵達と過ごす、少しのスリルを混ぜた穏やかな晩夏の思い出だ。







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解せぬ花