真っ白なタオルをベールに見立て、幼い少女の頭を覆う。そっくりな少年と少女は向かい合い、その小さな左手に、おもちゃの指輪を交換する。

「おれ、あかばねカルマは、すこやかなるときも、やめるときも、とめるときも、まずしいときも、リーちゃんといっしょにいることをちかいます」

「わたし、あかばねリンネも、すこやかなるときも、やめるときも、とめるときも、まずしいときも、カー君といっしょにいることをちかいます」

 子供らしい結婚ごっこ。所詮ごっこでしかない事は、少女が1番良くわかっていた。それでもいいと、双子の弟と唇を合わせた。

 間違いを間違いとわかっていながら進むのは、子供の特権であると笑いながら。






 少女が背筋を真っ直ぐにして進む。赤い髪が揺れるのを周りの生徒が見つめる。あまりにも堂々とした出で立ちに、皆が彼女が自分たちとは違う存在だという事を忘れて見惚れる。

 赤羽輪廻。彼女は椚ヶ丘中学校の落ちこぼれ学級、3年E組の生徒である。進学校であるこの椚ヶ丘中学校で、ハイレベルな勉強についてこれなかった者、素行不良や校則違反の問題児、それら脱落者が集められた、通称「エンドのE組」隔離校舎での勉強を強要され、あらゆる点で他のクラスと差別される。通常、E組の生徒はその肩書きにあった暗い顔をしているもの。他のクラスの生徒はそう思い込んでいた為、彼女を立ち振る舞いは異様に見えた。

 E組に通じる山に入る道に進んだ事で、周りはリンネがE組だとはっと気付く。同学年で彼女の名前を知らない者はいないと言われる程には少女は有名だった。
 あの理事長の息子、浅野学秀を抜いて学年1位を取った事のある成績優秀者が、エンドのE組に落ちたと言うのだから。

 リンネはそんな他人の目なんて気にも止めず、古い木造校舎のE組を目指す。3年に進学して初めての授業。授業は退屈でも、雪村あぐりと名乗ったあの教師は面白かったと、少女は春休みまでの自習の日々を脳裏に振り返した。

「あの人はいい大人、カルマちゃんも気に入ってる」

 思わずこぼれた呟きは、今は停学中の少女の双子の弟、赤羽業を思った物。だが、カルマは停学をくらった事件からリンネを避けているらしく、弟を溺愛する姉の目は不安と心配で揺れていた。現に、カルマは雪村あぐりとは会うがリンネとは会ってくれない。
 リンネのスマホが着信を伝える。曲で誰からかわかるように変更された着信音に、リンネは迷わず電話を取る。

「……戻らないのかい?」

 簡潔に、一言だけの言葉。それだけでリンネには通じていた。だから少女は強い意志を込めて一言で返す。

「戻らないよ」

 追求を避けて通話を切る。少女は他人からの評価よりも弟が大事なのだ。あの約束の日からずっと、姉は弟に、本人曰く間違った恋を続けているのだから。


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2019/07/02投稿
07/02更新