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「やっぱり嫌だ」
高熱で体の芯から冷えたような寒気や全身の倦怠感。その他もろもろで苛まれているというのに、きっちりと拒絶の意志を示すナマエに牧は深くため息をついた。そのため息が、自分への呆れからくるものだということは、口に出さなくてもナマエにはよく分かった。けれど嫌なものは嫌なのだからしょうがない。
ナマエがこれ以上話すことは無いと言うように、ベッドの上でのったりと寝返りを打ち背を向ける。たったそれだけの動作なのに、頭が割れるような痛みが襲ってくるもんだから本当に憂鬱になる。
「使わないと自分が苦しいだけだぞ」
「寝れば治るから」
相変わらず話は平行線を辿る一方だ。
思い返せば、始めはほんの少しの気だるさと微熱感だった。時期的に季節の変わり目でもあるし、風邪の引き始めだと思ったナマエは昨晩はいつもより早めに、それから念の為と牧と別室で寝ることにした。
……のだが、
「そんなこと言って結局治らなかったじゃねーか」
「う……」
牧の言う通り翌朝になっても体調は変わらず、どころか悪化するばかりで立ち上がるのもやっとな状態になってしまった。発汗の量もそこそこあるし、気だるさは重い倦怠感に変わり、布団を被っていても底冷えしたような寒さが襲ってくる。体温を測れば39.2℃となかなかな数値を叩き出した。
生憎今日は日曜日で病院はどこも閉まっていて、代わりに薬箱から牧が見つけ出したのは解熱剤と書かれた紙袋だった。
しかしその解熱剤は、
「座薬なんて別に恥ずかしくもないだろう」
再びため息をついた。
牧が片手に持っている紙袋は、以前ナマエへと処方されたものの結局使わず残った座薬だった。そのまま捨てるのもなんとなく忍びなくて、とりあえず薬箱に突っ込んだ物だ。あんな物さっさと捨てればよかったと、今更ながら後悔するももう遅い。
「いや、だって……」
飲み薬よりも座薬の方が効果が表れるのが早いことは知っているし、さっき牧が使わないと苦しいと言っていたことも最もだと言うことも理解している。ただどうしてもそれ以上に、普段排泄にしか使わない穴から薬を挿入するという行為が受け入れられず、ナマエの中で拒否反応に近い物を生み出していた。体調が悪い事を見かねた牧から入れてやろうかと申し出があったが、自分で入れるとすぐさま断った。これが良くなかった。
「じゃあ買い物に行ってくるから、その間に済ませとけよ」と言い残して外出した牧が不在の間に、一応言葉の通り済ませようとはした。済ませようとはしたのだが、やはり不快が勝って無理だった。結局買い物から帰ってきた牧からは「そうだろうと思った」と呆れた反応をされる始末だ。
「先に言っとくが、オレはナマエの事が本当に心配だから言ってるんだからな」
心優しい恋人の気持ちを痛いほどに感じると同時に、自分の幼稚さを情けなく思いながら瞼を閉じる。
日頃から牧から甘やかされている自覚はある。日常の些細な気配りから、時折見せるナマエの子供じみた我儘まで大概受け入れ付き合ってくれる。
時々厳しさを見せたり拒否することはあっても、それは例外なくナマエの身を案じてのことだった。
今回だってそうだ。
これだけ口煩く言っている理由も全てナマエの事を考えてのこと。
本当に自分なんかには勿体ない人間だと思う。
優しさに答えられない自分に、もはや情けなさを通り越して嫌悪感が募る。
今度からもう少し素直に牧の言うことを聞こう。
──と、その矢先に掛け布団を勢いよく剥ぎ取られた。
「な、なに、?」
「それでも分からないんじゃ、実力行使してでも入れるしかないな」
「え?あっ、さむっ」
ズボンを下着ごと剥ぎ取られ、隠れていた肌が晒され刺すような寒気が皮膚を痛めつける。
紙袋の中身を漁っている牧を惚けた頭で少し見たあと、取り出した物を見てようやく牧が何をしようとしているのか、それから自分の状況を理解しナマエは逃げようとした。
熱で朦朧とした意識では体を満足に動かす事も出来ず、ベッドの上であっさりと押さえつけられ側臥位へと向きを変えられる。
そのまま上側の足を折り曲げられ、普段の行為でもあまり見られたくない部分が丸出しになり、ただでさえ発熱で熱い顔が羞恥で熱くなり頭がクラクラする。ましてや今は牧が座薬を入れるときた。ありがた迷惑に血の気が引いていく。
「やだ!絶対やだ!やめて!」
「すぐ終わらせる」
有無を言わせない言い方と共に個包装を破いて座薬を取り出す。細長く白色のそれを手にしたまま、牧はナマエの窄んだ尻穴に宛がった。
「ひっ!?」
触れた座薬に気を取られる間もなく、尻穴にズブズブと挿入される経験したこともない異様な感覚と異物感に全身が粟立つ。本当にやった、やりやがったこの男。
「あぁぁ……!?」
半ば強制的に入れられた為か、飲み込むようにあっという間に体内に収められたものの拒否をするように反射的に体が強ばる。入口近くに座している異物も、穴から出ないようにと押し付けられている指の感触が括約筋からひしひしと伝わる。
「あんまり力を入れるな。出てきちまう」
「む、むり、むりだってっ」
「落ち着けナマエ、1回深呼吸しろ」
手足をパタパタと動かし、体を捻ってささやかな抵抗をするナマエに牧はあくまでも静かな口調を崩さずに諭す。けれどそんな言葉は「座薬を牧に入れられた」という事実にぶち当たったナマエに届かなかった。
「しょうがねーな」
一瞬、触れていた指が離れたかと思えば再び押し付けられる。今度は滑りを伴った感触だ。多分唾液を指に絡ませたのだろうと気づいたとほぼ同時だった。あろうことか固く閉じた穴をぐにぐにと解すような動きを見せた後、ぬめった指を静かに突き刺した。
「あ、ばかっ、ばかばかばかぁ……!!」
牧の意図を察したナマエはシーツに顔を埋める。多量に絡ませた唾液と極ゆっくりとした挿入のお陰か痛みは無い。ただたださっき挿入された座薬よりも大きい物でこじ開けられ、そこに侵入してくる。内部から感じる質量から察するに、第1関節くらいまで入っているらしい。
まさか座薬を入れられる以上の恥辱を与えられるとは思わなかった。とにかく早く終わって欲しい。やり場のない複雑な感情から呻き声を上げる。
力むと流石に痛いし、何より締め付けて内部に指が存在していることがありありと教え込まれるから、必然的に息を吐き出し体の力を抜くことに集中せざるを得なかった。
「も、十分でしょ、抜いて」
「全部溶けるまでダメだ」
キッパリとした口調で断られる。こうなったら何を言っても無駄なのは十分知ってるから何も言わなかった。もう張り合う気力も削られて無いから諦めて、溶けきるまで指で蓋をされるしかない。
大人しくしているとさっき声を荒らげたり暴れた反動か、また熱がぶり返して頭がぼんやりとしてきた。体だって指先を動かすのも億劫だ。
「それにしても凄いな、中で座薬が溶けてるのがよく分かる」
「言わなくていいっ」
中で溶けている座薬を指先で触れているのか、指を曲げたり蠢いた際の振動が、内側から言いようのない刺激として感じ背筋がぞくぞくとする。奇妙な感覚に戸惑っていると、今度は少しだけ挿抜され指がぬるりと這い出でる感覚に息を飲んだ。
入口の締めつけを解すように動いたり、肉壁の感触を確かめるように指先で揉みほぐしたり。
戯れとも思える動きを繰り返されている内に少しづつ、確実にある変化をもたらしていた。
「……ぁ」
最初は気のせいだと思った。しかし何度も尻穴の中をねちっこく動く指から気持ちよさを僅かながらに拾い始めている。
まさか、と羞恥心に襲われる。ただただ気持ち悪くて仕方なかったのに。何故と考える前にその気持ちよさがまるで、セックスをしてる際に得ているそれと似ていると思い至ってからはもうダメだった。
嘘だ、有り得ないといくら否定した所で、実際に感じてしまっているのだから否定のしようがなかった。
熱に浮かされた脳が膣に指を入れられていると勘違いしているのか、それとも排泄器官でしかない場所だったのに、牧の手腕によって純粋に快楽を感じているのか。
どちらにせよとんでもない変態だ。
風邪をひいて、恋人の前で尻をさらけ出して、その上あれだけ嫌だと言っていた座薬を入れられ、尻穴を弄られて気持ちよくなっているだなんて──。短時間の間に様々な経験をして情緒が追いつかない。
そんな思いとは裏腹に膣口からは快楽の証が滾々と湧き出ていて、恥ずかしさで顔が熱くなる。
ふ、と小さく笑う声が背後から聞こえてナマエは確信した。
やっぱりわざとだ。絶対楽しんでる。
心配しているのは嘘では無いことは分かるし、本心なのは十二分に分かる。座薬を入れるという一大作業が終わり、一段落したからからまるでさっきまでの意趣返しのように指を動かしてナマエの反応を楽しんでいる。きっとナマエの体に起こったはしたない変化なんて、牧からすれば既に手に取るように分かっていることだろう。そもそも位置的に丸見えなのだから。
こんなことはさっさと終わらせるなければと、一抹の希望にかけてナマエは抗った。
「ねぇ、お願いだからほんと抜いて」
「さっきも言っただろ。まだダメだ」
「いいからっ」
「感じてるからか?」
「ちがっ……!?」
やはり、と言うべきか全てお見通しだった。
図星を指摘され咄嗟に否定をするも、濡れそぼった割れ目を親指の腹でなぞられる。たったそれだけでもぞくりとした甘い刺激が背筋を駆け抜ける。
「違わないだろ。こんなに濡れてるのに違うのか?」
「あっ、やめ、」
「びしょ濡れだぞ」
肉ビラを掻き分け、埋もれていた膣口に指の腹を浅く触れるだけで小さな水音がした。ちゅくっ、くちっ、と鈍いはずの脳が嫌にはっきりと音を拾う。そのまま押し付けるだけでも挿入を許してしまいそうなくらいに愛液が溢れていて、ナマエは目眩がしそうになった。
「こっちを弄られて濡らしてるんだったら、ナマエには素質があるのかもな」
冗談じゃない、そんなことあるわけが無い。
必死に否定するナマエを他所に後ろの穴に挿入している指を、さらに奥まで入れられ反射的に締め上げた。
割れ目をなぞっていた親指が、その延長線上にあるクリトリスをわざとらしく掠めて思わず声が出た。
本格的にヤバいと感じて、這ってでも逃げ出そうとして腕を伸ばすも恐ろしく腕が重い。シーツの上に投げ出すように置かれた手は布地を掴むだけで精一杯で、逃げ出すなんてことは到底無理に等しかった。
「ぁ゛……、…いっ、や…だァ…!」
掠れた声で拒絶をするも牧の手は止まらない。
もはや愛撫と言っても過言では無い手つきから得体の知れない快楽を教えこまれてじわじわと高められ、これ以上続けられたらと考えるだけで恐怖が滲み出る。こんなのおかしくなってしまう。けれど同時にその得体の知れなさに淡い期待も含まれていて、体が待ちわびているように火照っている。
「ふぁ、っ」
首筋を唇が触れ、擽ったさが込み上げる。触れた箇所を舌で舐め上げ少しだけ吸い付き、空いていた手の指先で半開きになった唇を、顎のラインをすりすりと撫でられ甘い感覚がナマエに訪れる。
違う、これはセックスじゃないとまるっきり勘違いしている体に必死に言い聞かせるも、発情しきっていてまるで聞きやしない。
緩やかに内部で動いていた指も、少し大胆に抽挿を繰り返している。いつの間にやら指の付け根まで入るようになったらしく、指先ギリギリまで抜き、根元まで挿入をゆっくりと繰り返していた。
特に引き抜かれた際に感じる気持ち良さは段違いで、排泄をしているかのような背徳感も相まって、抜かれる度に喉奥から唸るような声をあげてしまっている。ナマエが必死に声を出さないようにシーツを噛んでまで耐えていても全く意味は無かった。
「ぅあ、あ゛……ッ!」
つぷり、と遂に膣口に親指が挿し込まれる。
挿入は浅いものだったが、ずっと待ち望んでいただけあって歓迎をするようにぎゅうぎゅうと締め付け、さらに奥へと誘おうとナマエの意志とは無関係に肉壁を蠕動させている。
前と後ろ、2箇所の穴に刺さっている事を感じ取って欲がさらに掻き立てられ腰が動いてしまう。
もっとぐちゃぐちゃにされたい、して欲しい。
風邪をこじらせて調子がこの上なく悪い筈なのに、そんな思いが芽生えてしまう。相当な痴れ者なのだと思う。
こんなことになったのも熱のせいだ、牧のせいだ、自分のせいじゃない。
目を逸らして理由を押し付けたところで、自分が何をされたいかを認識してしまえばもはや抗うことなど出来るはずもなく、体は更なる悦楽を求めていた。
それにしたって牧も酷い男だ。
調子の悪い彼女のお尻をいじくって未知の快楽を開拓させて、欠片もなかった情欲を呼び起こしてくるのだから。絶対に後で文句を言ってやる、そのあと当分の間口をきいてやらない。
けれどその前に、この体の内側で燻っている情欲を発散させて欲しい。自分ではどうしようもない所まで昂ってしまっている。穴を隔てている肉壁を両側から擦り上げられれば背が仰け反る程の刺激が襲う。
「あ、ああっ……くぅ…ッ!!」
もう我慢の限界だった。このまま身を任せて、あと僅かというところで指が両の穴から抜去された。途端に訪れるぽっかりとした喪失感。
なんで、と思わず振り返れば、なんの事やらと何食わぬ顔をした牧がこちらを向いている。
「全部熔けたからな」
指を抜くのは当然だろ。
と言って、側にあったタオルで手を拭いた後に手際よく服を着せていく。切り替えの速さについていけないナマエはなされるがままで、さっきまで着ていた着衣も掛け布団も全て元通りになった。
ただ1つ。牧によって焚き付けられた欲が身の内で燻っている以外は。
「さいってー……!」
「なんの事だか」
してやられた。ここまでしておいてお預けとは。
「飯作ってくる」と言い背を向けて去る牧の姿を見送る。
自分でこの燻った火種を消火する体力なんてあるわけがないので、悔しさやらやり切れなさと共にナマエは布団に包まる他なかった。