彼女の真実
ピンポーン

「ナナ子ちゃん、いる?僕トド松!それと、おそ松兄さん、カラ松兄さん、チョロ松兄さん、一松兄さん、十四松兄さんが一緒に来てるんだけど…」

ガチャッ

「……みなさん来る頃だと思ってました。どうぞ、入ってください」

現れたナナ子は六つ子の中の誰も知らない表情をしていたが、六つ子全員が彼女を自分の恋人であると確信した。

ナナ子はドアを開けたままストッパーをかけ、6人を部屋の奥へ案内した。さすがの十四松も、「お邪魔しマッスルマッスル!」などとふざけようとはしなかった。


最後のひとりが部屋に入り、開けっ放しだったドアを閉めてテーブルの周りに座ったのを確認して、ナナ子は口を開いた。

「あなたがたがなぜここを訪ねてきたのかはわかります。ですので、結論から言います。

私は、多重人格障害を患っています」

ひゅっと息をしたのは誰だろうか。
それまで、相手の出方によっては到底許すことなどできないと思っていた六つ子達だったが、その言葉を聞いて全員が沈黙を続行した。
ナナ子は続ける。

「私達は同じ『ナナ子』という名前を使っているので、ここでは便宜上、おそ松さんの彼女を『おそ松子』、カラ松さんの彼女を『カラ松子』、以下それぞれ同じように呼ばせていただきます。申し遅れましたが私は……そうですね、7人目ということで、『ただのナナ子』とでも呼んでください」

どうやら今ここに座っているナナ子は、この中の誰の恋人でもないようだった。

「みなさんのことは、今日自分の日記を見て初めて知りました。本当に申し訳なく思っています。別れたいとおっしゃるのなら受け入れます。ただ、おそ松子やカラ松子たちはそれぞれ一人の人間として、あなたがたのことを心から好いているのも事実です。理解していただけるかわかりませんが……」

ナナ子は小さく縮こまりながら話し、そこまで言うと恐る恐るといったふうに六つ子たちを見やった。そこまでされてはさすがの六つ子も怒ることなどできず、代表してチョロ松が彼女に質問を投げかけた。

「多重人格というのは、記憶も別々なんですか?」

「ええ……そうです。全員多重人格を自覚してはいますが、記憶も性格も、好みも筆跡も異なります」

「確かに、L○NEしても全然返ってこないこととかあったなぁ……。人格が変わってちゃあ、しょうがないよね」

六つ子達は顔を見合わせた。

「どうする?」

「……オレは、もう覚悟を決めたぜブラザー」

「ああ、僕も」

「……俺も」

「俺も、答えは決まってるよ」

「うん、僕も。……自分の彼女を、そう簡単に見捨てたりしないよ」

全員はナナ子に向き直る。
代表してトド松が、ナナ子に向かって言った。

「僕達、力不足だけどさ……、みんなで君のこと支えるから。だから、これからも仲良くして欲しいな」

トド松が笑顔を浮かべた。
ナナ子は目を見開いたかと思うと、その瞳から涙をボロボロと流した。そして、声を上げて泣き出した。

「うわぁぁん、トッティ〜〜!! ありがとうううう」

「わっ!?」

トド松に抱きつくナナ子。

「あーあ、トド松子ちゃんのお出ましか。役得だなトッティー」

その後もナナ子は人格交代と説明を挟んで泣き続け、六つ子達はそれを見守り続けた。


六つ子と1人の女の子の、奇妙なお付き合いの始まりだった。
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