※苦い記憶




「名前ちゃんってなんでも覚えてるよねー」
「うん、ちょっと気持ち悪いよねー」

やめてそんなこと言わないで

「名字さん、教科書を一文字一句間違えずに覚えてしまうんです。」
「もしかしてロボットなんじゃないですか?あの子あんまり笑わないし。」

違うよちゃんとした人間だよ

ーーーー「バケモノめ、死んでしまえ」「お前は人間じゃない」「お前が醜いから両親はお前を残して死んだんだ」「気持ち悪い近寄らないで」ーーーー



「やめてっ ーー !!」

はぁはぁと息が荒れる。寝汗がびっちょりで気持ち悪い。胸が切り裂けるように痛い。


「名前?」
「いや、いや、名前はロボットなんかじゃない、やめて、もう言わないで」
「名前、俺だよ。」
「う、あ、れい、くん…」
「また夢を見たんだな。」

隣で寝ていた彼が起き上がって私を抱き起こし自分の膝の上に乗せる。そして私はいつものように彼にぎゅっと抱きついた。本当に彼は私が今一番してほしいことをいつも分かってくれる。

「零くん、零くん、」

狂ったように名前を呼び続ける私の頭を優しく撫でてくれる。

(零くんに嫌われたら私どうしよう)

そう思ってしまったら、さっきの痛みとは比べ物にならないくらい胸がズキズキ痛む。

「やだ零くん、嫌いにならないで、」
そしたらもうわたしいきていけない

「名前…」

彼の手が頬を包み込んで目線を合わせられる。今は零くんの目がどうしても見れない。

(冷たい目をしていたら?蔑む目をしていたら?)

「名前、目逸らすな。」

ぶんぶんと首を横に振る。昼間あんなに零くんを守るとか豪語したのに今すごく迷惑かけてる。もうなんで私こんなお子さまなの。

「はぁ…」

(やだなんでため息つくの)

思わず顔をあげたらキスの雨が降ってきた。静かな空間に舌が絡み合う音が響く。

「ん、あっ、待って…!」

彼の手が服の中から侵入して腰をいやらしく撫でられる。あれ?どうしてこうなったの?

「俺の気持ちを疑うなら体に分からせるしかないだろ?」

口調は強めだったけど彼の顔は歪んでいた。ああなんて私はバカなことをしちゃったの。

「零くん、ごめん、ごめんなさい…」

彼に抱きついて首筋に顔をうずめる。疑ってごめんなさい。彼が本当は不器用で言葉とか態度が冷たくなってしまうこと気づいてるのに。こんなにも大切にしてくれてるって分かっているのに。





















嫌な予感が的中した。昼間、管理官から記憶力の話が出たときから不安に思っていたんだ。やはり真夜中に飛び起きた(名前)を膝に乗せてあやしながら思う。こいつの夢の中にも入れたなら、苦しませずに済むのに。

「やだ零くん、嫌いにならないで、」

いきなりのその言葉に頭を撫でていた手が止まった。嫌いになる?そんなこと出来るわけがない。こんなにも愛おしいのに。

「名前…」

その想いを分かってほしくて(名前)の顔を上げさせる。が、首を横に振って目すら合わせようとしない。

「はぁ…(イラつく)」

俺のため息に顔を上げた名前に深くキスを落とす。
イラつく。名前を安心させてやれない自分が。
こういう表現でしか愛を示せない自分が。

「ん、あっ、待って…!」

服の中に手を入れると名前がその手を掴んで阻止しようとする。

「俺の気持ちを疑うなら体に分からせるしかないだろ?」

違う。こんなことを言いたいわけじゃない。情けないことに悔しさと悲しさで思わず顔が歪んでしまった。その顔を見た名前は何かを悟ったようで抱き着いて泣きながら謝罪する。

(うまく愛情表現できないことなんてすでにお見通しか、)

「…俺こそ悪い、」

長い間一緒に居すぎて名前には何も言わなくても分かってもらえると思い上がっていた。でもちゃんと言葉にしないと伝わらないよな。

「零くん…?」

謝罪を述べた俺の顔を不思議そうに彼女が覗き込む。彼女の目に自分が映っている。何て情けない顔をしているんだ俺は。でもこんな姿を見せられるのは君だからか。

「零くんだいすき」

頭を包み込むように抱きしめられた。
(はは、形勢逆転だな)
1回しか言わないから絶対聞き逃すなよ。

「名前、愛してる。」







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