――ある日のサウザンド・サニー号内
太陽が真上に昇った頃だろうか、周りは雲ひとつなく爛々と船を照らしていた。気温はそこそこに高く、船員達の体力を奪っていた。
「あぢぃ〜〜・・・」
「ぜんっぜん釣れねェなぁ・・・・・・」
食糧調達の為、釣りをしているルフィ、ウソップ、チョッパーの3人は柵に顎を乗せて、その暑さで溶けるように突っ伏していた。
「御三方、大丈夫ですか?」
後ろから気配もなく声がかかり、ビクッと身体が跳ねる。声の主はこの暑さに何とも思わないのか、相変わらず長袖を着ており、長袖から見える手は、日で焼けるということを知らなさそうなくらい白く、キョトンと首を傾げていた。
「おまっ・・・!ナマエ、暑そうな格好だなァ!」
「近寄るなよ〜、暑さが移る!!」
「おれ、もう、ダメだァ・・・・・・」
三者三様な反応にナマエは思わずくすりと笑みを零した。
チョッパーなんてほぼ溶けかかっている。
ナマエは「この暑さだと、魚達も深海まで潜っちゃってるかもですねぇ・・・」と思案した様子でさて、どうしたものかと考える。暑い時の旬な魚はあるものの、それが釣れるかと言われればそう簡単にいくはずもない。
船に乗せてもらっている限り、その船の為に働くのがナマエの主義であり、働かず者喰うべからずとはよく言ったものだ。
「ナマエ、荷物運ぶの手伝え」
「はーい」
ナマエは調理場の方から声がかかると、悠々と駆けていく。暇を持て余していたので、ちょうど良かった。
「サンジさん、中々お魚達は釣れないみたいですよ」
「まぁ仕方ねェ。今夜はある物で作るしかねェな」
サンジは調理場の物を整理していたらしく、中は木箱や樽で散乱としていた。
だが物が散らばっているだけで、食材の保管や室内は清潔に保たれており、サンジの食に対してのこだわりは流石にコックと言うべきか、もしかしたらそれ以上かもしれない。
そして恐らくだが、私が乗ってきた船の中でも一番美味い飯を作る。見た目の華やかさもそうだが、とにかく美味いのだ。
「・・・ナマエは好きな食いもんあるのか?」
荷物整理を一緒に手伝っているとふと質問が飛んできた。サンジの表情は見えない。ぶっちゃけ言うと、食べられれば何でもいい。幼い頃も立場上、好きな物を食べられる状況ではなかったし、船を転々としていた時も出されるのは貧相な食事ばかり。食べるということに対してあまり関心はない。
この船に乗らせてもらってからは不自由なく、いつも豪勢な食事をいただいている。寧ろ贅沢している気分だ。
「ん〜・・・食べ物に好き嫌いはなくて。飢え死にしない程度であれば何でも食べますかね」
何ならその辺の草を食べたりもあったなぁとナマエはしみじみ思い返す。そんなことをしていたからロブロブの実を食べてしまったのだけれど。
サンジはそれに対して眉を寄せた。そういえばこいつ・・・とナマエの境遇について察する。
「あ!でも・・・強いて言うなら、リンゴが好きかも」
ナマエはその辺の草を食べた時に、赤く輝く林檎がなっている木を見つけ、幼子ながらに必死にそれを手に入れ、食べた時には飢えもあったからか林檎の甘酸っぱい味が口内に広がり、感動したのを思い出す。
「リンゴ・・・」
「はい!初めて食べた時に飢え死にしそうだったので、その味にはとても感動しましたね」
サンジはやはりナマエの境遇に対して若干苦い顔をする。当の本人はのほほんと大したことではないというようだが、飢えというものをよく知っているサンジからすれば、どれほど辛くて苦しくてしんどかっただろう。
無意識に荷物を持っている手に力が入る。
「それが・・・どうかしたのですか?」
「あ、いや別に何でもねェよ」
ナマエはサンジの読み取れない表情に疑問を持ち、顔を覗き込むも直ぐに距離をとられ、頭を撫で付けられた。この手であんなに素敵な食事と、どんな食材も華麗に変身させてしまうのか。ドキドキと少し心臓が脈を打った気がした。
「ふふッ」
「あ?何だ、にやけた面して」
「いや!サンジさんって魔法使いみたいだな〜って!!」
「はァ?」と言いたげに彼の素敵な眉毛が上に上がるもナマエは楽しそうに続けた。
「私、生まれてから本当に食事に興味なかったんですけど、サンジさんのご飯食べてからかな〜。食事もここ最近の楽しみなんです。」
いつもの不適に笑うような表情でも、試すような嫌な笑みでも、苦しそうな笑みでもない。ニコニコと楽しそうな、鼻歌でも歌いだすようなそんな笑みにサンジは目が離せなかった。
「今日のご飯も楽しみにしていますねッ!」
ナマエは最後の荷物を指示された場所に置くと、キッチンから出ようと歩みを進めた。
その時、ぐいッと後ろから手を引かれ、バランスを崩す。あ、危ないと思ったが直ぐに煙草の香りが鼻を掠め、後ろから人肌に包まれる。
「さ、サンジさ、ん・・・!?」
気付いた時にはサンジに後ろから抱きしめられていた。
ナマエは距離の近さと、慣れない抱擁に先程とは違った鼓動の早さを感じていた。顔がかぁッと熱くなり、離れようと思うも、ぐっと力を込められる。
「・・・おれが、美味ェもん死ぬほど食わしてやっから、だから―――」
「・・・・・・サンジさん?」
その先を紡がない彼に戸惑い声をかけたが、突然バッと離され、前のめりに転びそうになり、たたらを踏む。
「手伝ってくれてありがとな。・・・ほら仕込みの邪魔すんな」
彼はナマエに背を向け、出ていくよう促す。少し様子の可笑しい彼に疑問を持つも、確かにこれ以上いても彼の邪魔になるだけだと感じたナマエはペコッと一礼するとキッチンから出ていった。
それを背後の気配で感じ取ったサンジはドアがバタンと閉まると、ズルズルとしゃがみこんだ。
「あー、クソッ・・・何してんだ、おれ」
ぐしゃりと自分の前髪を荒々しく掴む。自分が発言しようとした言葉を咄嗟に引っ込めて正解だった。少し早い心臓の鼓動がもっと早まるところだった。
『だから―――ずっと、ここにいろよ』
あまりの自分の女々しい言葉に反吐が出そうだ。ナマエの滅多に見ることのない笑顔に大きく胸が高鳴ったのは事実で、少し、ほんの少しかわいいな、と思ってしまったのだ。何だか捕まえておかないと誰かに取られてしまうような、そんな気さえもした。
「・・・まぁ、悪くはねェな」
サンジは立ち上がり、夕飯の準備に取り掛かる。ドキドキはしているものの、この温かい気持ちは何だか心地よくて、気分がいいのだ。ネクタイをキュッと整えると、彼は冷蔵庫にある'赤い果実'を取り出した。
「ねェ、サンジくん、今日なんか・・・リンゴ料理多くない?」
「え!あぁ、まァ・・・リンゴが結構余ってたからさ」
「ふーん」
ナミは彼が一瞬'誰か'さんに目を配ったのを見逃さなかった。本人はキラキラとした顔で美味しそうに食事を楽しんでいる。サンジは煙草に火をつけるとナミから逃げるように野郎共の相手をしに行った。
「これは・・・・・・難儀ね」
「ふふッ」
女性2人の楽し気な笑い声が聞こえた。
前サイトからいただいたリクエストでした!
リクエストありがとうございます。
やっと消化できます・・・!
サンジとのリクエストがかなり多く、今回書かせていただきました。
夢主に惹かれ始めている感じのもどかしい時期、かな?そういう時期かなり好きです。