孤独感




「帰るって言ったのに零くんのバカちん…」

料理もすべてセッティングできて、あとは出迎えるだけ!の状態だったのだが、今しがた《今日も帰れなくなった》とメールがきた。
分かってる。彼が背負っている何もかもを。それを自分のわがままなんかで邪魔をしてはいけないことも。
こうなったらご飯全部食べてやる!と食卓にはついたのだが、ひとりだとまったくおいしくない。味見したときにはあんなにおいしかったのに。

(ひとりは、さみしいな、)

もう何をする気も起きない。このどうしようもない孤独を掻き消したくて、自分を抱きしめながらソファに丸くなった。


















時計の針はすでに日付を跨いでいる。今日で終わるはずの案件が公安部のミスでこの時間までかかってしまった。

「降谷さん。あとは私たちだけで大丈夫です。申し訳ありませんでした。」
「あぁ。また明日報告してくれ。」
「分かりました。…あの、名字にも…」
「大丈夫だ。風見に心配されるようでは俺もまだまだだな。」
「すみません。余計なことを…」
「いや。伝えておくよ。」

車に乗って何時間も前に届いた名前からの返事を読み返す。

《ブラック企業(笑)了解だぞ!無理しないでね。》

無理してるのはどっちだ。
名前はわがままなんて絶対に言わない。こいつは昔からそういうやつだ。

「そんな名前に甘えているのは俺か…」
1秒でも早く名前に会いたい。アクセルを思いきり踏み込んで真夜中の国道をぶっとばした。






















カ…チャ



「名前?」
リビングから光が漏れていたのでまだ起きているのかと思えば彼女はソファに丸まって静かに寝息を立てていた。
彼女に近づきそのやわらかい頬を撫でる。

「んぅ…」

くすぐったそうに少し身じろぎをする、その姿がかわいくてふっと笑みがこぼれる。
このままずっと寝顔を眺めていたいが、さすがにここで寝かせたままにはできない。彼女を横抱きにして寝室へ足を運ぶ。その途中ダイニングテーブルにラップがかかった料理が並んでいるのが見えた。いったい彼女はどんな思いでラップをかけたのだろうか。

ベッドにそっと寝かせ、自分は淵に腰掛けて彼女の顔を見つめる。

「名前ごめんな」
いつもそばにいてやれなくて。いつも寂しい思いをさせてしまって。

彼女のおでこにそっとキスを落として、自分はシャワーを浴びるべく部屋を後にした。





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