「
異世界」の続き
「詳しい話は飯の時だ、時間になったら呼ぶ。」
「ゆっくり休んでおけよー。」
怪我の手当てをした後マルコさん達に案内されたのはベッドと机が一つずつあるだけの簡素な部屋だった。扉を閉めて1人になるとようやく大きく息を吸った。
「はぁ〜…………。」
遠慮なくベッドに大の字になると張っていた気が一気に緩む。いくらこの船の人がいい人達だからといって気が許せるかはまた別の話だ。一晩以上寝ていないのに目が冴えているのはアドレナリンのせいだ。グラトニーの腹の中でどれだけ時間が過ぎたか、あの場所では分からなかった。しかし、エンヴィーと戦いエドの代わりに扉を開けてからまだ数時間も経っていない。
エド達は無事だろうか。私みたいに変なところに飛ばされていないだろうか。流石に私だけがイレギュラーでエドもリンも、エドには怒られるだろうがエンヴィーも。みんな一緒だと思いたい。アルとエドがちゃんと会えていると。多分、私が居ない事を心配しているだろうが、マスタングが居ればなんとか宥めてくれる。心配はしながらも信頼してくれる筈だ。これでも元最年少の国家錬金術師。彼の部下になって短くはない。生きていると信じて、エド達を前に送り出してくれる筈。エドも賢いのだから冷静になれば今回の錬成に賢者の石を使ったのに私の命一つ持って行かれるなんて、見合わない対価のおかしさに気付くだろう。だから信じて待っていて欲しい、生きて帰ると。そう伝える術は無いけれど。
「………ぃ、」
「ぉ………、め……ぞ…」
「…?」
「おい!飯だぞ!」
「っ!」
思ったよりも近くで声がして飛び上がる。側にいたのはエースだった。考え事の最中疲労のピークで寝てしまっていたらしい。この近さに気付けないなんていつぶりだろうか。軍人としては酷い有様だ。
「エース…。」
「寝惚けてんのか?」
「いや、大丈夫、行くよ。」
「…つーか、服どうにかしねえとな。」
「あー、血?ちょっと待ってね。」
確かに食事に血だらけの格好は頂けない。軽く手を合わせて着たままの服に手を置く。錬成で血を分解して新品同様になった服。これなら食事をしていても大丈夫だ。
「レンキンジュツ?ってのは何か作るんじゃねえのか?」
「理解、分解、構築の分解で終わるのよ。」
「ふーん?」
「分かってないでしょう…。」
「便利なのは分かった。」
この部屋に来た時とは別の道をエースの案内を聞きながら歩く。ここは医務室、俺の部屋、風呂…と楽しそうに案内するエースの声は心地がいい。エドとアルが錬金術を学び出した頃、作ったものを自慢げにトリシャさんや私に見せに来た。それに似ているなと案内されたのを覚えながら頭の片隅で思う。
連れてこられたのは甲板だった。ご飯だと言うからてっきり食堂とかに行くものだと思っていたのに。甲板には人、人、人。こんなにこの船には船員が居たのか。みんな思い思いにジョッキを持ち酒を飲んでいる。何故酒だと分かったって?酒臭いんだよ、有り得ないぐらい。
「おい!主役が来たぞ!!」
「よー!!船直してくれてありがとな!!」
「いっぱい食えよー!!」
「は?」
やってきた私達に気づいた船の人達から投げかけるそれが私に向けてだと気付くのにワンテンポ遅れた。
「直すも何も…壊したのは私で、」
「船直った後色々見てみたらよぉ、前に壊して放ってたところも直っててな!!」
「掃除サボってたところも綺麗になっててよー!!」
「聞き捨てならねえのが聞こえたねい。」
「この前エースが焦がしてたのも直ってたしな!」
「うっせえ!」
それは治す直前の状態が分からないからとりあえず新品同様にするほうが楽だったと言うのは野暮なのだろうか。
「親父も喜んでてなぁ!宴になっちまった!」
「宴…。」
甲板の上は笑い声で溢れていた。これが宴か。到底、自分の居た国ではお目に掛かることが無い光景に心が浮き足立つ。急いで帰る事は不可能だから、焦ることはやめた。私抜きでもどうとでもなる。だから多少浮かれても良いだろう。
「親父ぃ!連れてきたぞ。」
「よぉ、よく船直してくれたな。」
「宴は初めてかぁ!?」
「オラァ!酒飲め、酒!!」
「こら、若い子に無理させんじゃないよ。」
船長さんを中心に居るのは隊長の人達。彼等も酒を飲み上機嫌だ。
「そんな若くないです、25なんで。多少なら飲めますよ。」
「ンッ!?」
「はぁ!?」
「ほぉ…。」
「見かけによらないねぇ…。」
「歳下だと思ってた……。」
「まあそれなら遠慮せず飲みな。」
手渡されたジョッキに並々と入っているものを半分ほど飲む。あ、美味しい。潮風に当たりながらだから余計だろうか。きっとこれも元の世界では飲めない代物だろう。
「そんじゃ、質疑応答と行くかねぃ。お前さんもこの世界の事、知らないままって訳にもいかねえだろうよ。」
「はい、助かります。」
「それで、何から聞きたい。」
マルコさんの問い掛けに周りは少し静かになる。確かに、異世界人が質問なんて何が来るか分からないから身構えてしまうのもしょうがない。
「そもそも、この船って何の船なんですか?」
一瞬の静寂が訪れた。途端、湧き上がる笑い声。
「そんなに面白い事聞きましたか?」
馬鹿にされているのはなんとなく分かってしまうから少し癪に触る。眉間に寄った皺は弟に似てると上司のお墨付きだ。
「いやぁ、悪い悪い。そういや内陸国って言ってたかぁ?」
「だから船を見るのもましてや乗るのも初めてなんですよ。」
「そりゃあ運が悪いな嬢ちゃん。海賊船だぜ、ここは。」
「は、」
「肝が据わってると思ったら世間知らずか!」
「か、海賊って…仮にも軍人がそんなとこ居たなんてバレたら上に何て言われるかっ…!」
「「「は?」」」
「軍人って、アンタがか?」
「そうですけど。」
「「「はぁぁああ!?」」」
船を直した時も聞いた様な驚く声で思わず耳を塞ぐ。というかこの船の人はリアクションがその都度大きすぎる。
「これでも士官学校を出て階級は少佐に就いています。といっても私の国では国家錬金術師の資格だけでも軍における少佐相当官としての権限があります。戦争にも行くので、資格を持っただけでほぼ軍属と言っても過言じゃありません。15の時には資格を取ったのでもう10年ほどになりますね。」
「25の綺麗なお嬢さんが軍人になって10年……?」
「なんちゅう国だお前さんの国は…。」
「私もどうかと思いますよ。というか海賊って珍しくないんですか?」
「そこら中に居るぞ。」
「傘下だけで、今は40ぐらいか?」
「傘下って、え、40人?」
「いや、40団。」
もしかして私とんでもない船に乗ってるのでは無いのだろうか。
「マルコー、今この船何人ぐらい?」
「1500ぐらいかねい。」
「せんごっ…!?!?」
「このお嬢さんには大海賊時代から説明が必要なんじゃないのか?」
「ああ、そうか。」
そうして聞いたのは、ゴールド・ロジャーの事、そして彼が引き起こした大海賊時代の事。有象無象に居る海賊の中から四皇と呼ばれる大海賊が居て、その内の1人がここの船長な事。地図も出てきてこの世界が改めて私が居た世界とは違う事も再確認した。なんて出鱈目な世界地図だ。
「なぁ、小娘。お前が元の世界で軍人で海賊船に乗るのが嫌ってなら海軍に送ってやろうか。うちの船の捕虜って事にすればそう酷い目には遭わずに済むだろうよ。」
「親父…。」
「この国のその海軍と呼ばれるものが、どんな組織か私には分かりません。私のいる軍は、正直、真っ当に完璧な良い組織だとは言えない。そしてそれはどの国でも軍は、組織ってものはそうだと思います。勿論良い軍人も何処にでも居るんでしょう。そして貴方がたみたいな気さくな海賊ばかりではない事も重々承知。でも私はこの目で見たこの船に、乗る覚悟を自分で決めた。まだ見た事のない海軍にお世話になるには信用が有りません。私がここに居るのが迷惑だと言うなら船長さんの言う通りにします。けれど私に選ぶ権利をくれるなら、この目で見てから決めたい。」
「グララララララッいい女だ!!好きにしろ!!」
「あーぁ、親父が気に入っちまった。」
上機嫌に酒を煽る船長さんの笑い声に空気が震える。多分、私を試したかった訳では無いと思う。純粋に私を気にして提案してくれたのだと思う。けれど私は軍と聞いて正義の味方だと頼れる程純粋じゃ居られなかった。だから告げた事は本音だ。それがどう言う事か船長さんの琴線に触れただけで。これでもし軍が真っ当であるなら頼るのも術だろう。それにしても海賊がこんなにも親切で良いのか。
「もう一つ気になるのはエースの力のこと。マルコさんも同じですよね?」
「あぁ、悪魔の実だ。」
「悪魔の実?」
「俺が食ったのはメラメラの実だな。」
「一見変な果物で味は最悪、食うとカナヅチになるがその代わり能力を手に入れ能力者となる。エースが溺れたり海楼石に触れないのは能力者特有のデメリットって訳だ。」
「……マルコさんは、その、何の能力を?」
「俺かい?俺はトリトリの実、幻獣種モデル不死鳥だよい。」
「…頭痛くなってきた。」
到底、科学者として理解も出来ないし認めたくもない説明で久しぶりに頭が混乱している。中々ここまで理解不可能な事象はない。優秀だからこそ脳が拒否していて頭痛を引き起こす。堪らず手元の酒を呷ってしまう。うん、美味しい。
「マルコ、見せてやれよ〜。」
「そうだねい。ほらよっと。」
マルコさんはそう言い立ち上がると、青く美しい鳥になった。幻の生き物、不死鳥が目の前に居る。最早混乱よりも知的好奇心の方が上回った。不思議とエースの焔とは違いこの不死鳥の炎は熱くなかった。どうなっているのだろうか、と自然と腕が伸びる。そして拒否される事もなく不死鳥からも羽が伸ばされ、触れるかと思えば私の手先の細かい傷が消えた。傷が、消えた。
「ははっ、とんでもないな…。」
思わず空笑いも出るだろう。こんな力、元の世界にあってたまるか。軍がこぞってオモチャにしたがるだろう、そういう力だ。恐ろしくて仕方がない。けれど世界が違えばこんなにも綺麗に見えるのか。
「悪魔の実には超人系、動物系、自然系と分かれている。マルコは動物系でエースは自然系。親父のグラグラの実は超人系だな。」
「まあそう構えなさんな。能力者なんてこの海じゃゴロゴロ居るぞ。それこそ未知の能力者も呆れる程居る。結局は使い方次第だからな。」
「それでも不死鳥ほど珍しい能力者はなかなか居ねえけどな!」
「なんでエースが自慢げなんだよい。」
「物理とか質量とかどうなってんだ…。」
「考えない方がいいよい。」
あり得ない事があり得る世界。化学で証明出来ないと聞いても頭は理屈を考えたがる。そして解が出ない謎に久しぶりに出会えた事に高揚感を覚える。分からない事があるのはいつぶりだろうか。錬金術を初めて学び出した頃、似たような気持ちになった。なんて面白い世界だろうか。まだきっと、知らない事がここには沢山ある。知りたい、知りたい、知りたい!
「錬金術師の性だなぁ…。」
「おい大丈夫か?酔ったか?」
項垂れる私を心配してかエースが顔を覗き込んでくる。でも私の口元が笑っている事に気付くと酒を追加で持たされる。未知の世界に未知の能力と優しい変な海賊達。束の間になるかもしれない、休息。楽しめるだけ楽しみたい。
「おーい!ナマエが乾杯するぞ!!」
出会ってまだ数時間。それでも私はこの海賊達を信じたい。
「この数奇なこの出会いに!」
「「「「乾杯!!」」」」
宴
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