※優子さんの妹設定。名前変換ないです。



ユリオは、わたしのお姉ちゃんが好きなんだと思う。

ヴィクトルを追いかけて日本に突然やって来た彼は、そこでお姉ちゃんにきっと惚れたんだろう。
しっかりしていて、気立てが良くて、それに可愛くて。
そんなお姉ちゃんは、わたしが見てもいい女の人だと思う。
お姉ちゃんが側にいるといつもソワソワしているし、話すときも心なしか少し嬉しそう。
ユリオに「お姉ちゃんのと話すとき、なんか楽しそうだね」と言ったら、ばっと顔を赤らめたので、それは確信に変わった。

「なんで分かった?!」

と、ユリオが必死にわたしに詰めかけてきたのを覚えている。

分かるよ。そんなの簡単に。だって、ずっと見ていたんだもん。

そう、わたしはずっと見ていたんだ。

「ユリオ分かりやすいもん」

わたしは、あなたが好きだから。







「ユリオー、そこのお菓子とってー」

練習が午前中で終わったと聞いたので、わたしはゆ〜とぴあにお邪魔していた。
ユーリの部屋のベッドに寝そべりながら、わたしは持参してきたお菓子を指差す。

「…………お前な」

プルプルと震えているユリオ。
「勝手に人の部屋入ってんじゃねーよ。それに俺の前で食うとか何だよ本当に」
とわたしに文句を言ってくるが、そんなのわたしには知らない。

「だってわたし、スケートしないし」

………お姉ちゃんと違って。

心の中でそう付け足しながら、わたしはプイッとそっぽを向く。

ユリオの前では、わたしはいつもこんな態度になってしまう。
本当はもっとお姉ちゃんみたいにしっかりとしているように見せたいし、格好とかももっとおしゃれしたいし。(鼻血は出したくないけど)

でも実際は踏み出すのが怖くて、ウロウロと、この"ユリオの一番の女友達"というポジションにいるのだ。

そうするとここから次に行くことができなくなり、わたしはユリオの前ではいつもこんな風になってしまう。
格好もジャージだし、もちろんメイクもあんまりしないし、何より女の子らしさなんて欠片もないような人。
きっとユリオの中で、わたしはそういう人になってしまっているのだと思う。

「……お前かわいくねぇの」

………ほらね。
自分で選んだのに。
嫌だからといって、今の関係から抜け出す勇気も持ち合わせていないのに。

わたしの胸は、嫌になるほど痛むんだ。


「ほら」

ポイと放り出されたポッキーを片手でキャッチする。
「ナイスー」とぴゅうと口笛を吹くユーリ。
わたしはじわじわと侵食していくような寂しさを押し殺すかのように、ポッキーの袋をビリッと破った。

「ねぇユリオ」
「んだよ」
「お姉ちゃん、なんで結婚しちゃってるんだろうねー」
「知るか」
「もうちょっと出会うのが早かったら良かったよね。あ、でもそしたらまだユリオ子どもかぁ」
「てめーに言われたくねぇよ」
「でも歳の差婚っていうのも今あるし…………ねぇユリオ、聞いてる?」
「へーへー」

わたしがこう言ってるのに、ユリオは半分聞いていないような態度でスマホを弄っている。
…………お姉ちゃんのこと好きなくせに。
でも、そんなユリオの気持ちを知っているくせに、こんな風に、暗に「お姉ちゃんは無理だよ」と伝えようとしているわたしもわたしだ。
自分の性格の悪さに、たまに反吐が出そうになる。

ポッキーをポリポリと食べていく。
ユリオは未だにスマホを弄っていて、わたしはそんなユリオをずっと見つめていた。

「………ねぇユリオ」

そんな彼の片目を覆うように伸びている前髪を見ながら、わたしはユリオの名前を呼ぶ。

「………なんだよ」
「なんで片方の目だけ隠しているの?」
「んだよさっきからうっせーな!!!!」

とうとうわたしに堪忍袋の緒が切れたようだ。
スマホをバンと机に置き、わたしの方をガッと振り返るユリオ。
イライラしているような顔を見てわたしは思う。

―――だって、どうせお姉ちゃんを見るのなら。
キラキラした目で、嬉しそうな顔で、お姉ちゃんを見るのなら。

そんな目、両方隠れちゃえばいいのに。


「ねぇお姉ちゃんのどこが好きになったの?」

わたしがそう聞くと、ユリオは落ち着いたように椅子に座り直し、「またかよ…」と頭を抱えた。
実はこの質問、初めてではない。
何回も何回も聞いてきたけど、ユリオは一度だってそれに答えることはなかった。
いつも適当にはぐらかすか、「好きじゃねーよ」と毒づくだけ。

―――あんな表情をして、あんな楽しそうにしているのに、そんなわけないじゃん。

わたしはユリオのことが好きなんだよ。

そんな気持ちを、早くなくしたいのに。
一刻も早く、断ち切りたいのに。

ユリオは、いつだって、わたしが望む言葉を言ってくれないんだ。


「ねぇどうなのユリオー」
「お前そればっかだな。だからちげぇって言ってんじゃねーか」
「嘘よそれは」
「なんで嘘つかないといけねーんだよ!」

お互いにわたしたちは頑固なんだと思う。
どっちも気が強くて、多分あまのじゃく。
きっと、わたしたちの相性は最悪なのだと思う。

「嘘つかなくていいのに………わたし、知ってるのに」
「………は?お前、俺の何を知ってんだよ」

ふいに低くなったユリオの声に、わたしはビクッとする。
いつの間にかイスを立ち上がってこちらに向かってくるユリオは、瞳孔を開かせて黒いオーラを出している。

――――怒ってる。
今までで最上級で、多分ユリオは怒っている。
そんなユリオに多少ビクつきながらも、わたしは言う。

「分かるよ。お姉ちゃんが好きだってことも。だっていっつも幸せそうだったし、それに――――」
「何ひとつ分かってねぇよ」
「え、どういう―――」

「こと?」と言いかけたわたしの言葉は、宙に舞う。



「―――、」
「……」



まるで、世界が止まったような感覚だった。
周りの音も何も聞こえなくなり、開けた窓から入ってくる風も、今はピタリと止まったように感じる。

周りの全てが視界から消えたあと、わたしの世界に残っていたのは、目の前で淡く揺れるエメラルドグリーンと、そして、唇の、温もりだけ。


ユリオの香りが、ふわりと鼻孔をくすぐる。
ゆっくりと目の前から彼が離れた瞬間、また周りの時間は動き始めた。


「………分かってなかっただろ」

それだけ言ったユリオの顔は、少し赤く染まっていて。
だけど、それより更にわたしの顔は赤くなっていく。すごい速さで。

「な、な、なんで………っ」

震える唇でそう言う。
頭が、脳が、事態に追いついてこなかった。

…………今、ユリオ、わ、たし、に…。

「……いつまでも勘違いされたままなのは気分悪ぃし」
「だ、………だってユリオ、いつも楽しそうで…」
「どっかのバカの話ずっとしていたからな」
「わたしが、最初言った時、なんで分かった?!って言ってたのに」
「いきなり言われたからバレたかと思った」
「わたしが聞いてもはぐらかすだけだし、」
「お前が本気でそう思っていることに苛ついたし」
「わ、たし、女の子らしさゼロだし、可愛くないし、それに………」

頭が爆発しそうだった。
なのに、なのに。
わたしの心は、もっと深いところは、嬉しい、と叫びたがっている。

熱くなる顔と、そして目元に。
わたしはユリオの顔をそっと見つめる。



「しょうがねーだろ。そんなバカが、気になるんだから」



あぁ、わたし、今なら死んじゃってもいいかな。



世界が終わるときはあなたと共に





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