年相応?



警視庁公安部セキュリティ対策課。ここが名前の職場である。
警察学校の卒業後、彼女は自分のような事故遺族を少なくしたい、と交通課を希望したのだが、その希望は通ることなく却下された。交通課に留めておくことがもったいないほどの人材であったからだ。もちろん彼女は自分自身のすごさに気づいてすらいない。今でもチャンスがあったら交通課に!と思っているほどだ。

セキュリティ対策課の主な仕事は、サイバー攻撃やハッキング被害などの防御や取締り。毎日コンピュータを相手にする仕事だから目はショボショボ、肩はガッチガチに固まっている。肩をまわすとゴキッとおぞましい音が鳴った。この前もマッサージのおじさんに『27歳とは思えない肩』と言われたばかりである。顔は大人びてくれないのに、肩だけ歳を取っていく。そんな彼女の冗談に、部下の返答に困った顔はみなさんも想像できるだろう。

時計を確認するとお昼を食べるには少し遅い時間。
(思えばお腹すいたな…)
仕事を切りの良いところで中断させ、お昼休憩を取るべく席をたった。


「う〜やっぱり違うな…」
今日はサンドイッチの気分で、最近警視庁の近くにできたおいしいと話題のパン屋のを買って食べてみた。でも零くんがつくってくれるサンドイッチのほうが何千倍もおいしい。あんなに並んだのにその時間を返してくれ。というかあんなにおいしいサンドイッチをつくれる彼が悪いんだ。外食があまりおいしいと感じれなくなってしまったじゃないか。全くもう胃袋を完全に握られてしまった。

「あ〜零くんと一緒にご飯食べたいな〜」
「そういうことなら今日はなるべく早く帰る。」
「本当に?じゃあ今日はね〜ってえぇ!?」
いつのまにか背後に現れた降谷に驚いて持っていたジュースをこぼしそうになった。それをあわてて阻止する。ギリギリセーフ!
「びっくりした〜!もう背後から登場するのやめてよね!」
「名前の後ろ側から歩いてきたんだ。そうなるに決まってるだろ。」
「そうだとしてもひとりごとに入ってくるのやめて!あ、風見さんもいたんですね。こんにちは!」
「……それ地味に傷つくんだが」
「ほぇ?それより零くん早く帰れるって本当に!?」
「あぁ。今日で一段落できそうだしな。」
「やった〜!じゃあ今日は名前特製フルコースでお迎えいたします!」
「張り切るのはいいが作りすぎるなよ。」
「大丈夫!『名字さんすみません!』あ、はーいすぐ行きます!じゃあ零くん後でね!風見さんは〜また会えたらいいですね!」
(名前)はそう言い残してスキップをしながら風のように去っていった。
彼に会えたことが嬉しかったから、鼻歌という特典付きで。


「まったく…彼女本当に27なんですかね?」
「風見、絶対それ本人に言うなよ。」
アラサーにしてはこどもっぽい彼女の言動に苦笑いしながらも、彼女の後ろ姿を見つめる降谷の目は実に優しいものであった。


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