愛の言葉をラッピング
「わぁ………!すごい、きれーい」
キラキラと光るイルミネーション。
いつもよりも、華やかに光る街。
それが、この国一番の都市なら尚更だ。
――――今日はクリスマス。
ロシアナショナルがあった翌日、わたしはユーリと共に、モスクワのショッピング街にやって来ていた。
グランプリファイナルを制した後のロシアナショナル。
疲れが溜まっているかな、と心配に思ったけれど、そんなのは杞憂だった。
自分の演技をしっかりして見事表彰台に乗ったユーリ。
少し疲れたような顔をしていたので申し訳なかったけれど、明日にはもうこの地を発ってしまうので、今日がユーリと歩いて回るチャンスだったから。
意外にもユーリは、「どーせ行きたいんだろ」と、わたしの遠慮がちな申し出をすんなりと引き受けてくれた。
「見て見てユーリ!色んなの売ってるよー!」
「お前………少しは落ち着けよ」
いつもは出ていないような露店もたくさん出ていて、その内容もバラエティー豊か。
思わず浮き足立ってしまうのは仕方ない。
だって、今日はクリスマスだから。
「つーか、人多すぎんだろ」
ショッピング街を歩くたくさんの人たち。
友達同士だったり、家族みんなでだったり、もちろん恋人同士だったり。
みんな、いつもに増してとても楽しそうにしている。
「だってクリスマスだもん」
そう言って、わたしはチラリと隣のユーリを盗み見る。
一応、あんまり目立たないようにフードを深く被っているユーリ。
わたしはそんなユーリの手を取ろうと思ったが、何だか恥ずかしくて、途中まで差し出した手を引っ込めてしまう。
「…何やってんだよ」
そうしていると、突然こっちをユーリが見てくるもんだから、バッチリと視線が合ってしまった。
わたしの顔はきっと赤くなっているだろう。
「な、なんでもない!」と急いで前を向いたわたしを見て、ユーリがはぁっとため息をつく。
「………なんで止めんだよ、バーカ」
そして不意に左手を包み込んだ温もりに、わたしはユーリを驚いて見る。
こっちを見ずに俯いているユーリのほっぺは、まるでチークを付けたかのようにほんのりと赤かった。
そして、しっかりと繋がれた二人の手を見て、わたしも同じように力を込める。
(………ヤバイ、浮かれちゃってるな)
そう思っても、今日の独特の雰囲気に、二人とも呑み込まれてしまっているのだろう。
いつもより口数は少なかったけれど、そんなの気にならないくらい幸せを感じた。
その後も、ショッピング街のいろんなお店を見たり、ぶらぶらと二人で歩いていると、不意にユーリが何かを見つけたかのようにわたしの腕を引っ張ってきた。
「うわっ、どうしたのユーリ」
「黙って着いて来い」
そうしてわたしをグイグイと引っ張ってくるユーリ。
そして入ったお店を見て、わたしは顔が青ざめていくのが分かった。
「ユーリ…ここ!」
「黙ってろよ俺も恥じーんだから」
ユーリに連れて来られたのは、何とも高級そうなジュエリーショップ。
ショーウィンドウケースに、ネックレスやら、ブレスレットやら、指輪なんかがたくさん並べられている。
すべてがキラキラしていて、とても綺麗。ただ、驚くべきなのはその値段だ。
「ユーリ、値段………」
「勝生勇利も買ってたんだ。負ける気はねぇ…!」
指輪のコーナーを睨みつけるように見ていくユーリ。
そういえば、グランプリファイナルのときに、勝生さんがヴィクトルに指輪贈ってたなぁ。
そんなことを思い出しながら、わたしは不意に彼の真意を理解し、そして顔が熱くなっていった。
え、もしかして、その指輪の相手って………。
「ユーリ。それ、だ、誰にあげるの?お爺さんとか?」
「はぁ?!」
わたしの問いかけに、まるで信じられないような顔をしてグワッとこっちを見てくるユーリ。
うっと怯みそうになったが、わたしは引き下がらない。
だって、だって。
もしかしたら、なんて思って、胸のドキドキが止まらないんだもん。
「お前以外誰がいんだよ、バーーーカ!!」
そう叫ばれた途端、わたしの脳みそはキャパオーバーしたようにショートし、ボンッと顔が熱くなる。
そのまま項垂れるわたしを「はぁ?」みたいな顔で見てくるユーリ。
どうしよう、ドキドキがホントに止まらない。
まさかとは思ったけれど。
でもユーリの口から実際にそう言われて、嬉しすぎて、嬉しすぎて、もうわたし溶けちゃいそうだよ。
「……んだよ、何か文句あんのかよ」
ボソッと不満そうに言ってきたユーリを、わたしは慌てて見上げる。
「ぜ、全然!全然だよ!!ただ、恥ずかしいっていうか、嬉しすぎるっていうか、えと、その……」
「あっそ」
回らない脳みそを何とかフル活用して、よく分からないことを言うわたしから目を離し、ユーリはもう一度指輪を見始める。
その背中を見つめながら、わたしは何とか自分を落ち着かせていく。
(………わたし、こんなに幸せでいいのかな)
心に残ったのは、『幸せ』以外何者でもなかった。
しばらく無言でユーリを見つめていたが、その体がプルプルと震えている。
「どうしたの?」とユーリの顔を覗き込むと、
「ふぬぬぬぬぬ…………!!」
と、その顔は非常に歪んでいた。
彼の目線の先には指輪の値札がある。
なるほど。
ユーリは、その値段の高さに驚愕していたのだ。
「…ユーリ、こんなにお金ないでしょ?今回はやめておこう?」
そうわたしがユーリに言っても、悔しそうに、本当に悔しそうに指輪を睨みつける。
指輪をそんなに睨んでも、それには罪はないよ…。
そう思いながら、ユーリの華奢な肩に手を置く。
「ユーリ、」
「………クソッ」
とても悔しそうにしているユーリは、ようやくショーウィンドウケースから目を逸らした。
そのまま店を出て行こうとするユーリの背中に、わたしは声をかける。
「ユーリ、いつか、買ってくれる?」
「あぁ?!」
わたしのその言葉に、ユーリは、不機嫌な顔のまま、ゆっくりとこっちを振り向く。
次の瞬間、エメラルドグリーンが、驚いたように見開かれた。
わたしの顔は、きっと驚くくらい幸せに染まっていたに違いない。
今回は無理だったけれど、ユーリの気持ちが、本当に、泣いちゃいそうなくらい嬉しかったから。
「………こん中で一番たけーやつ買ってやるよ!」
そう言うユーリに笑いながら、わたしは彼の隣に立つ。
こうやってユーリの隣に立っていられることも、何でも、ユーリがいれば、わたしにとっては値段が付けられないくらい幸せなことなんだよ。
「……それって、プロポーズってことでいい?」
そうからかうように言うと、ユーリは「はぁ?!」と顔を真っ赤にしながらわたしを睨んでくる。
「……わたし、ユーリ以外から貰うつもり、全然ないよ」
だけどわたしのその言葉に、もう一度目を見開くと、ブスッとそっぽを向いた。
「ん」
そっぽを向いたまま差し出された白い手を、わたしは幸せを噛み締めながら握る。
繋がれた手は、街のどのイルミネーションよりもキラキラと輝いているように見えた。
「………俺も、名前以外にやるつもりなんてねーよ」
そう言って、わたしの手を少し優しく引くユーリに。
―――――わたしの心は、冷たい空気なんてかき消すかのように、温かさでいっぱいになった。
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