異動命令



何と刑事1課のお偉いさんに呼び出しをくらった。

(立てこもり事件で私が映っているデータ全部消したのバレたかな…?)

他に怒られそうな要素がなかったか考えを巡らせながら最後の角を曲がると、ちょうど向こう側の角から愛しの彼も曲がってきた。

「あら零くん偶然だね〜」
「名前こんなところで何してる。」
「何してるって、ここの人に呼ばれちゃったのだよ…」

呼び出しをした張本人、黒田管理官室の扉を見つめる。

「は?お前も?」
「お前もってことは零くんも?」

頭の中で2人の共通点を探してみたが、付き合っていることくらいで、仕事で大きくかかわったことは今まで一度もない。
呼び出された理由の予測もできないまま、零くんが部屋の扉をノックした。

「入れ。」
「失礼します。」

零くんの陰に隠れるようにして自分も部屋に入る。だって黒田管理官の顔、果てしなく怖いんだもん。

「おぉ二人そろってか。」
「そこで偶然会いまして。」

零くんと並んで管理官の席の前に立つ。本人を目の前にすると更に恐ろしさが倍増した。オーラが本当に半端ない。思わず零くんの手を握りそうになったが、伸びかけた腕をもう片方の手でぎゅっと握りしめてそれを抑えた。

「早速呼び出した要件だが、」

そう切り出されてゴクッと唾を飲みこむ。しかし、管理官の口から出されたのは思いもしない言葉だった。

「名字、警察庁に異動しろ。君には降谷の直属の部下になってもらう。」

「へ、い、異動…?」

ぱっと零くんの顔を見るが彼も聞いていなかったらしく、めずらしく顔をしかめていた。

「名字、君の記憶力は相当なものだと聞いている。」
「え、えっと…学校のテストの時しか役に立ったことありませんが…」
「降谷はある組織で名前をもらえる立場になった。君のその能力を生かして降谷の支援を行え。」
「え?え?(あの、話が噛み合ってないんですけど…)」
「お言葉ですが、管理官。今まで通り風見にやらせればいいのではないですか?」
「いや現場で直接動く者ではなく、これからは机上で支援を行う者が必要だと考えた。降谷、私は君の力を低く見ているわけではないし、彼女を巻き込みたくない気持ちは分からないでもない。しかしあの組織は一筋縄でいかないことくらい君も分かるだろう。」

零くんが視線を送ってくる。これはお前も何か反論しろという目だ。

「あ、の、零くん、じゃなかった降谷さんの力になれるなら私やります。」
「名前!?」
「私情で物を言ってるのは重々承知してます。ですが私なんかが支援をしても良いと言ってくださるならやりたいです。お願いします!」

地面につきそうになるくらい頭を下げた。零くんはいつも私を守ってくれる。彼がそんな危険なところに行くのなら、何の役にも立たないかもしれないけれど私も彼を守りたい。

「はは、頭をあげなさい。」

あの黒田管理官が笑った。おそるおそる頭をあげる。

「もし反対されても押し切るつもりだったがな。そういうことだ降谷。分かったな?」
「…はい。」

彼はしぶしぶうなずいた。

「すぐに異動の手続きをしておく。君たちには期待しているぞ。」






















部屋を出てすぐに彼に手を引かれ、人気のない備品庫の壁に押しつけられた。わお。壁ドン?

「名前なぜ断らなかった!」
「あら立てこもり事件に巻き込まれたときは心配してくれなかったのに、今回は心配してくれるのね。」
「それとこれとは訳が違う。どれだけ危険か分かっているのか!」

ものすごい迫力でひるみそうになるが、ぐっと足を踏ん張った。ここで引き下がるわけにはいかない。

「危険なのは零くんも一緒でしょう?私もう黙って帰りを待つのはいやだもん!」
「くそ、俺がどんな気持ちでこれまで…!」
「知ってる。零くんがいつも自分の仕事に私を関わらせないようにしてたことくらい気づいてたよ。」

零くんが驚いた顔で私を見つめる。もしかして気づいていないと思っていたの?

「零くん。私は弱虫で泣き虫でビビりだけど、零くんの力になれるなら私なんでもやる。零くんが私を守ってくれるみたいに、私も零くんを守りたい。」
「はぁ…名前はこうと決めたら絶対に言うこと聞かないからな。」
「ふふ、私こう見えて頑固なの。」
「…俺の指示したこと以外は絶対にしないこと。分かったな?」
「…零くんも無茶は絶対にしないこと。分かったな?」
「真似するな。」

そう咎めながらも彼に片手で頭を抱き寄せられる。

彼の心臓の音を聞いていたら、どんどん愛しさが溢れだしてきて思わず大声をあげてしまった。

「うわあ!もうやだ!」
「またか…なんだよ急に…」

また何か言い始めたと呆れた声が聞こえたが、そんなのおかまいなしに彼にぎゅっと抱き着いて頭をぐりぐりさせた。

「零くんが好きすぎてどうしよう!もう好き好き大好き!!」
「お前ここでそんなこと言うなよ…」

「え?」

顎をクイっと上にあげられたと思ったら唇が触れ合う。私今絶対顔が真っ赤だ。だって顔だけものすっごく熱いもん。

「う、にゃ…もう仕事中なのに…!」
「名前が悪い。」

べーっと舌を出したらそのまままたキスされそうだったのであわてて手で唇を覆った。あぶないあぶない。

「逃げるな。」
「もう今日の零くん変だよ!おおかみみたい!」
「なら名前はその狼に食べられるうさぎだな。」

覆っていた手をどかされて次は深く深くキスされる。私の腰が抜けて立ち上がれなくなったのは言うまでもない。





(てゆうか黒田管理官って警察庁の人だったんだね。)

(それ今言うか?)






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