AB!原作沿い長編導入没

「そういやSSS以外に死んでここに居るやつって居るのか?」



全ては音無結弦のその言葉が発端だった。



「どうしたんだよ急に。」
「だって俺たちはこれからやり残した事がある皆んなのそれを叶えて卒業させてやるわけだろ?でももしSSS以外にも居るならそいつも卒業させてやらなきゃ。」

青春を満喫できなかった人、後悔がある人が訪れる死後の世界。その世界の理は神への復讐の為でも神を選ぶ為でも無く、ただそのやり残したことをする為、青春を謳歌する為であった。それを知った音無達は本来あるべきこの世界の意味を全うさせようと動いていた。つい先日ユイという1人の少女を彼等は見送り、次の行動を考えているところだった。

「音無の言いたいことは分かるが……居ないんじゃねーか?だってあれだけ派手に俺らがやってるのに知らないってことはないだろうし、逆に見てるなら俺らが見逃すこともねえし…ゆりっぺがそんなこと許してくれねえよ。」

そういいながら本当にそんな事が起きれば、とゆりが行いそうな行動を想像し1人青ざめているのは顔よりもさらに青い髪をした日向であった。

「直井はどう思う?お前はSSSの事知ってても最近まで入隊してなかったんだ。何か知ってることはないか?」
「…いえ、特には。生徒会の仕事もありましたし、まあ他にも色々してましたから。」

帽子を深く被り直しながら直井は返す。表情は直井が小柄なのも帽子の邪魔もあり2人からは読めなかった。しかし仲間であること自体に信頼を寄せる2人がそれを気にすることもない。

「お、おぉ、もうその色々に関しては聞かねえけどよ。」
「…あっそう言えば生徒会の仕事が残ってたので失礼しますね音無さん。」
「あぁ、頑張れよ。」



「やけに静かだったな直井のやつ。」
「直井にだってそんな日ぐらいあるだろ。」
「ま、お前としては今日ぐらい静かな方がいいわな。」
「……ははっ。それにしてもまだ生徒会の仕事やってたんだな。」
「それもそうだよなぁ。最近ずっとこっちに居たから放置してるものかと。」

彼等のいうことは真実であった。SSSに入り音無の側につきっきりだった直井は生徒会の事は最早他人事で業務を放棄していた。そのため今更生徒会の仕事など直井にとっては下手な嘘であった。しかしそんな事情や学校の仕組みに興味がない彼等が真実に気づく事はない。しかし生徒会という単語は音無に大きなヒントとなる。

「なあ日向。前、奏の部屋のパソコンに全生徒の名簿があったよな。」
「あー、あったな。」
「俺らの名前もあっただろ。つまりあれは勝手にこの世界に来た奴等を追加して更新されてるんだ。NPCはそのままだけど俺たちみたいなやつはどんどん追加されてる。古い名簿と照らし合わせばNPC以外が省かれるんじゃないか?」
「確かに筋が通ってる…元生徒会長で橘のパソコンなら見れるし探せば図書館にもあるだろうけど……。」

日向としてはこのマンモス校の人数と膨大な人数のSSSメンバーを抜いてそこから人間を探すのは森の中で一本の木を探す以上に途方も無いことのように感じた。しかし日向と出来の違う音無の頭はその先も見越していた。

「プログラムを作ればいい。」
「おおー!!その手があったか!!って音無そんなもの作れるのか!?」
「竹山に頼む。」
「おぉ……安心したぜ、お前がそんなチート野郎だったら俺は嫉妬に狂う所だった。」
「何を言ってるんだ日向…。」



「その程度のプログラムなら簡単ですよ。1日も要りません。」
「さっすが竹山!!」
「ですからクライストと…。」
「助かるよ竹山。」

早速頼みにきた音無と日向は二つ返事で了承してくれた竹山に安堵していた。これで探すことは容易になる。

「全校生徒からNPCとSSSを抜いた名簿を作ればいいんですよね。ですがそんなもの作ってどうするんです?」
「えっと、ホラ、新しいSSSのメンバー探しだよ。もしかしたらまだ見つかってない奴がいるかも知れないだろ?」
「はぁ…。」

音無としてはそんな人間が居ないことを願っ
て居た。音無達SSSはある意味青春を謳歌している。楽しんでいる。けれどSSSに属さずNPCに紛れて居たらそれはなんて寂しいのだろうと、奏の孤独を知ってしまった音無はそう思ってしまうのだった。普通に生活してるだけで卒業できる奴もいる。でもそうじゃない奴もいる。それを自覚せずに1人取り残されてしまったら?誰がそいつをここから卒業させてやるんだ。音無にとってそれは最早義務感であった。



「出来ましたよ。」
「さすがだぜ竹山!」
「もう修正する気さえ起きないんですが……で、頼まれたプログラミングで絞り込みました。」
「それで?」
「1人でした。」
「「は?」」
「居たんです、1人だけ。NPCにもSSSにも属さない人間が。」

2人は絶句していた。日向はそんな人間が居たのかと。音無だって居ないと思っていたがそれを確認して安心するためのこの行為。本当に人間がいるなんて3人は思っていなかった。竹山もなんて声をかければいいのか分からなかった。

「そいつの名前は?」
「苗字名前と言うそうです。クラスはTKや藤巻くんと同じですね。」
「とりあえず明日見に行ってみるか。」
「そうだな。案外何も知らないやつかもしれないし。」
「音無くん。」
「何だ?」

とにかく探さないことには始まらないと意気込む2人。それとは対照的に神妙な顔をした竹山は音無に声をかける。

「名簿は先ずNPCから抜いたんです。すると残るのはその苗字名前と言う人間と僕たちSSSです。そこで並び替えて見たんです、この世界に来た順番で。データの解析をすれば簡単でした。」
「本当お前万能だな。」
「それで?」
「君とほぼ同じだったんです。ここに来たのが。つまりここに来てそれなりの月日は経っています。」

音無は今度こそ言葉を失った。自分とほぼ同じ時に来たと言うことは自分と同じ瞬間に死んでしまった可能性があるということ。そして音無にはそんなことが起こる原因に心当たりがあった。何せあれは大きな事故だった。別段おかしなことではない。考えが及ばなかっただけだ。しかしあれを経験した人間がいるのはどこか悲しくどこか同じ境遇かもしれない人物に親近感を覚えてしまう。

「音無?」
「探そう。見つけてやらないと。」
「…あぁ、そうだな。」
「お二人とも頑張ってください。僕にできるのはここまでですので。」
「あぁ、本当にありがとう。」
「見直したぜ竹山!」
「ですからクライストと…。」



「おかえりなさい直井。」
「…ただいま、名前。」

外からしか開く事のない重厚な扉。その先に広がるのは他の寮部屋と何ら変わりのないものだった。広すぎない部屋には制服のままソファに寝転び宙を仰ぐ少女が居た。

「名前。」
「何?」
「名前は、僕といて楽しい?僕だけでいいの?」
「うん、楽しいよ。迷子だった私を見つけてくれたのは直井だもん。直井がいてくれたらそれでいい。」

そういう名前を見つめる直井の目は哀しみで満ちていた。


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微原作沿いで書こうと思ったんですけど既に二本途中なのがあるので書けないだろうから供養です。

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