帰ります。
言動はこどもっぽい彼女だが、仕事は誰よりもできる。
「名字さん休憩中のところすみません…これを16時までにと言われてしまいまして…」
「了解です。15時までには仕上げられますよ。」
「名字。この前の件だが、」
「はい。その件は大手サーバーのーーーー」
「名字さん。ここがちょっと分からなくて…」
「えっとここわねーーーー」
こんな感じで仕事はすべて彼女のおかげでまわっていると言っても過言ではない。そのため残業続きの毎日で、前に定時で帰れたのはいつだったか。思い出せない。
3、2、1…キーンコーン「お疲れさまでしたあ〜!!」コーンカーン♪
「あ、名字さ〜ん!!」
引き止める声が聞こえたが知ったこっちゃない。廊下を全速力で走る。
廊下は走っちゃだめ?それも知ったこっちゃない。
(今日くらい定時で帰らせてくれ。零くんの顔を拝ませてくれ!)
「メインはお魚にするかお肉にするか…」
職場から逃げ出すように帰って近所のスーパーに立ち寄った。時間帯だけに自分と同じ仕事帰りであろう女性客の姿が目立つ。
(私も主婦みたいに見えているのかな?)
ドンっ!
「痛っ…!」
「わわ!ごめんなさい!僕だいじょうぶ?怪我していない?」
彼との結婚生活を想像しながら歩いていると人にぶつかってしまった。おいおい警察官が一都民を怪我させてしまってどうするんだ。
「ううんだいじょうぶだよ!怪我もしてないよ!」
「本当にごめんね。ちょっと考え事をしてたものだから…」
考え事ではない。それは妄想というものだ。
「コナンくーん!帰るわよー!」
「あ、はーい!おねえさん僕本当にだいじょうぶだからね!じゃあね!」
「ありがとう!気を付けてね!」
「気をつけるのはおねえさんのほうだよ!」
ごもっとも。しかし浮かれすぎている彼女にその言葉は届かなかったようだ。
(メインは白ワインがあるからお魚にしよーっと!)
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