「アリス・シークマン!!居るのは分かってます!!急いで出てきなさい!!」


バンッと音を立ててマクゴナガル先生が図書館に入ってきた。あのマクゴナガル先生が音を立てて扉を開けるなんて珍しいな。と思っていたら、大声で誰かの名前を呼んだ。その声を聞いた生徒達が「アリス・シークマンは何をやらかしたんだ?」と騒ぎ出す。静かだった図書館の中は一気に喧騒に包まれた。

アリス・シークマン?
聞いた事の無い名前に首を傾げる。マクゴナガル先生が図書館で大声を上げる程の問題児、ホグワーツに居たっけ。……まあ良いや、僕の仲間だってほとんど皆問題児だ。それよりOWLの為に勉強しないと。思考を切り替えて目の前の教科書を読む。


「ねえ君、そこスペル間違えてる」


「えっ」と顔を上げると、僕の隣にいつの間にか女の子が立っていた。ピンクブロンドの髪に金色の瞳と、レイブンクロー生である事を示す青色のネクタイにローブ。その姿が妙にちぐはぐに思えて、相手をまじまじと見つめてしまう。


「どうした?」

「えっ?あ、本当だ。ありがとう」


慌てて単語をペンでグリグリと潰し、お礼を言う。するとその女の子は僕の胸元をじーっと見つめた。


「それ、監督生のやつ?」

「あ、うん。まあ、まぐれみたいなやつだよ。僕より凄い人なんて沢山居るのに」

「そう?」

「そうだよ」

「ふーん」


再び僕は教科書に目を落とし、重要そうな場所を羊皮紙に纏める。その様子を、女の子は僕の側に立ったまま見ていた。3か所程纏め終わった時、パッと目の前が暗くなる。不審に思って顔を上げると、そこには眉間に皺を寄せたマクゴナガル先生が立っていた。


「ここに隠れていたんですね、Ms.シークマン」

「あ〜らら、見つかっちゃった」


まさか、隣で呑気に欠伸を噛み殺しているこの女の子がアリス・シークマン!?
レイブンクロー生でマクゴナガル先生をここまで怒らせるなんて、一体何をしたんだ。目を大きく開きシークマンを凝視する。シークマンはマクゴナガル先生のお説教を何処吹く風と聞き流していた。


「全く!6年生にもなって授業に出ないなんて何を考えているんですか!来年卒業出来なくなりますよ!?」

「別に、テストは良い点数取ってるから良いじゃないですか。私は図書館に篭って先人達の知恵を学びたいんです」

「とにかく、次の変身学には出てもらいますよ!」

「ええ〜面倒臭い」


マクゴナガル先生の方から「ブチッ」と血管が切れるような音がした。次の瞬間「モビリコーパス!」とマクゴナガル先生の杖から呪文が放たれ、シークマンはふわふわ宙に浮かんだ。


「監督生くん監督生くん、今マクゴナガル先生が使った呪文は何でしょう」


いきなりシークマンに話しかけられてギョッとしてしまう。マクゴナガル先生からの視線が痛い。シークマンは宙に浮かんでいるのにも関わらず、余裕綽々といった表情でこちらを見ていた。


「モビリコーパス、他人の体を動かせる呪文かと」

「うーん、5点。さっきマクゴナガル先生呪文唱えてたしね。これは更に浮遊呪文も加えられてるよ。前に歩かせたら私が逃げたから、強化したんだねぇ。残念でした!もっと良くお勉強するように」


「じゃあね〜」と言いながらシークマンは杖を一振りして浮いていた身体を地面に下ろし、そのままどこかに逃走してしまった。

「待ちなさいアリス・シークマン!!!」


慌ててマクゴナガル先生が後を追う。残されたのは僕ひとり。…他の生徒からの視線が痛い。荷物を纏めてさっさと部屋に戻ろう。


もう2度と嵐のような先輩、アリス・シークマンに会いませんように。と願いながら。



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