やさしい獣の夜の事情(拍手お礼文)


※がっつり下ネタ注意


「お前ってさ」

 それは昼休み、仗助と億泰がいつものように昼食をとったあと、授業までの数分を紙パックの飲み物を飲んでいたひとときの話である。徐に声をかけたのは億泰だった。二人は彼らを並べると小さく見える勉強机を挟んで座っていた。

「百々子で抜いたりすんの?」
「ブッフォオーッゲホ」

 ガハッゴホッとさらに何度かえげつない咳を繰り返したのは、唐突な億泰の質問のせいで間違いない。仗助は血走った目で溢れそうになった涎を拭いながら、平然と「大丈夫かァ?」と尋ねる億泰を見た。

「テメ、そりゃどういう…」
「だァから、俺ら男だよォ?やっぱ生理現象ってモンがあるだろォ?で、やっぱ一人で慰めるにしても、オカズが必要なわけだろォ?」
「いやいやいや、それは分かってンだよ」


 億泰の言いたいことの意味はわかっている。健全な男、それも育ち盛りの高校男子ともなればそれなりに性欲だって備わっている。だが論点はそこではない。この目の前の虹村億泰は、親友の東方仗助が自分の妹のことを好きなのだとつい最近知ったばかりだ。親友が自分の妹に好意を寄せるなんて、兄としては複雑なものではないのだろうか。仗助だったら多分複雑な気持ちになる。しかし億泰はあろうことか、男のそういう事情に妹を絡ませてきたのだ。

「いや、まあ…抜かねえ、っつったら、嘘にはなるけどよ…」

 何故自分の性事情を話さねばならないのだ、という思いから仗助の声は小さくなっていく。彼のそんな言葉を億泰は「へえ」と興味津々な様子で聞いていた。

「お前こんなの聞いて嫌な気持ちになんねえのかよ」
「……なんだろうな、この気持ち」
「知らねえよ」

 億泰の意味不明な言動に仗助は残っていたパックのジュースを全て飲み干す。

「仗助ェ」
「なんだよ」
「あいつ彼氏いたことねえのよ」
「…へえ」
「なんだよ、もっと驚けよ」
「いやうれしいよ?!今まで誰のものにもなってねえんだ、とは思うけどよ?兄貴のお前の前だとどんな顔すりゃいいか分かんねぇんだよ」

 そう言ってそっぽを向くと、億泰が笑ったらしい。独特の掠れた声が仗助の右の耳に入ってくる。

「彼氏いたことはねぇけど、めちゃくちゃ声かけられるんだよな」
「まあそりゃ、かわいいもんな、普通に」
「そうだろ?俺の妹、かわいいんだよ」
「いやこれ何の話だよ」

♢♢♢

 その日の夜のことである。食事も済ませ、ゲームを終わり、風呂も入った。その日のやらなければならないことが全て終わって、あとは寝るだけのこの貴重な時間。雑誌を見ながら瞼が落ちるのを待つこの時間に、仗助はふと今日の億泰との話を思い出してしまう。多分、見ていた雑誌に百々子に似た小柄なモデルが載っていたからだろう。

『あいつ彼氏いたことねえのよ』
『百々子で抜いたりすんの?』

 その小柄なモデルから百々子を連想し、昼間の下世話な話を思い出してしまった。そうすると仗助はいつも夜な夜な慰めるときの、妄想の中での百々子を思い出してしまう。

「〜〜〜ア"ァッ」

 あまりにも自分の気持ちに正直な下半身に仗助は頭を抱える。既にご自慢のリーゼントはとっぱらってしまっているので、存分に頭をガシガシと触った。

 この行為に及ぶことにもはや抵抗などはない。ただ百々子を好きになってから、ずっと一人でするときは妄想の中で彼女をめちゃくちゃにしてしまっているので、達した後の倦怠感に罪悪感が加わっている。毎度申し訳なく思いながらも、でも妄想の中の彼女がとんでもなく可愛くて仕方がないので、仗助はやめる術を見失ってしまった。最近では百々子がかわいいのが悪い、という結論に至るくらいである。

 欲を解き放し、ベッドに背中から倒れ込む。マットレスがぎしりと軋み、ほんの少しだけずらしたズボンから出る肌が布団と接して気持ちの良い背徳感を得る。

「かわいすぎんだよ…」

 言い放たれたのは妄想の中の彼女に捧げられた仗助からの最上級の褒め言葉であった。

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