01.僕の私の転生トリップ
オギャア、オギャアという赤ん坊特有の泣き声で目を覚ます。

あれ、おかしいな。私には赤ちゃんの同居人なんて居ないのに。
寝起きに感じる倦怠感で上手く働かない頭を使って懸命に考えてみたが、私には全く心当たりが無かった。

まさかアパートに取り憑いていた霊的な何かが力をつけ、部屋の住民である私を呪いに来たのか!?

身震いするような考えが頭をよぎる。早く除霊!塩!掃除機!と急いで身体を起こして確かめようとしたものの、何故か思う様に身体が動かせない。

これはいわゆる金縛りというやつでは…

いよいよ赤ちゃんの霊に取り憑かれている説が濃くなっていく。
とりあえず慌てず騒がず現状確認だけでも、と冷静に判断し、未だに聴こえる泣き声の出処を探そうと辺りを見渡した。

ど、どこだここ。

まず真っ先に視界に飛び込んできたのは木でできた柵。その隙間からはシミ一つない綺麗な白い壁と、額縁みたいな形の大きな窓が見えた。まるで絵に書いたような青空だ。
そしてやけに遠い天井から吊るされた青い魚達のモビール…なんでモビール?がヒラヒラと泳ぐように舞っている。縦横無尽に動き回る姿は、本当に魚が生きて泳いでいるみたい。

私の住んでいる築ウン十年なアパートの、歴史を感じるボロボロの部屋なんかとは比べ物にもならないくらい素晴らしい部屋だった。

うーん、これは夢だ!夢に違いない!

考える事を放棄した頭は夢だと結論づけることにしたらしい。
見慣れない部屋以外に特に面白みもない夢だ。
オギャア、オギャアとまだ泣き声は聞こえるが、耳が慣れた為BGMとして聞き流している。

すると突然何も無い壁からドアが現れ、銀髪の美人が入ってきた。
ギョッとして目を見開いてしまう。急な出来事に頭が追いつかない。
この部屋にドアなんか無かったのに!


「……!………」


美人な女の人が柵の上から覗き込むような形で私に話しかけてくる。愛しいものを見るような暖かい眼差しだ。
流暢な異国語が耳を通り抜けていく。何を言ってるのか分からないが、とても優しい声色をしている事だけは分かった。
女の人が手を伸ばす。私の身体も勝手に女の人に向かって手を伸ばした。彼女に握りしめられた手は頼りない程小さい。そう、赤ちゃんみたいな……

その瞬間、ビリッとした電流のような感覚が身体を駆け巡っていった。

女の人を見上げる形で見つめてみる。彼女はにっこりと微笑み返して、繋いでない方の手で私の頭を撫でた。

これを夢と呼ぶにしては感覚がリアル過ぎる。

日頃からネットで鍛えられた私の頭はある仮説をたたき出す。これは「転生トリップ」と呼ばれるものなんじゃないか。
20歳、人生の夏休みと呼ばれる大学生を満喫していた私は今、目の前にいる女性の子供になってしまったのではないか、と。
1/12
prev  next