「ねえマリー、11月11日って何の日か知ってる?」


学校の先生から何か聞いてきたのだろうか、帰ってくるなり玄関口でクイズが始まった。11月11日、何だろうか。顎に手を当ててうんうん唸ってみる。魔法界に居た時は特別面白い事があるような日じゃ無かったからなぁ。杖の日?いやハリーは知らないはずだ。何だろう。


「うーん、分かんないなぁ。答えは?」

「鮭の日!!」


どうも圭が漢字の十一に見える事から鮭の日になったそうだ。ハリーの豆知識をふんふん聞いていると、ふと頭の中にとある案が浮かんだ。


「そうだハリー、今晩は焼き鮭にしようか」

「やった!!僕焼き鮭大好き!」


留守番よろしくね、と財布を片手に家を飛び出し、村の小さな商店街へと向かう。八百屋を過ぎて揚げ物屋を過ぎて魚屋の前で止まる。店内に足を踏み入れると、早速お目当ての物が私を出迎えてくれた。


「すみません、生鮭ふた切れ下さい」

「おっ、マリーちゃん今日は焼き鮭かい?」

「そうなんです、今日は鮭の日らしいので」


魚屋のおじさんは「そうかいそうかい。うちの鮭は美味いぞ!」と言うと豪快にガハハと笑った。手渡された袋を受け取り帰ろうとすると、次の客も鮭を買っているのが見えた。やはり鮭の日だからだろうか。少し気になったが、ハリーが首を長くして待っていると思うといてもたってもいられなくなってしまい急いで戻る事にした。

段々親バカ度が上昇している?気の所為、多分ね。





さて、美味しい焼き鮭を作るにはどうすれば良いだろうか。答えは簡単、臭みを取れば良い。
パックから取り出した生鮭をさっと流水で洗い、少量の塩を擦り込む。


「ハリー、牛乳取ってー」

「はーい!」


子供用エプロンを着けたハリーから牛乳パックを受け取ると、私はそれを生鮭に少しずつかけた。


「えっ、牛乳かけちゃうの?」

「こうすると臭みが取れるらしいのよ」


しばらく待った後染み出た臭汁を流しに捨て、フライパンに火をつけた。


「じゃあハリー、鮭を投入してくださいな」

「分かった!」


じゅううう…と良い音を立て魚が焼ける匂いがキッチンに立ち込める。うーん、良い香り。ハリーと同時にぐうとお腹を鳴らしてしまい、2人で顔を見合わせて笑った。

じっくりと両面が桜色になるくらいまで焼く。少し風味付けに食用酒と醤油をかけ、バターを表面に薄く伸ばす。蓋をして蒸すか…と考えるとピロリロピロリロと炊飯器が鳴ったので、ご飯はハリーに任せて副菜と味噌汁を作る事にした。


「マリーは何をするの?」

「ほうれん草のおひたしとネギと豆腐の味噌汁を作るよ」

「やった!!ネギの味噌汁大好き!!」


ネギネギと小躍りしながらお椀にお米を盛りつけるハリー。ああ心が癒される。写真に収めたいくらい可愛い。
ハリーを見て癒されながらも手は素早く包丁を動かしほうれん草を刻んでいく。日本食はヘルシーで美味しいし健康に良いのが嬉しいのよねぇ、なんて考えながら豆腐を切ると乾燥ワカメと共に鍋に入れた。





「いただきます!!」

「いただきます」


早速箸を鮭に伸ばすハリーに「骨には気をつけてね」と注意しながら、自分もふっくらと焼けた鮭の身をほぐす。ボロボロになってこぼれないよう注意を払いながら慎重に身を口に運んだ。


「お、美味しい〜!!はぁ、幸せ…」

「美味しーーい!!」


思わずため息が漏れてしまうほどの美味しさ。程よい塩味が白米によく合う。続いてネギの味噌汁を口に含む。こちらもネギがちょっとしたアクセントになっていて美味しかった。


「おひたしも美味しいよ!」

「良かった良かった。たくさんあるからたーんとお食べ」

「食欲の秋だねー」

「おっハリー、それも学校で習ったの?」

「そうだよ!今日の国語でね…」


ハリーの話を聞きながらゆっくりとご飯を味わう。
食欲の秋、読書の秋、紅葉の秋…秋は楽しい事はいっぱいだ。
今度紅葉狩りにでも行こうか、とハリーに提案すると、ハリーはご飯を頬いっぱいに詰め込みながら「うん!」と元気よく頷いた。

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