今日も仲間達と別れた足で図書館へ向かう。OWLまであと3ヶ月しかないのだ。いくら勉強しても足りないと思うくらい、僕は焦っていた。

人狼を雇ってくれる所などほとんど無い。

だからこそ、OWLで良い点数を取って少しでも多く未来の選択肢を増やしておきたかった。


「あっ」


禁書の棚近くの窓際、その端っこの席。日当たりが良く勉強するのに最適で、あまり他人も近寄って来ない場所。僕のお気に入りの席には、既に別の生徒が座っていた。この学校では珍しいピンクブロンドの髪と、青色が見えるローブ。…アリス・シークマンだった。


「ああ、昨日の監督生くん。えっと…君、名前は?」

「リーマス・ルーピン」

「ん、リーマスね。私はアリス・シークマン。アリスで良いよ」


読んでいた本から顔を上げ、僕の方を見て目を細めるアリス。満月みたいに輝く金色の瞳が三日月に形を変える。その変化に僕はぶるり、と身体を震わせた。…満月は嫌いなんだ。目を逸らしてなるべくアリスの瞳を見ないようにする。
アリスは少し考えるような仕草をした後、隣の席をぽんぽんと叩いて微笑んだ。座れ、という事なのだろう。あまり関わりたくない相手だが、先輩相手に理由も無く断るのは失礼だろう。お邪魔します、と隣の椅子に腰掛けた。





「アリスは昨日どうしてマクゴナガル先生に追いかけられていたの?」

「授業に出てないからさ。図書館の本を読んでいる方がずっと面白い」

「そうなんだ」


参考書を開き勉強しながら、アリスとポツポツと会話を交わす。分からない所は聞けばアリスが丁寧に解説してくれた。たまに挟まれる雑学も面白い。さすがはレイブンクロー生、と舌を巻く。そんなアリスは、大小様々な大きさの、長い年季を感じる本からつい最近発売されたような本の山に囲まれて居た。


「何を読んでいるの?」

「魔法生物とアニメーガスの特徴について」


アニメーガス、と聞いて頬が引き攣ってしまった。最近牡鹿、黒犬、鼠に変身できるようになった彼らを思い出す。


「アニメーガスを目指しているの?」

「ん?いや、別に目指している訳じゃない。登録するの面倒臭いし」


アニメーガスになる為の時間があるなら図書館の本を読む為に使う、と真顔で言い切ったアリス。あまりに真面目なトーンで言うものだから、うっかり声を上げて笑ってしまった。「シッ!」とアリスの手で口を塞がれる。


「マダム・ピンスに見つかったらどうしてくれるんだ!出禁にされてしまう!」


「静かに出来るね?」と優しい声で尋ねられた。コク、と首を縦に振ると、「良い子だ」と頭を撫でられた。子供扱いしないでくれよ、とムッとしてしまう。アリスはニコッと微笑んだ後、また本の世界に戻ってしまった。

案外時間が経つのは早いもので。あっという間に夕食の時間になってしまった。お腹がぐるぐると空腹を訴えている。そろそろ戻ろうかな、と席を立った。


「アリス、勉強教えてくれてありがとう。もう行くよ」

「ん?もう夕食の時間か」


パタンと本を閉じたアリスは、うーんと伸びをした後体を捻ってこちらを見た。金色の瞳が三日月に形を変える。


「楽しかった?」

「っ…」


言葉が詰まってしまう。最初はあまり関わりたくないと感じていたのに、数時間アリスと話しただけで「もっと話したい」と思うようになっていたのだ。その事を彼女は見抜いていたのか。悪戯っ子みたいな笑みを浮かべて席を立った彼女は、ぽんぽんと僕の頭を撫で、「じゃあね〜」と手をヒラヒラさせて帰ってしまった。




シフォンの優柔

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