おはようから始めよう
    馴染みます

    「おはよう、ツナ。武も隼人もおはよう。」

    ようやく見慣れてきた朝の登校風景。しかし昨日俺が雲雀さんの手伝いを知っている3人は会った時からえらく心配してくれた。ツナはしきりに怪我が無いか聞いてくるし武も隼人もどうにも腑に落ちないと言った反応をする。けれど本当に1つも怪我はないしちゃんと手伝いもしたし別段変わった事もない。それを告げると三者三様の反応でツナは驚きながらも変な関心をしていたし武は大笑いしていた。隼人は素直じゃない事を言うけれど顔が安心してるのが俺でも分かった。それにしても3人にもここまで思われるって本当に雲雀さんって怖い人なんだなぁ、と他人事な時点で俺がもうみんな程あの人を怖いとは思ってはいない。と言っても優しいことを知っているからってだけで暴力は怖いので勘弁願いたいし俺の目の前でそんなのを見ることがないのを願う。

    「あっ、草壁さん。」
    「ゥエッ、あっ!?本当だ、今日検査か〜…。」
    「やべ、俺今日マンガ持ってる。」
    「学校にンなもん持ってくんじゃねーよ。」
    「その前に隼人は違反しまくってるその服装直しなよ。」

    2回目ともなれば俺も慣れたもので、そもそも昨日も会っていた人達だから初めて会った時よりも随分と警戒は薄い。

    「おはようございます、草壁さん。」
    「ああ、苗字か。昨日は助かった。」
    「いえっそんな…。」
    「ヒェッ、草壁さんと普通に喋ってる…。」
    「さすが名前だな〜。」
    「何朝から群れてるの。」
    「あっ、雲雀さん。おはようございます。」
    「…おはよう。」

    雲雀さんが挨拶を返してくれた、何て1人感動しているけど周りのみんなも結構予想外らしくぽかんとしている。俺より雲雀さんと長い付き合いの彼等がこうなのだから余程意外なのだろう。確かに雲雀さんが自ら挨拶、と言うのもあまり想像は出来ない。けれどこうして返してくれるという事はそれなりに昨日で俺のことも分かってくれてきているのではないだろうか。

    「今日は、違反してないね。」
    「こいつに無理矢理な…!」
    「だって怪我したくないでしょう?」

    そう、門に着く直前に俺は隼人の身嗜みをなんとか整えた。その最中も今も眉間の皺は寄ったままで相当怒っているのだろう。でも暴力沙汰は御免だ。隼人も分かってるからか不服だと全面に出して居るが抵抗は本気では無かった。まあ俺が隼人に本気で抵抗されれば簡単に怪我をするのがオチだからそれを分かってたのかもしれない。本当、不器用な人だ。

    「もういい、視界で群れられると蕁麻疹が出そうだ。早く行きなよ。」

    そう言い目つきは初めてここで見た時ぐらい鋭い。ということはまたトンファーとやらがお目見えしかねない。ツナも察したのか隼人を引っ張っている。

    「また放課後ですね。」

    門を通り過ぎる際にそう言う俺の声に否定は無かったから昨日の約束は守らせてくれる様だ。気が変わってサンドバッグ、なんて事もあり得そうだから。



    「ミードリタナービクー」

    拙い歌声が静かな空間に鳴り響く。特徴的な声の正体は昨日も会った雲雀さんの鳥だ。静かな空間が壊されても特に雲雀さんは気にした様子も無い。片付いた机の上に着地するとつぶらな瞳は此方を向いていた。

    「こんにちは。昨日も会ったね。」
    「ヒバリ!」
    「雲雀さんはお仕事中だよ。」

    俺の言葉は通じているのか特に机の上から動く気配はない。やはり賢いなこの鳥。

    「俺の名前も読んでくれないかな…名前、だよ。」
    「ヒバリ、ヒバリ!」
    「やっぱ無理か〜!」

    昨日の今日で俺の名前を覚えてくれるはずもなく、飼い主の名ばかり恋しそうに呼んでいる。飼い主様はお仕事中だ小鳥よ。俺?俺は

    「苗字。」
    「わっ!すみません、煩かったですか?」
    「書類は。」
    「えっと、さっき渡された分は一応終わりました。後は判子だけです。」
    「…何でそんなに仕事は早いのに道は覚えられないの。」
    「あはは…よく言われます。」
    「終わったなら好きに戯れてていい。特に今やって貰うものはないからね。草壁。」
    「はい。苗字、緑茶でいいか?」
    「あっ俺が淹れますよ!」
    「いい、座っておけ。昨日と今日で随分と書類が減ったからな。休んでいてくれ。ヒバードも、おやつだぞ。」

    そう言われいい香りがするお茶を出されてしまってはもうどうしようもない。俺の手に寄ってくる、ヒバードと呼ばれるらしいこの鳥と存分に戯れるとしよう。



    「ヒバリ!」
    「苗字。」
    「うっわ!?」

    ヒバードの鳴き声と同時に聞こえてきた低めの声と俺を覆う影。ソファの後ろに立つ雲雀さんは脱いでいた学ランを肩に羽織り何処かに行くようだ。例の見回り、だろうか。外を見れば夕日が沈み始めている。そろそろ俺も帰る時間だ。ヒバードと遊ぶのが楽しくてつい時間を忘れてしまう。

    「もうそんな時間ですか。」
    「あぁ、下校時間だ。」
    「…俺何にも役に立ってない気がするんですけど。殆どヒバードと遊んでたし……。」
    「急ぎの書類はお陰で全部終わった。会計の書類は全部渡したはずなんだけどね。まさか全部終わらせるとは思ってなかったよ。」
    「えへへっ…なら、良かったです。」

    確かに雲雀さんの言う通り、昨日見た雲雀さんの机にあった書類は殆ど無くなっていた。心なしか昨日よりも機嫌も良さそうに見える。良かった、ちゃんと役に立てれて。最初はリボーンの無茶振りだったけれど、こうして役に立ったなら来て良かった。それに俺なんかで良いならいつでも手伝おうって今なら思える。草壁さんは見た目と違って優しいし淹れてくれるお茶は美味しい。雲雀さんも言葉には出さないけれど雰囲気で俺が役に立ったと伝えてくれる。なんと言ってもヒバードが可愛い。ツナは応接室に来るのを怯え反対していたけれど俺は来れて良かったよ。

    「それじゃ、行こうか。」
    「えっ、何処にですか?」
    「何処って帰るんだろう?」
    「そうですけど…え、えぇ?」
    「君の事だ、昨日の今日で一人で帰れると思えないんだけど。」
    「それは……そうですけど……。いや、でも、良いんですか?」
    「そうだね…手伝わせたから送るのって、君の言うところの常識ってやつじゃないのかな?」

    やっぱり俺にはツナが言うほど怖い人には見えない。

    「それに君に迷子になられて風紀が乱れるといけないからね。」

    変わった人だとは思うけど。

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