29.突撃!隣の晩ご飯
右側にシリウス、左側にレギュラス。両手に花というのはこういう事だろうか。最高だな…と遠い目をして現実逃避したくなるくらいには空気が重かった。時刻は現在18時30分、突撃隣の晩ご飯の時間だ。なぜ身内ではない私が1年ぶりの再開であるブラック一家団欒の間に突撃しているのか私自身がよく分かっていない。いや原因は分かっている。姿あらわしでグリモールド・プレイスに到着した私と両親をブラック兄弟が揃って私の腕を掴み、引きずり、ブラック家に軟禁したからであった。シリウスに「頼む、傍にいてくれ」と言われて放置できる奴がいるだろうか。いや、いない(反語)。でもブラック家皆がお通夜みたいな顔をした楽しさの欠けらも無い突撃隣の晩ご飯なんて嫌だ。私も私の家族と団欒させてくれ。ほら、クリーチャーが部屋の隅っこで震えているじゃないか可哀想に!
出された料理には誰ひとりとして手をつけていない。家長が手をつけなければ食べられないのだ。そんなオリオンさんは無言でシリウスを見つめている。ヴァルブルガさんも眉間に皺を寄せじっとシリウスを見つめている。レギュラスは私を見ている。なんでや。そこはシリウスを見ろ。こら!大っきなおめめでこっちを見るんじゃない可愛いんだから!
さてさて、なんで私はここにいるんだろうと考える。ここはまるで裁判場だ。被告人はシリウス・ブラック。罪はグリフィンドールに入った事。ならば私は弁護士か?よーし任せろダンボール製の弁護士バッジなら持っているんだ。声がでかいのが取り柄だから堂々と「異議あり!」と台をバンして証拠品を突きつけられるぞ。だからほら、シリウス、頼むから何か喋ってくれ。右肘でシリウスの脇腹をどつくと「何するんだよ!」と視線で訴えられた。いいから何かするんだよお前が!さもないとオリオンさんを指さして大きな声で叫ぶからな。…ん?
ふと気がつく。そうだよ、ここで一発逆転すればシリウスの退学危機を覆せるかもしれないじゃん。というか大人がさっきからシリウスを見ているのはシリウスにグリフィンドールに入った件について話させる為だったのでは…?ああ、気づくのが遅過ぎた。ごめんシリウス。明日動くつもりだったんだ、許してくれ。明日っていつの明日よ、と見知らぬお姉さんが脳裏で問いかけてくる。すみません姉さん、明日って今さ。私が何とかするって約束したのに動かないでどうする。ポケットを探るとハンカチと共に証拠になりそうな物がひとつ出てきた。後はこれを裁判長…オリオンさんに提出するだけだ。
「裁判ち…オリオンさん!!!ヴァルブルガさん!!!これをご覧下さい!!」
「…これは?」
「写真です!シリウスと最も仲が良いグリフィンドールの友人、ジェームズ・ポッターです!スリーク・イージーの直毛薬を発明したフリーモント・ポッターのひとり息子です!」
「お、おい!なんだよその写真!」
「それは、クリスマスプレゼントの…!?」
ガタンと立ち上がったシリウスをどうどうと宥めて座らせる。そう、これはクリスマスプレゼントにレギュラス宛に送られてきた写真(の複製)だ。シリウス成長録の大切な1枚をどうして持っていたかというと、帰る時に写真立てから写真だけ取り出しポケットにつっこんだままだったのだ。ズボラで良かった!いや、良くないけど。
「確かにシリウスはスリザリンではなくグリフィンドールに入りました。ただ、私は寮ではなく個人が何を成したかが大切だと思っています!今年のテストのシリウスの順位をご存知でしょうか?2位です、学年2位!首席はポッターでしたがその首席と親友なんです、シリウスは!きちんとシリウスは付き合う人間を選べています。誇り高きブラック家の血筋に恥じない行動をしているのです!だから、どうか、シリウスを退学にしないで下さい!」
お願いします、と食卓に手をつけ頭を下げる。4人分の視線が私の頭の先に注がれているのを感じ、更に頭を下げた。どうだ、私の名演説は。因みに私の順位はド平均である。恥ずかしくてシリウスに足向けて寝られない。まあそんな事はどうでも良い。欠席せず元気に授業に出たんだから及第点だ。だって小学生だもん!
さあ、先手は打ったぞ、とシリウスに視線を向ける。お姉さんは可愛い弟の為なら例え火の中水の中家族団欒の中にも突っ込んでいけるのさ。
「…リーザ、顔を上げなさい」
オリオンさんに言われ顔を上げると、彼は困ったように眉を下げ微笑んだ。そしてすぐにシリウスを睨みつけた。
「シリウス、学年2位だったのか」
「……だからなんだよ」
「来年は首席を取りなさい。取れなければお前をホグワーツから退学させる」
「チッ…!!」
「ええっ、そんなぁ!!」
わざとらしく声を上げる。子供というのは時に武器になる事を私はよく知っているんだ。主演女優賞待ったナシの演技力を見せつけるべく、私は瞳を潤ませて台をバンした。
「学年2位ですよ!2位!確かに首席ではありませんがそれでもすごい事なんですよ!!シリウスは優秀なんです!!すごいんです!!少しは褒めてあげて下さいよぉ……」
感情が高ぶり最後は涙声になってしまった。私は今とても怒っている。親なら「よくやった、頑張ったな」と労ってあげるべきなんだ。どうして褒めずに首席を取れなんて言うんだ。それで首席を取ってみろ、こういう奴に限って「ふん、当たり前だ」などと言うのだ。テンプレか。テンプレート毒親か。残念だが私の暴走を止められる親はここにはいない。私をはしたないと窘める存在はいない。故に暴走できる。私はスリザリンだからな!
しくしく、と手で顔を覆い泣き真似をするとオリオンさんは少し考えるような表情をした後、小さな声で「よくやったな、シリウス。次も頑張るんだぞ」と言った。なんだ、やればできるじゃん。
「は…?」
「良かったねシリウス!!オリオンさんが褒めてくれたよ!!」
「え、いまなんて」
「ほら、料理が冷めてしまうわ。早く食べましょう」
「ああ、ああ、そうだな。早く食べよう。リーザ、苦手なものはあるかな?」
「大丈夫です!なんでも好きです!レギュラス、私が取り分けてあげるよ」
「そんな、いいです自分でできます!」
「いーのいーの!」
陰鬱とした雰囲気から一気に明るく温かい雰囲気に変わる。ああ、良かった。ヴァルブルガさんが上手く話を変えてくれたお陰でようやくクリーチャー特製の料理達に手を伸ばす事ができそうだ。るんるんとレギュラスの皿にバランスよく料理を盛り付ける。ふとヴァルブルガさんと目が合うとパチッと完璧なウインクを送ってくれた。あれ、この人こんなにお茶目さんだったっけ。まあ良いや、とレギュラスに皿を渡す。未だ目を白黒とさせるシリウスの肩を叩いて「良かったじゃん」と下手くそなウインクを送ると、シリウスは「う、うるせえ!」と顔を真っ赤に染めて私の背中をバンと叩き返してきた。
食事中はずっとヴァルブルガさんから質問攻めにあって大変だった。シリウスが全く連絡を送らなかったせいで様子が分からず心配だったらしい。カッとなって吠えメールを送ってしまった事をずっと後悔していたのだと聞かされた時にはとても驚いた。私の中のヴァルブルガ・ブラック像がまたひとつ良い方向に崩れた気がする。
私の介入によって、何かが変わろうとしているのだろうか。
それが良い事なのか悪い事なのか分からないけれど、少なくとも今は良い方向に向かっている気がする。ブラック家が少しでも弟達にとって過ごしやすい場所になってくれたら嬉しい。まるで普通の温かい家族の様に和やかな雰囲気の中、私は私とシリウスがホグワーツでどんな生活を送っていたかを喋り続けた。
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