XXヶ月後
槙島の事件が終息し、狡噛が国外逃亡を果たして随分経った。縢という精神安定剤のお蔭か何だかんだでララは今も監視官を続けられている。征陸もまだまだ現役で活躍し、宜野座ともそれなりに距離が縮まったようだったし、ララも縢を橋渡しに征陸や六合塚との交流を持つことができた。とにかく元の世界に帰ることなんてのはそっちのけの毎日だった。槙島の事件の終息とは即ちアニメ一期が終わったということであり、そこから先はララが知らない生活が待っているということだった。これまでのように先を知っているが故の捜査はできなくなったのだ。縢のフォローはあったが、改めて自分の凡人さを確認する日々になった。そんな状況でも元の世界に戻ろうと思わなかったのは今日のため。この日が来るのか否かを確認しなければならなかったからだった。
三係の監視官にあの霜月が配属されたと聞いたのは記憶に新しいが、今日は一係にも新しい執行官が配属される。資料はすでに受け取っているのだが、ついにこの日が来てしまったかと頭を抱えてしまう。
「何だか浮かない顔だな、紅藤」
「浮かないというか…気が重いというか」
狡噛が抜けた穴を埋めることになったのは雛河ではなく東金だった。せめて雛河だったら良かったのに、と思わずにはいられない。それにこれから来る執行官が実はとんでもない奴だということを誰にも言えずに暫く一緒に働くのかと思うと、どうしたものか。縢は何でも話せる仲ではあるのだが一応は彼の同僚にもなるのだし、その時が来るまでは何も言わないほうがいいだろうと東金の正体は話していない。それにもしかしたら縢や征陸なら猟犬の嗅覚とやらで東金が危険であることに気づいてくれるかもしれないので、こちらから言うのは得策とは思えなかった。しかし鹿矛囲の事件に加えて、東金もどうにかしなくちゃいけないなんて気が重すぎる。常守朱は本当にすごい監視官であると実感する毎日だ。今からでもいい、常守朱を配属してほしい。
「気が重い?今さらどうした。もう新人でもないだろう」
「…何でもないです。忘れてください」
考えても良い考えは浮かばず、気が付けばオフィスに東金が大きな段ボールを持って入ってきた。皆の前で自己紹介をしている。それぞれがよろしく、と一言いっているのに対してララはぼーっとこれから先を考えてしまう。異世界出身だからなのか色相が濁りにくい体質だという自覚はあるがそんな自分のことさえ彼は濁らせるのだろうか、もし縢たちが彼の本性に気づいたら何か反撃に出るのか、などなど。正直、鹿矛囲に構ってられる余裕は有りそうにない。What color?そんなこと考えてるのはお前だけだ…なんて思ってしまうし、鹿矛囲に関しては縢とグソンの手を借りればどうにかなりそうな気がする。
そんなことを考えて一人だけ反応の無いララに気づいたのか、全員への挨拶が済んだ後、東金は段ボールを置いてララの目の前にやってきた。
「宜しくお願いしますね、紅藤監視官」
「あ…はい、よろしくお願い致します」
彼の本性を知っているからだろうか、それとも元々生理的に合わなかったのか…とにかく東金が苦手だと思った。フラッシュバックするのは常守朱の隠し撮り写真だ。彼は自分と宜野座、どちらをターゲットにしたのだろう。すでに下調べをしているのだろうか。恐怖と嫌悪感が沸き上がるが、この先のことや他の一係メンバーのことを考えるとなるべく普通に何てことないように接する必要がある。それにこいつは監視官の色相を濁らす天才と言っても過言ではない経歴だ。縢やグソンの助けを借りて何とか守った“監視官・宜野座伸元”に近づけてはならない。ララはなるべく自然な微笑みを浮かべた。
「わからないことがあったら私に何でも聞いてください」
彼と宜野座がなるべく近づないように…その思いを込めて言った。まぁ、宜野座に限って自分から東金と親しくなろう、だなんて気は起こさないだろうが、東金のほうはわからない。色相の濁りやすさでいえば、ララよりも宜野座が上なのだ。東金は安心したように笑みを濃くした。
「そう言っていただけると助かります」
「執行官の補充は久しぶりですからね。新人が一人だけって大変だと思いますけど、一緒に頑張りましょう」
「こちらこそ、紅藤監視官」
「ということなので、宜野座さんもそのつもりで」
「ふん、すっかり先輩面か」
原作と同じく裸眼で髪は切っているものの、そんなに丸くなっていない宜野座はララを見下ろした。
「宜野座さんほどじゃないですけど、経験は積んできましたから」
「まぁ、そうだな」
この人は本当に慣れると扱いやすいなぁ、と他人事のように思う。でも、だからこそ東金に近づけてはならない…それはもはや使命感のようなものだった。槙島が死んでから一年以上経っているとはいえ、宜野座の犯罪係数は依然として監視官としては少し高めだ。そういうララも低くない数値なのだが、元々この世界出身ではないのでその辺りは楽観的なのかもしれない。縢にもいずれ話す日は来るだろうが、まずは部外者であるグソンに相談と協力を仰いでみるべきだろうか。鹿矛囲のホロの件でも雛河の代わりに協力してもらうつもりなので、連絡は取っておこう。とはいえ問題は山積みだ。東金をどうにかするまでは元の世界に戻ることはできなさそうだと腹を括ることにした。
ヒロインちゃん逞しくなりました。
つづきません。
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