「体に気をつけてね、女の子のお友達たくさん作るのよ!」「余計なお世話だ!」と赤色の特急の前で涙ながらに両親と別れたのはほんの数十分前。俺だってまだ産まれて11歳の女の子なのだ。3ヶ月以上も両親と離れて暮らすのは寂しく、少しだけ泣いてしまった。
そして現在。ガタンゴトンと音を立てながら進むホグワーツ特急のコンパートメントの中で、俺は運命的な出会いをした。
「私、リリー・エバンズ。よろしくね!彼はセブルス・スネイプよ!ほら、セブ挨拶しなきゃ」
「…よろしく」
「おっ、俺マリア・ハーレイ!よろしくな!」
サラサラとした赤髪ロングヘアーの快活そうな少女と、ねっとりと頭に張り付く黒髪の陰湿そうな少年が俺の向かい側に座っている。俺がひとり寂しくコンパートメントで教科書を読んでいる時に入ってきた2人を見ても特に何も思わなかったが、名前を聞いて驚いた。セブルス・スネイプってあのスネイプ先生じゃないか!正直名前は覚えていないが、セブルス・スネイプの真っ黒な姿は映画に出てくるスネイプ先生のミニチュア版だ。…なんてこった。俺はハリーの産まれる数十年前の世界に来ちゃったのか。と頭を抱える。
「大丈夫?具合悪いの?」
「ああ、いや、何でもない。心配しないでエバンズ」
「あら!リリーで良いわよ!私も貴女の事マリアって呼んで良いかしら?」
「えっ!?あ、おう」
「ありがとう!嬉しい!」
パァァ、と眩しい笑顔をエバ…リリーから向けられて思わず目を瞑ってしまう。上の下女の俺とは違う、上の上、ウルトラスーパー美人といっても過言では無いリリーの笑った顔はとても可愛らしかった。俺が男なら間違い無く惚れてた。ちょっとドキドキした。
「せっかくだからセブも名前で呼びましょうよ!ホグワーツ最初の友達記念に!」
「僕は別に。リリーが居ればそれで良い」
「あら!これから7年間も私だけと過ごすつもりなの!?そんなの勿体無いわ!ねっ、マリアもそう思うでしょう?」
「おっ、おう」
なんだよこいつらイチャイチャしやがって、と思っていた時にいきなり話しかけられた俺は、反射的に返事をしてしまった。その事がマズかったのか、スネイプ先生にギロリと睨みつけられた。なんだよ!女子に向けて良い視線じゃねえぞ!!中身男だからへこたれないけど。
リリーに何度も何度も説得されたスネイプは、渋々といった様子で「マリア」と俺の名前を呼んだ。おお、スネイプ先生が俺の事を…!さっきまでの不満は窓の外にポイして、俺はニッコリと満面の笑みを浮かべる。「よろしくなセブルス!」とセブルスの手を取ってブンブン振り回した。それを見てリリーは「まあ良かった!」と微笑んだ。リリーの笑顔を見てフッと微笑むセブルスの表情の変化を見て俺は瞬時に悟る。「こいつ、リリーの事が好きなんだ」と。
車内販売のおばちゃんから「蛙チョコレート」や「百味ビーンズ」、「フィフィ フィズビー」といった魔法界のお菓子とやらをいくつか購入した俺達は、きゃあきゃあ子供らしく(俺とリリーだけ)不思議な体験を楽しんだ。蛙チョコレートは開けた瞬間俺の顔にべっとり張り付いたから無理矢理引き剥がして口の中で砕いてやった。百味ビーンズはリリーがチェリー味、セブルスが石けん味、俺が耳くそ味だった。耳くそなんか前世の時から食べた事は無いが、本能が「これは耳くその味だ」と言っていたから耳くそ味なんだろう。人間が食べる味では無かった、とだけ言っておく。フィフィ フィズビーは口に入れたらパチパチ何かが弾けるクランチチョコで、食べたら少しだけ身体が浮いて驚いた。
魔法界のお菓子ってすげー!とはしゃいでいたらセブルスに馬鹿にされた。リリーとの対応の差が激しくて泣きそうだ。泣かないけどな!
お菓子を楽しんだ後は寮の話になった。ホグワーツはグリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリンの4つの寮に分かれて生活するらしい。
「寮ってどうやって決めるんだ?」
「さあ…テストを行うとか?」
「組み分け帽子という名前の帽子が決めるらしい」
「へえー!セブルスは物知りだな!2人はどこの寮になりたいとか希望はあんのか?」
「僕はスリザリンだ。リリー、君もスリザリンに入るべきだ。…マリアは無理だと思うがな」
「扱いが酷い!」
「えっスリザリンだって!?」
ガラッと勢いよく扉が開かれ、コンパートメントの中にズカズカと2人の少年が入って来た。なんだこいつら、と顔を顰めるが、先に入ってきた方の眼鏡のくしゃくしゃ髪の少年はこちらには目もくれず、リリーの正面に立った。
「君、スリザリンに入ると言ったのかい!?止めといた方が良い!あそこは闇の魔法使いの温床さ!僕だったら退学するね!そうだろう?シリウス」
「ああ、俺も何かの間違いでスリザリンに選ばれたら退学するさ、ジェームズ」
「私じゃないわ、言ったのはセブよ。ねえセブ、スリザリンってこの人達の言った通りの場所なら止めるべきよ」
「そんな事無い!!こいつらの言ってる事はデタラメだ!」
空気を読み椅子の隅で縮こまる俺。だって映画のスネイプ先生って見た目闇の魔法使いだし、ここで言い争ってもスリザリンに入る気がする。というかいきなりしゃしゃり出てきた奴にスリザリンは悪だのどうたらこうたら言われても困る。俺は争う4人から視線を外して外の景色を楽しむ事にした。のどかな田園を見ても緑だなぁ、と思う事しかできないが、まあ争いに参加するよりはマシだろう。
「貴女達いきなり入ってきて失礼よ!出てってちょうだい!さあ!」
「分かった、分かった!…君可愛いね、僕ちょっと気の強い女の子が好きなんだ」
「早く!」
「行こうぜジェームズ」
「はーい。また会おうね!」
うるさい2人が出ていき、やっとコンパートメント内に静寂が訪れる。なんだったんだあいつら。組み分け帽子にはあいつらと別の寮にしてくれと頼む事にしよう。
「なんて失礼な奴らなんだ」
「二度と関わりたく無いわ!」
まだ憤るセブルスとリリーをまあまあとお菓子を差し出して宥めながら、俺は入るならハリーと同じグリフィンドールかなぁ、とぼんやり考えていた。
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