明るい音

「あ〜、ユキ〜。」
「お、柳くんだ。」
「あれ、明音だ。」
「名前、」



「「「「え?」」」」



たまたま教室を出た時、宮村と石川と堀さんと会ったからそのまま帰ろうとしていた。珍しく吉川さんが居ないなと思っていたら見知ったピンク頭と一緒だった。まあ俺もそのピンク頭と一緒の色だけど。

「従兄弟、です……。」
「いやぁ…隠してるつもりは無かったんだけど…。」
「「「「はぁ!?」」」」

そう、俺が吉川さんの彼氏のフリが出来ない理由はコレだ。明音が吉川さんの事を好きなのを知っていた。だから俺も吉川さんの事は知っていたのだ。吉川さんに聞くまで、まさか告白してるとは思っていなかった。他のやつなら気にしなかったが、流石に従兄弟が彼氏として出てくるのは気まず過ぎるだろう。勿論、仲の良い従兄弟だから応援はしたがどうするかは吉川さんの自由だから仕方がない。

「ちょっと苗字、あんた全部知ってたわね?」
「いやぁ…まあ。」

勘のいい堀さんに詰め寄られるがお互い具体的な事は言わずに通じ合う。吉川さんと堀さんは仲が良いからてっきり隠していた事を怒るかと思いきや、純粋に驚いているだけらしい。正直、明音には吉川さんと最近仲が良い事を黙っていたし、堀さんや吉川さんには明音と従兄弟である事も俺が吉川さんの事を明音が好きだから知ってた事を隠していたのが後ろめたかった。だから彼女達に限ってそんな事は無いと思うが、幻滅されるんじゃないかなんて要らない心配もしてしまったのだ。
そんな杞憂をしていた俺と明音を皆んなは見比べる様に眺めていた。髪の色も同じだし顔も似てない事はない。強いて言えば身長の差はそれなりにあるけれど。後は……。

「ちょうどあなたの話をしてたんですよ。美人のお友達がいるって…吉川さんが言っていたもので…。」
「あ、どうも宮村です。」

明音の目は酷く悪い。

「そうでしたか!あ、石川くんまでいたとは。」
「堀です。」

俺も目が悪くコンタクトだが明音は信じられない程目が悪い上に眼鏡もコンタクトも直ぐに無くす。だから見慣れない人相手だとシルエットが見慣れずにこういうことになる。

「すみません…え〜と宮村くん。」
「明音、それは銅像だぞ。」

何故そんな見間違いをするのか長年の謎である。

「名前、柳くんって…。」
「…変なんだ、少し。」
「お、おもしろいわね。」
「イケメン2人で胃もたれしそう…。」
「アレと一緒にしないでくれ。系統が違う。」
「堀さん、石川くんはどこでしょう…。」
「俺です。」

頼むからメガネを壊さないでくれ。

「あぁ…もう、悪い。コレ連れて帰るわ。」
「1人で帰れる。」
「既にデコぶつけてる奴が何言ってんだ。」
「珍しい名前だ…。」
「本当に従兄弟なのね。」
「兄弟って言われても信じる。」
「じゃあ皆んな、また明日。」
「柳くんもまたね。」
「はい、また。」

これ以上話ても宮村達を混乱させるだけの明音を引き摺る様に連れ帰る。ほら見ろ、視界が不安定で覚束無い。

「仲、良いんだ。」

ぽつりと溢されたのは怒りでも何でもなくただ疑問であった。

「宮村が同中なんだよ。堀さんと付き合ってるだろ?そこからだよ。お前のせいで吉川さんだけ知ってたけどさ。…怒ってないの?」
「怒らないよ別に。最近名前楽しそうだから良かったなって。そっか宮村くんか。」

安心した様に嬉しそうに明音は言う。きっと俺は自覚無しに何か心配を掛けていたのだろう。不本意だが。しかしそれは逆も言える事で。

「お前も仲良くしたら良いんじゃないの。」
「えっ、いやいや、僕なんかが今更、おかしいでしょ。」
「あっそう。」

明音がそう言っても皆んなもうそのつもりだろうに。きっと明音も巻き込まれる。俺がそうであった様に。