ヒーロー

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両親は物心つく前に交通事故で死んだ。飲酒運転の車に激突されて即死だったそうだ。急に親を亡くした私を育ててくれたのは祖母だった。おばあちゃんは私が寂しくないようにたっぷりの愛情で育ててくれた。
でも授業参観などの学校行事に親が来ないことはやっぱり目立って、私は同級生から心許ない言葉をかけられることが多かった。
「やーい!みなしごみなしご!」
「わ〜ん!ママ助けて〜!あ、ママはいないんだった〜!」
「ひとりぼっち〜ひとりぼっち〜!」
(私にはおばあちゃんがいるからひとりじゃないよ!)
言い返したいのに、言葉が詰まる。
悔しい。悔しい。何でそんな意地悪なこと言うの?

「醜いな。君たち恥ずかしくないのか。」

言い返せずに俯くばかりの私を助けてくれたのは彼だった。
降谷零くん。
おばあちゃんに抱くだいすきとは別の、私のだいすきな人。


学校は一緒だったけど、彼のまわりにはいつも人が集まっていて、話しかけることなんてできなかった。友だちなんていない私とは正反対の人。だから遠くから眺めるだけで十分だと思っていた。
中学生になって信じられないが彼から告白された。ただ見ているだけだった私が彼の特別な存在になれる。あぁ私は本当はこうなることを望んでいたのか。私に断る理由なんて見つからなかった。














〜♪ 〜♪ 〜♪

「んー」
手探りでスマホを探してアラームを止める。久しぶりに夢を見たからか寝た気がしなくてまぶたがとっても重い。まだ起きたくないな。
期待して隣に手をのばす。しかしその手は空を切った。今日もいない。分かっていたことだけどやっぱり寂しくて彼の枕にぼふっと顔をうずめてみた。自分と同じシャンプーの匂いがする。嬉しくなって顔がにやけるのが分かった。
(やだ私変態みたい。)
頭が覚醒してきたのでむくりと起き上がってくわぁとあくびをする。
(もう3日も顔見てないよ…)
彼も自分と同じ警察官だが、彼の所属する部署は特に多忙極まりない。彼のことだからどうせあまり寝てないだろう。今日もし会えたら無理矢理にでも休ませないと。


今日も蒸し暑い。窓の外を見ると雨がしとしとと降っている。
(今日は早めに出よう)
雨の日の電車は特に混む。頭で出勤するまでの時間を計算して、準備にとりかかった。












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