携帯のロック画面を確認しても、母親に日付を確認しても、ネットでSNSを開いても、授業のノートを見ても、どうやっても日付はアイクが告白する1週間前になっていた。

ありえない。こんなこと。

あまりにも現実離れしたこの現象に、夢でないかと頬をつねってみたけれど、やはり現実だった。
つまり、時間が巻き戻ったことが現実なら、あと一週間前にはまたあのイベントが待ち受けている訳で。
思い出しては、鋭利なナイフで心が抉られるようにズキリと胸が痛む。
ああ、どうしよう。もう2度あんな溺れるような息苦しさは味わいたくないのに、神も仏もいない世界で、助けて欲しいなんて祈ってしまったから、タチの悪い気まぐれな魔女にでも運悪く助けられてしまったのかもしれない。
そうか、だからあの時、声もいや、息さえもすることができなくなってしまったのだろう。

「(どうすればいいのよ…)」

確かに未来を知っていれば、私が転校生に告白をされる前に告白をアイクにすれば、何かが変わるかもしれない。
けど、振られてしまった挙句、転校生とも付き合ってしまって時が巻き戻らなかったら…?
私の残りの高校生活は灰色に染まってしまう気がする。

でも、このままじゃ転校生にアイクが告白してしまう。
勇気のない私は、どうすることもできなくて、声を失った人魚姫のように、ただただ王子がほかの女と結ばれるその時まで、いたずらに時が過ぎていくのを我慢しなくてはいけないのか。

モヤモヤした面持ちのまま、上靴に履き替えて教室へ向かう。

巻き戻る前は遅刻をしてしまったが、それを回避して教室に到着すると、転校生がアイクと仲睦まじく(一方的のようにも見えるが)話していた。

胸がざわつく。ビシリと足がすこし傷んだ。

あ、アイク、笑った。
ちょっと子どもっぽく笑うあんな顔なかなか見せないのに、私だけが知ってた顔なのに。
こうやって私の知らないところでアイクはどんどん私から遠ざかってたんだ。

それで、それで…。

「(私は……)」

HRの開始のチャイムがなって、急いで席につく。
いや、いいんだ、これで。
美男美女でいいカップルになると思うし、アイクもなんだか私といる時よりずっと楽しそうにしてる気がするし。
あの時の告白は日直ノートの提出を早々に済ませて帰れば聞かずに済むし。
ほら、やっぱり人生に諦めが肝心な時ってあるから、ここは一歩大人になったと思って…。

「…ちゃん…名前ちゃん!」
「は、はい!」

どうやら周りの声も入ってこない程考え込んでいたらしい。移動教室で大体の人がいなくなっていた。
当然、幼馴染のあいつもだ。

「大丈夫?次体育だから早く行かないと」
「あ、うん」

そう言えばこの日もちょっと嫌なことあったなぁなんて思い出しながら急いで移動を始めた。

確か、何故か今日は男女混合でダンスの授業があって、くじ引きで決まったペアで踊るはずだったんだけど、転校生がアイクと当たった子と交渉して、男子のペアを交換したんだよなぁ…。
逆にそこまでアイクに拘るのが尊敬できる。
あんな男のどこがいいんだろ。
デリカシーの欠片もないし、無愛想だし、無口だし、話してて面白くもないし、決まり事にうるさいし、鈍感だし…。
でも、凄く人のことを分かってあげようとしてくれるし、差別することなく平等に接してくれる優しさもあるし、困った時にはきちんと助けてくれるし、必用ない嘘は言わない。

あと、誰よりも、私を理解して…。

「はいじゃぁ、くじ引きしてけよ〜」

気づけば先生がくじ引きの箱を用意して、立ち上がっていた。
…待てよ。確かアイクが当たった子がくじ引きで引いた順番って確か最後から2番目だった筈。

チートの様で少し気が引けるが、これは、チャンスなんじゃないか?
最後から2番目なら確率は2分の1。
アイクとペアになれるかも…。

私はわざとゆっくりと立ち上がって、最後から2番目をわざと並んだ。
ははは、何が転校生とアイクが付き合っても良いだ。
こんなことするなんて、そんなこと微塵も思ってないじゃないか。

自分の本心が抑えきれなかったことを嘲笑しながら、くじを引く。


アイクの番号は19だから、それが出れば…!

私はバクバクと高鳴る鼓動を静かに整えながら、そろりと手を箱から出した。