六つ子達に春が来た
それはある晴れた昼下がり、6人のニート達が集まる松野家の居間での出来事だった。
「あれ、どうしたのトド松。なんかいいことあった?」
長男おそ松の声に、その場の全員の視線がトド松へ向かう。トド松はスマホを眺めながらニヤニヤとしていたが、その視線を受けて、フフンと不敵に笑った。
「実はね、彼女が出来たんだ」
全員が童貞クソニート。そう思って傷を舐めあってきた彼らにとって、それは末っ子の一抜け宣言だった。
「……なに? 新しいレンタル彼女見つけたの?」
チョロ松が平静を装って尋ねるも、トド松はチッチッと舌を鳴らす。
「もうあんなのゴメンだよ。正真正銘本物の彼女。僕と相思相愛の女の子だよ!」
「マジかよ……」
幸せそうにお花畑オーラを展開するトド松。それとは対称的にこの世の終わりのような顔をするおそ松達5人はしばらくそれぞれ打ちひしがれていたが、やがておそ松を皮切りに喚き出した。
「いやありえねーから!俺達6人みんな同じ顔!同じニート!なんでトッティーにだけ彼女ができるんだよ!」
「か、カラ松GirlはみなシャイGirlなのさ……。オレにはそれを待つ大海のごとき心の広さが……」
「彼女!?ありえなさすぎてケツ毛燃えるわ!ドライモンスターのくせに!」
「てかすぐ別れるでしょ。どーせ俺たちに彼女なんて無理無理」
「……………………」
「……え!?十四松兄さんなんで無言!?ちょっとやめてよ怖いよ!」
結局その後も言い争いは続き、母・松代がおやつの今川焼きを持ってくるまで途切れることは無かった。
のだが。
数日後。
同じようによく晴れた昼下がり、六つ子達は出かけるでもなく居間にいた。数日前と違うのは、全員が背後にお花畑を背負っているということだ。
「なぁなぁ」
全員が全員話しかけられ待ちをしていたため、とうとうしびれを切らしたおそ松が立ち上がった。
「俺さ、スッゲーーいいことあったんだけど。聞きたくない?聞きたくない?」
「いいこと!?ハイハーイ!聞きたい!!聞きたい!!」
十四松が手元のマンガに向けていた顔を上げ、両手を上げながら飛び跳ねたので、ほかの面々も釣られて顔を上げる。おそ松は腰に手を当て、ふんぞり返りながら言った。
「聞いて驚け!実はな…………俺、彼女が出来たんだ!!」
ビシイッと効果音が聞こえそうなほど鋭く指を天に突きつけるおそ松。
数瞬の沈黙があり、十四松が彼にしては控えめに、普通の挙手をした。
「あ、俺も」
「え!?」
十四松の告白におそ松が振り返る。
「ちなみに僕も」
「は!?」
悪びれず挙手をしたチョロ松も同じ報告をする。
「……俺もなんだけど」
「一松まで!?」
マスクを片手でちょいと下げながらやる気なさげに手を挙げた一松も同様に。
「実はその……オレもなんだが」
「お前もかよォォォ!!」
最後にちょいと手を挙げたカラ松は動揺したのか、カッコを付け損なって素が出ていた。
「えっと、つまり」
トド松がポン、と手を打った。
「これで全員、彼女いない歴イコール年齢状態を脱出したってわけだね!」
「なんだよ〜、ちぇっ、二番抜けかと思ったのに〜」
「まあ、今度みんなで出かけようよ!僕のナナ子ちゃんも紹介するしさ!」
「…ん?」
「えっ」
「は?」
「え…」
「ええーっ!?」
「えっ、なに?どうしたの兄さん達。僕なんかまずい事言った?」
「いや……トッティー、お前の彼女なんて名前だって?」
「ナナ子ちゃんだけど」
「俺の彼女もナナ子ちゃん」
「オレのマイスウィートハニーもナナ子だ」
「あ、僕の彼女もナナ子さん」
「…俺も、ナナ子」
「ナナ子ちゃん!!」
「……どういうこと、これ」
「「「「「「………………」」」」」」
一同は真顔で顔を見合わせる。
「…………本人に確かめよっか」
「同名の別人かもしれないしね!」
「そうだそうだ!」
そして数時間後、六つ子達は衝撃の真実を知ることになるのである。
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