説明しよう!顔、上の下(そこそこモテる)、頭、上の下顔(そこそこ上位)、運動神経、上の下(サッカー部一軍だけどスタメンでは無い)といった嬉しいような嬉しくないようなスペックを持つ至って普通の男子高校生だった『俺』は、部活を終えた帰り道に坂道で自転車のブレーキが効かなくなり、そのまま勢いよく車にドーンと派手にぶつかって、ついでに派手に色々ぶちまけて短き人生に幕を下ろしたのであーる。
せっかく出来た彼女(仮称:ユミちゃん)とはまだキスも済ませてなかった。ああ、もっと色々あんな事やこんな事、男の子の憧れるアレやソレをしたかったのに!

そんな『俺』を神は可哀想に思ったのか、記憶を持ったままの強くてニューゲーム状態で『俺』に第2の人生を歩まさせてくれた。

…イギリス人の女の子として。

そりゃ無いよ神様!と何回心の中で叫んだのか分からない。何が悲しくて女の子に生まれ変わらなきゃいけないんだよ!しかも男の記憶を持ったままで?『俺』を転生させた奴は神様なんかじゃない、悪魔だ。悪魔に違いない。女の子の身体を手に入れて慌てふためく『俺』の姿を何処か快適な空間でポテチ片手に爆笑してるのだろう。あ、想像したらすげームカついた。

まあ、それは良い。良くないけど!今の俺は日本人の上の下男子高校生では無くイギリス人の上の下女子小学生マリア・ハーレイ。生まれ変わっても俺は顔、上の下。頭、上の下。運動神経、上の下。な少し男勝りの元気いっぱいな女の子として生きていた。

常に半袖短パン、休み時間は男子に混ざって外を駆け回り、虫を捕まえ、木に登り、戦闘ごっこをする。悪ガキ集団の紅一点ってポジションは悪くなかったし、女子に混ざっておままごとをするくらいなら男子に混ざっていた方が楽だった。

あ、なんか第2の人生も楽しいかもしれない。

そう思い始めた11歳のある日。俺の元に一通の手紙が届いた。


『ホグワーツ魔法魔術学校
校長 アルバス・ダンブルドア
マーリン勲章、勲一等、大魔法使い、魔法戦士隊長、
最上級独立魔法使い、国際魔法使い連盟会員

親愛なるハーレイ殿

このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。
新学期は9月1日に始まります。7月31日必着でふくろう便にてのお返事をお待ちしております。

敬具

副校長 ミネルバ・マクゴナガル』


これ、なーんだ?と親に見せられた時は驚き過ぎて心臓が飛び出るかと思った。この名前、有名なハリー・ポッターの登場人物じゃん。小さい時は金ローで観てたし、エミちゃんが好きで一緒に映画を見に行った事もあった。なんだっけ、なんちゃらかんちゃらPart2とやらで俺は全然話が分からなかったけど。まあそれは置いといて、何となく主要メンバーの名前は知っていた。ダンブルドア校長にマクゴナガル先生。髭もじゃのお爺さんといかにも魔女って帽子をかぶったお婆さん。俺、ハリー・ポッターの世界に来たんだ…!俺は嬉しさのあまり三日三晩高熱に魘された。熱が下がった後も手紙は俺の机の上に置いてあった。…夢じゃなかった。

てかなんで俺の両親は驚かねえんだよ、と思って聞いたらどうやら父さんは魔法使いだったみたいで。母さんは魔法を使えない、マグルと呼ばれる種族なんだそうだ。
俺には魔法の才能が無いと思って、まさかホグワーツから手紙が届くとは微塵も思わなかったらしい。手紙が届いた時には涙を流して自分の事のように喜んでくれた。


「俺、魔法使いなんだろ?ホグワーツに行きたい!」

「マリア、君は魔法使いじゃなくて魔女だ。言葉遣いを丁寧にするって約束してくれたら許可しよう」

「わたくし行きたいですわ!」

「分かった、許可しよう。じゃあ明日ダイアゴン横丁へ行こうか」

「よっしゃ!ありがと父さん!」

「マリア!!!」


とりあえずホグワーツに入学するまでは綺麗な言葉遣いをしようと決心し、これから起こるワクワクドキドキな冒険譚に思いを馳せながら自室に駆け戻りフカフカのベッドに飛び乗った俺は、まだ気づいてなかった。

ハリー・ポッターはまだ産まれてないという事に。
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