親友Mは見た



side ミラ

ハーイ、みなさん。ワタシの名前はミラ。
女子シングルスケーターとして、この強豪揃いのロシアで戦っているの。

今日は、ワタシの日本のお友達について紹介するわね。







「!名前!練習観に来たのね!」
「ミラ!お邪魔してます」

ジャパニーズの特徴の黒髪を靡かせ、名前がリンクサイドに駆け寄ってくる。
たまに練習を観に来る彼女は、大抵は少し観たら帰って行ってしまうから、あまりお話をすることができなかった。

でも今日は、ちょうどワタシは休憩時間だから名前とお喋りでもしようかな。

エッジケースをつけて、リンクサイドにあるベンチに二人で座る。
名前は、キョロキョロと周りを見渡している。

寒いのか、少し蒸気しているような赤い頬。
キラキラとした目は、本当にいつまでも幼い少女のようだ。
(彼女に限らずジャパニーズはみんな幼いけれど)

こんな目をしているとき彼女が考えているのなんて、あの人しかいないよね。

「ユーリならあっち。今はジュニアの子たちと一緒にアップをしているわ」

リンクの奥を指差す。
このベンチのちょうど対角線、少し遠いところに彼女の探し人はいた。

「あっ、ホントだ。教えてくれてありがとうね」

そう言って、ユーリを自然と追うその目は、いつ見ても本当に輝いている。

「………アナタも懲りないわねー。あんな生意気なガキ、どこがいいのよ」
「ガキって……ミラだってまだ18じゃない」

ワタシと同い年の彼女は、どうやらウチのリンクメイトの妖精さんと恋仲のようで。
何がいいんだが、ワタシにはさっぱりわからないな。

「ワタシは年下なんて無理。頼りがいなさそうだもん」

そう言って、ユーリをちらりと見る。
練習嫌いなユーリは、いつもぶすっとした表情で練習している。特にコンパルソリーなどの、基礎練習は。
あぁ、今日もまたその顔。名前が来ているの、気がついてないのね。

「そうかな…。でもユーリは、頼りがいあるよ」
そう言って彼を見つめる名前。
その瞳は、もうまさに恋をしている少女そのもの。

エッジが氷を削る音。
ジャンプをした後の飛び散る氷の粒。

暫くリンクを二人で眺めていると、不意に名前が俯く。
どうしたの?具合悪くなった?
そう思って名前に呼びかけると、ふるふると首を横に降る。

「ユーリ……ホント綺麗だなって思って」
「何、心配したのにただの惚気ってわけ?」

ガクッと項垂れる。名前は白い肌をリンゴのように染めながらユーリを見つめている。
確かに氷の上でのユーリは、悔しいほどに綺麗だ。
元々の完璧に近い容姿と、華奢な身体が、氷の上では何倍にも輝く。

「……でもね、たまに怖くなる」
名前が、ポツリと呟く。
怖い?何が?

「ユーリは、氷の上ではまるでわたしの知らない人みたいに思えちゃうの。本当に、信じられないくらい綺麗だから…。そのまま氷を滑るように、いつかわたしの前からいなくなっちゃいそうで」

そう言いながら、少し儚く笑う名前。
……まるで、大切な宝物を失うことを恐れている、幼子のような表情をしている。

「ねえねえユーリー!名前はー?来ないのー?」

ワタシが何も言えないでいると、不意に大きな声が聞こえた。
どうやら大方のアップを終えた子どもたちが、ユーリに氷上で詰めかけているようだ。

「あ?知らねーよ俺に言うなよ」
「だってー、僕、名前に会いたい!会ってぎゅってしたいもん!」
「だからんなの俺に言われても知らねーっつーの!!」
「ねぇ聞いてユーリ。この子ね、いつも名前をフィアンセにしたいって言っているのよ!」
「は?マジかよお前」
「うん!!僕ね、名前と結婚したい!」

リンクに響き渡るくらい大きく唱えられた、小さな男の子の願い。
横の名前を見ると、驚いた様子だったが、微笑ましいものを見るように、そして少し嬉しそうに頬を紅潮させている。

「…は?何言ってんのお前、あんなガミガミうるせぇ女の、どこがいいんだよ?」

するとユーリが、プルプルと小さく身体を震わせながらその男の子を、信じられないような顔付きで見る。

「知ってるか。アイツ、俺の服、すぐに捨てようとするんだぜ。『溜まっていくだけじゃん』って言ってな。俺のおしゃれな服を……。それに、アイツ朝だってスゲェうるさいんだぜ?後10分って言うと、布団剥ぎとるんだぜ?ロシアの冬の寒さ知ってんだろ?なのに窓まで開けようとするんだアイツは…。それにな……」

早口で言われていくそれに、ロシア語を多少は覚えたとは言え、ネイティブではない名前は聞き取れないらしくて、頭にハテナマークを浮かべていく。
てかユーリ。あんた、仮にも恋人に向かってその言い方はないんじゃないの?
あぁほら。名前は分かっていないようだけど、その男の子、引いているじゃん。
どんどんヒートアップしていくユーリ。
そして大きく息を吸い込んだかと思うと、

「それにな、アイツはもう売却済みなんだよ!ヴァーーーーカ!!!!」

そのままの勢いで言われたそれに、ワタシは固まる。
男の子も、女の子も、ポカンとした顔でユーリを見ている。
隣の名前は、状況が判断できずに、ただただアタフタしているだけ。


…………なんだ、名前、アナタ。

「名前、何も不安になることなんて、ないじゃない」
「………え?」

アイツの独占欲も、中々のものらしいわね。

ワタシはそう言って彼女の肩を叩く。
その瞬間、プラチナブロンドが、こちらをギロリと睨みつけてきた。
………子ども相手に本気になってるんじゃないわよ。

どうやら最初から名前の存在に気づいていたらしいユーリは、不機嫌な顔はそのままに、ずんずんと彼女のもとにやってくる。

気づいてくれた喜びからか、ユーリに手を降る名前と、そんな彼女の腕を引っ張ってリンクから引き上がるユーリ。
「ユーリ!まだ練習は終わっとらんぞ!!!」と、ヤコフの怒号が響く。


……まあ、とりあえず。

ヤコフには悪いけれど、このバカップル、暑苦しいからさっさとリンクから離れてくれないかしら?






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