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とある少年が歯を噛み締めながら家を飛びる。
今日で何度目だと数えることすらしなくなったそれが日常に溶け込んだいつもの日、住み込みで劇が学べると言う張り紙に気が付き少年はやっとみつけたと安堵し涙を流した。
今までの苦痛はこれから起きる輝く未来を知っている為に、耐えて堪えて苦痛を飲み込んできた代償ともいえる。
自分ひとりだけの寂れた劇場、たよりない支配人に、埃とダンボールしかない殺風景な景色もあれど。その向こう側には自身達を導く彼女が手を引いて笑う姿が脳裏を過ぎる。

ずっとまっていた。
この時を
この瞬間を

この張り紙の連絡先に電話すればすぐに入団許可します!むしろ入ってください!と悲痛な叫び声が端末越しから聞こえてくる事もしっている。
そこから一ヶ月後、自分のぎこちない演技を見に来た彼女と、その劇場を取り壊しにきた後の劇団員さんの事もしっている。
彼女の必死な願いにより設けられた期間内で劇団員をあつめることも、意見が纏まらず足並みが揃わないながらも共に頑張ってみようと声をかえあう日も。
少年は全て「記憶」していた。

これから

本来おきる筈の出会いと別れ。

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メジロ