09



麦茶を入れ終わり2つのコップを手に持ち2階に上がる。いくら幼なじみとはいえついさっき宣言したばかりだ。危機感くらいはもっていてほしい。
しかしそんな願いは部屋で見た光景で呆気なく無くなってしまう。


「……寝てんのかよ」


ベッドの上ではすやすやと気持ちよさそうになまえが寝ている。ベッドの隣に腰をかけると髪を持ち上げてかき分けると気持ちよさそうに寝ている。
ーー本当に危機感っていうのはコイツの中にあんのかよ。

なまえとはいつも一緒に居て何をするにも必ず一緒に居た幼なじみだ。その当たり前が小学校に上がってから早々に担任の先生から"転校"を告げられる。彼は何も知らなかったのだ。これから先もずっと一緒に居て。これから先も一緒にヒーローを目指す過程で一緒に過ごすのが当たり前で居た。居て当たり前の存在だった。そう思っていたのに。
その言葉を他人から知らされるとそれは酷く彼を荒立てた。連絡先も住所も分からぬままただただ彼女が忘れられないで居た爆豪はこの約9年間余計な思いは忘れようとヒーローになることに専念した。だが、またなまえに出会うことになる。忘れてた。忘れようとしてた感情がまた出てきてどうしようもなくなる。




「ん、かつき、くん?」



ぼやっと眠たげに爆豪を見つめるなまえについ手が出そうになる。だが平気で男のベッドで寝れてしまうなまえに苛立ち始めてしまう。昔と今は違う。子供ではなくもう男と女という区分になってしまったのだ。だからこそ平気で寝れてしまう彼女に苛立ってしまう。



「……さわっていいか」
「ん、どうしたの、」



どうしただなんてこっちが聞きたい。大事にしたいのになまえの前だと焦ってしまう自分がいる。寝転んでいるなまえの頬に手を添えて愛しそうに見つめる。未だに目が覚めていないなまえもこれがどういう状況なのかはわかっていない。



「ふふ、かつきくんあったかいね」
「…寝ぼけてんのか?」
「んーん、人間カイロみたい」
「…俺をカイロ扱いしてんじゃねぇよ」
「んー、どうしたのかつきくん」
「……」
「ん、っ?」



唇が重なる。その感触がリアルでなまえも途端に目が覚めてゆく。



「ま、っ、ん」
「……なあ」
「っ、な、に」
「嫌、だったか」
「え、」


ーー嫌って言うのは今したキスのことだろうか。



「……嫌、ではないと思う」
「そーかよ」
「んっ、ま、待って!それにいきなりしてくる意味がわかんなっ」
「黙ってろ」
「っふ、う」


何度も角度を変えてキスをしてくる爆豪に何がどうなってるのか分からないでただそれを受け入れてしまう。嫌ではない。ただそれだけで。彼を押しのけないでいる。



「んんっ、か、つきく、」
「……」
「っ、付き合ってもないのにこんなのおかしいよ…っ」


うっすら涙を浮かべ爆豪から顔を背けたなまえが言う。



「……」
「勝己く、」
「…………俺と付き合え」
「………ストレートすぎない?」


あまりにもストレートな爆豪の言葉に思わずきょとんとしてしまう。彼らしいと言えば彼らしいが。



「好きだとは言ってくれないの?」
「あァ!?」
「や、だってそれっぽいことは言ってたけど…!」
「じゅーぶんだろ」
「ええ…」
「昔っから俺の気持ちは変わってねえよ。
…じゃなきゃこんなこと好きでもないやつにしねえわ」
「……勝己くんって意外と一途?」
「テメェもだろ」
「え」
「違うんか」


なにかに見透かされた言葉で言われて素直に頷けないでいる。
ーーそんな事言われてもまた休みが終われば会えなくなる。
それを考えるだけでもつらなくなってしまう。



「……私、また行かないとだよ」
「時間できたら会いに行く」
「私意外と寂しがり屋」
「んなら連絡取りゃいいだろ。つか今に始まったことじゃねえ」
「なにそれ。わがまま言うかもよ」
「上等だ。つーか、言えよ」
「え、意外なんだけど…」
「は???」
「ひぇ、すぐ睨まないでよ!」
「ッテメェがアホなことばかり言うからだろ!!」
「私が悪いの……?」

「ッチ、もういいだろ」
「うわー、上手くできるかな私、」
「なるようになるだろ。それにヒーロー目指してればまた会えるんだろ?」
「確かにそれは言ったけど…!」
「つか、元から卒業して実績詰んだら迎えに行く予定だった」
「え、だってもし私がヒーロー目指してなかったらって考えなかったの?」
「あ?ねェだろ。ヒーローに憧れてたのは俺が1番わかってる」
「…勝己くんには叶わないなぁ」


もしもだなんて言葉は彼にはなかったのだろうか。別々にヒーローになってもまた見つかった時にいつでも彼の隣に立てるように爆豪なりに準備を進めていてくれたようだ。


「遠いなんて今のうちにだけだ」
「そうかなぁ。でもまあ、元から卒業したらこっちに戻ってくるつもりだったからいいのかな?」
「……なら問題ねえだろ」
「……そういうことになる、よね」
「卒業したら嫌でも一緒になるだろ」
「それって、」
「一緒に住むぞ」
「ちょ、直球すぎる…」
「だから今だけだって言ってんだろ!!」
「うーん、そっか。あ、でも浮気したら許さないよ」
「っは。テメェもな。したらぶっ殺す」
「……洒落にならない」


少し笑い会うとお互いに目を合わせる。いつの間にかまた引き寄せられれるようにキスをすると2人は幸せな笑みを見せた。先のことなどわからないが今は互いに頑張る目標ができた。今の彼女達にはそれだけでも充分だった。





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